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番外編 男として(3)

 

 具体的な餌とはよく言ったものである。

 唇を噛み締めながら、きつく牢の前の二人を睨みつけた。

 

「それとも自分たちの事情を甘ちゃんなうちの王子サマにお話しして、同情してもらう? うちの王子サマは本当なら甘いよぉ? 嘘の身の上話でも、カワイソウだったら同情してくれると思うよぉ? ふふふ、ねぇ、話してみたらぁ?」

「だ——誰がっ……!」

「あ、そういえばぁ〜、宇宙ってエネルギー生産力も落ちてるんでしょぉ? バカだね〜、エネルギー生産力が落ちてるのに戦艦部隊や衛星兵器や大量のドローン投下なんてしちゃってさぁ。そもそも地上の人間たちって、お前らのせいで結晶病に苦しんできたってことなんだよねぇ? じゃあ別に助ける必要なくない? 魔力生産力が安定すれば、宇宙のエネルギー問題とかシカトしてもいいんでしょ?」

「そ、それはまた話が別というか……」

「っ!」

 

 エネルギー問題のことまで口を出してくるとは思わなかった。

 確かにここ三百年ほど、エネルギーの生産量が落ちている。

 これまで使っていた原発や火力発電などから得られる電力が半減してあるのだ。

 やり方は変わっておらず、むしろ科学の進歩で効率は上がっているはずなのに。

 そのため発電所は数を増やすしかなくなり、そのための人手や整備ドローンが増え、より多くの電力が必要となる——という悪循環が起こっていた。

 地上は『自然魔力』と『結晶魔石(クリステルストーン)』なる未知のエネルギーがあり、それを用いて魔法を使い、生活を保っている。

 その研究もまた行われ始めているが、現時点でわかっていることは、それが地上にしか存在しないということ。

 宇宙に連れてきたセドルコの難民やセラフィは、地上を離れたら魔法を使えなくなっていた。

 いや、最初は僅かに使えたいたのだが、『体内魔力』というものを使い果たしたあとは宇宙の民と同じく魔法は使えなくなってしまったのだ。

 本来体内魔力を使い切ると自然魔力をゆっくり取り込んで体内魔力を回復するらしいが、宇宙には自然魔力がないため回復しなかった。

 

(まさか地上には、宇宙のエネルギー問題も解決する手立てがあるというのか……!?)

 

 目の前にはデュレオ・ビドロ。

 延命治療の方法や、エネルギー問題の解決。

 なるほど、実にいい“餌”だ。

 むしろ、まだ引き出しがあったことに驚きを隠せない。

 

「解決したい? したぁいよねぇ? でもお前らは負けちゃったしぃ、この情報を持って宇宙に戻っても、宇宙全軍で襲いかかってきてもきっと勝てないよねぇ? だって、どんなに科学が進歩していても、ギア・フィーネにハッキングされて結晶化した大地(クリステルエリア)に落ちちゃったら死んじゃうもんねぇ? クスクス……だいじなだいじな“いのち”が、無駄になるねぇ。たくさんたくさん。もっとたくさん差し出さないと勝てないかな? これ以上差し出しても勝てなかったら? ねぇねぇ、お兄さんたちはなんのために戦ってきたのかな? なんのために戦えるのかな?」

「……!」

「地上に基地を作って本格的に侵略してみるかい? でもそれってさぁ——地上に降りるってこと。降りるってことは、降りたやつらにも結晶病が発症するようになるってこと」

「えっ」

 

 クスクスと、笑う。

 目を細めて、心底楽しそうに。

 それを聞いて愕然とする。

 地上に降りれば、それは——今度は、結晶病が短命な宇宙の民を襲うということ。

 地上の民が千年脅かされてきた恐怖の病。

 宇宙には魔力がない。

 それはつまり、聖女もいないということ。

 聖女がいないということは、治療方法がないということ。

 まったくもって巧みな話術である。

 的確にこちらの弱さを抉っていく。

 

「ね? お兄さんたちは詰んでるねぇ? ねぇねぇ、まだ意地、張る? それ、時間の無駄だと思わない? お兄さんたちは時間が有限なんだから、有効活用した方がいいんじゃない? 俺は不老不死の化け物だからー、お兄さんたちが寿命で死んでも別に困らないんだけどぉー、今俺が言った情報の断片を知ってるのはお兄さんたちだけなんだよねー」

「……っ」

「延命治療を受けてるルーファスお兄さん以外は、まだ医神の治療を受けてないんでしょ? ……それってさぁー、いつ死んじゃうのかわからないってことなんじゃない? お兄さんた・ち・は」

「「「……!!」」」

 

 ルーファス以外の三人の顔色が変わる。

『マレディツィオーネ隊』は十代後半で構成された若者だけの部隊だ。

 それはセドルコ帝国を、時間をかけて侵食していく作戦だったから。

 けれど、ルーファスとクロンの妻は同年代で寿命でなくなっている。

 体が弱いのに妊娠と出産を果たしたことが負担だったこともあるだろうが、それにしても短かった。

 ルーファス以外の三人は——宇宙の民は、明日急に寿命で死んでも不思議ではない。

 アイランが力なく鉄格子から手を離す。

 恐怖に顔を引き攣らせ、青ざめながら。

 

「クスクス。カワイソウー。ねぇねぇ、うちの王子サマに話してみたらぁ? カワイソウだから、教えてくれるかもよー? でもさぁー、それってなんかずるいよねー。勝手に攻めてきてさー、ごめんなさいもしないでオレタチはカワイソウだから助けろって人にモノを頼む態度じゃないよねー?」




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