番外編 男として(2)
だが、実際二号機と五号機は戦闘記録が異様だった。
だがそんなことが本当にあり得るのか。
最初にルオートニスへの攻撃を仕掛けた際、二号機が戦艦部隊をギア・フィーネ特有の機能『ハッキング』で結晶化した大地に移動させて降下させた。
クロンの弟、トリアがなす術もなく敗北して囚われた相手も“ラウト・セレンテージ”の疑いがある五号機である。
もしも仮説が正しければ、千年前の歴戦の登録者が相手なのだ。
脅威度が同じどころか、跳ね上げて然るべき。
しかも一号機と三号機、四号機の稼働も確認されている。
実際ここの四人は四号機に倒されてここにいるのだから。
だが、四号機の登録者はここにいるルオートニスの王子である可能性がある。
現代の地上人だ。
それを考慮すると、一号機と三号機の登録者も現代の地上人の可能性が高い。
二号機と五号機よりも脅威度は下がるはずなのだ。
それなのにこの体たらく。
地上の重力に慣らしてきたはずなのに負けた。
それだけギア・フィーネが異様とも言えるが、それでもやはり千年前の登録者が生きているとしたらそれは別の可能性が生まれる。
特に、シズフ・エフォロン。
共和主義連合国軍ミシア軍所属の——強化ノーティス。
(確認したい。本当に『シズフ・エフォロン』ならば、強化ノーティスの寿命をどのように克服したというんだ!?)
やはりギア・フィーネの登録者だから、なのか。
それとも別になにか特別な方法があったのか。
ギロリと牢の前にいる二人を睨む。
「シズフ・エフォロンは共和主義連合国軍ミシア軍の強化ノーティスのことか? 千年前の人間がなぜ現代に生きている?」
「え」
「クスクス。教えてもいいけどぉ、そこに宇宙の民が求めるような都合のいい答えなんてないよぉ? それにお前ら五号機の坊やのこと怒らせちゃったじゃーん。セドルコの難民を宇宙に受け入れちゃったから、ある意味もう遅いけどねぇ」
「……!? ど、どういう意味だ!?」
ルオートニスの王子が「あーあ」と言わんばかりに頭を抱える。
そういえばこの王子はデュレオ・ビドロのことを「優しくて残酷」と評していた。
つまり宇宙の民が願う短命化の解消には、多大な——それこそあの五号機の登録者らしき少年の助力が必要不可欠である、と。
だが、セドルコの難民を受け入れ地上人の寿命を取り込むこととそれに、いったいなんの関係があるのか。
「王子サマは優しくて甘ちゃんだから、一号機の登録者の医神がちゃんとお前らの治療方法が確立してから教えるつもりだったんだよ。でもね、交渉するなら具体的な餌を撒かないとダメ。建前や理屈で話がまとまる段階は過ぎてる。それにロス家の坊ちゃんがすでに治療を始めて、効果もある程度確認できているんでしょう? なら、次の段階に移ってもいいと思うなぁ。ナルミにも言われてるでしょ?」
「うっ……で、でも……」
「ラウトはともかくギアンのクソ野郎はセドルコの難民が宇宙に大量に取り寄せられたのを、これ幸いとすぐにでも動き出すはずだよ。まったく、わざわざ病原体を大量に取り寄せるなんてなーに考えてるんだか。まあ宇宙のやつらも、それだけ追い詰められてるってことなんだろうけど……」
「ど——どういう意味だ!?」
不穏な言葉ばかり並べられる。
それにアイランが鉄格子にしがみついて聞き返す。
(これが、デュレオ・ビドロ……! クソ! 完全に嵌められた!)
こちらが興味を示す話題を惜しげもなく並べ、肝心なところは教えない。
実に効果的だ。
向こうからすればアイランの反応はほしかったモノそのものだろう。
長い袖の隙間から、ニタリと弧を描く唇。
ここまでくれば、ルーファスでなく他の三人から妥協を引き寄せるのは容易かろう。
「教えてあげてもいいよぉ? でも、じゃあそっちはなにを差し出せるのかなぁ? 力で敵わなかったら、宇宙ではどうするの? 君たちの態度を見てればわかるよぅ? 服従するしかないよねぇ。生き延びるにはそれしかないんでしょぉ? 寿命が縮んで個体数を増やすのに一生懸命なんでしょう、宇宙は。殺すのもったいないもんねぇ。お前たちもそうやって生き延びてきたんでしょぉ?」
「くっ……」
「敗者は、どうするのが正しいのかなぁ? ほら、教えてごらんよ。答えが面白かったら一つくらい聞きたいことに答えてあげてもいいよぅ? 王子サマは優しいしねぇ」
苦い顔だ。
デュレオ・ビドロ以外の全員が渋い表情になっている。
唯一愉しくて堪らない、という表情のデュレオ・ビドロ。
ルオートニスの王子がこれまでルーファスに対して提案してきたのは、宇宙技術の提供と和平条約、不可侵条約の締結。
もちろんルーファスの一存では決められないので、それを“上”に届けてほしい、というもの。
上とでなければ直接交渉できないからだ。
そして、それが妨げられるのならばある程度協力はする。
また、ルーファスを治療した『医神』による医療提供。
それはルーファスたちが喉から手が出るほど欲していた、延命治療。
それを一人だけ受けてきたルーファスは、まだ人体実験の域を出ないだろう。
だが、これからあの処置をより多くの人間が受けられたなら——。