実技
最後は実技。
現在の実力を測定し、理想と現実を突きつける。
それと同じくおおよその自分の進路希望の基準にするのだ。
しかし、これもまた平民には酷な測定検査となる。
なぜなら平民たちは自分の魔法適正属性を、今さっき知ったばかり。
そもそも魔法を習っていないのである。
それなのにいきなり「ハイ、魔法使ってください」は残酷すぎやしないだろうか。
ほら見ろ、後ろの方でみんなめちゃくちゃ俯いている。
教わってないのに魔法使え、とか恐怖でしかない。
これも聖殿の意向かぁ。
平民に貴族との差を、明確に理解させ、反抗心を奪う——。
やり方がえげつねぇんだよなぁ。
……仕方ない。
「では、まずはヒューバート・ルオートニス殿下」
おい、さっきと先生たちが違うぞ。
ああ、ジェラルドの魔力適正見て腰抜かしたり顎外れたりしたから?
大変だなぁ。
「先生、俺とジェラルドは免除してもらえませんか?」
「おや、なぜです? 自信がないのですか? 大丈夫ですよ、みんな最初は大した威力が出ないものです」
「いえ、そうではなく。俺はともかくジェラルドが本気を出すと、多分訓練場が跡形もなくなるので」
「え?」
「本気で魔法、使ったことないからぼくも危ないと思うなぁ〜」
「「…………」」
二人の先生は、これまでの測定結果の書かれた紙を見下ろす。
そして、俺とジェラルドをもう一度見る。
「そ、そうですか。確かにお二人の魔力量も適正属性も素晴らしいですからね……ええ、お二人は免除ということにいたしましょう」
「賢明なご判断、痛み入ります」
言葉がおかしい気もするが、訓練場と教師たちの無事を思うとこの言い方が一番適正に思うのだ……。
さて、俺とジェラルドは免除してもらえたので、平民たちの方に近づく。
「え、あ」
「お前たち、一番簡単な魔法を今からジェラルドが教えるから検査の時に撃つといい。闇属性と無属性の者はいるか? それらは俺が教えよう」
「え! で、殿下たち自らですか……!?」
「魔法の暴発をされたら困るからな」
ふふふ、どうだジェラルド。
偉そうな喋り方、俺にもできるようになったんだぞ。
ドヤ顔でジェラルドを見上げるがにっこり微笑まれる。
どういう意味の笑顔だそれ。
「じゃあ、火属性の人は右手見てて、水属性の人は左手見てて。火属性の人、炎を手のひらに着けるイメージ。水属性の人ら手のひらで水泡を浮かべるイメージ」
「わ、わあ!」
「右手に炎、左手に水が!」
「よいしょ。次は風属性の人は右手見てて、土属性の人は左手見てて。風属性の人は小さな風を指先で起こすイメージ。土属性の人は土を盛り上げるイメージ」
「わぁー! 火と水の塊が宙に浮いてる!」
「嘘だろ、そのまま風の球と足元の土が盛り上がっていくぞ!?」
どうだ! 平民どもよ! うちのジェラルドは! チートすぎだろう!?
属性がないのとすでに『聖女の魔法』実績のあるレナも、俺の隣でジェラルドの魔法を見ながらニコニコしている。
ジェラルドの実力が認められてるみたいで嬉しいもんな。
「お前たち、驚いている暇があったら自分達で試してみるのだ! 言っておくがジェラルドは魔法の天才だから、こうして四属性を同時に扱えるのだぞ。氷と雷も同じだ! 自分達の適正属性で試してみるといい。イメージだ、イメージ!」
「イ、イメージ……」
「よ、よーし、殿下たち直々に教えてくださっているんだ……やってみるぞ!」
「お、おれも!」
「私も!」
うんうん、初級魔法は割と簡単にできるし大丈夫大丈夫。
消費魔力もほとんどないしなって——。
「ちょっと待て! お前たち、杖は!?」
「え?」
平民の誰も杖を持たず、魔法を使おうとしていて驚いた。
しかしよくよく考えれば、杖もまた魔道具。
平民がおいそれと入手できるものではない。
つまり——。
「我々は杖を持っていませんし……」
「殿下の従者の方もお持ちでないようなので」
「ジェラルドは特別だ。見ろ」
はい、とジェラルドが腕輪を見せる。
魔力量が破格のジェラルド専用の魔道具。考案:俺。
多すぎる魔力量をきっちりMP100ぐらいに制御する効果がある。
レナと一緒に治療出回っている時に、魔力を出しすぎて最後の一人に足りなくなったことがあるからだ。
幸い翌日にその人は治癒できたけど、ジェラルドの魔力量を制御することで救える命が一つ増えるかもしれないと思うと居ても立っても居られなかったんだよ。
そしてジェラルドが魔法を使う時に使っているのは杖ではない。
銃だ。考案:俺。
剣が苦手で接近戦より魔法による長距離攻撃が得意というので、軽いノリで「こんなのは?」と適当な絵を描いて見せたら「わあ、作れそう!」とジェラルドがあっさり現物を作った。
多分前世の銃とは色々違うと思う。
なにしろ銃口の上に杖の先端がついている。
事前に幾つかの魔法を構成し、封じておき、リボルバーを回して事前に封じておいた魔法をセット。
引き金を引くと銃口から出てくる。
みたいなやつ。
特別製すぎて人に見せられないし、どうしよう?
「仕方ない、俺の杖を貸そう。試験を受ける者で使い回すといい」
「よ、よろしいのですか!?」
「俺の杖は“無属性”だから誰にでも使える。闇属性の方の杖は、貸せないけど」
「殿下が自らの杖を貸してくださるなんて……!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
喜んでいるところ悪いが、杖も使い方を教えておかなきゃならない。
まあ、これは全員に一度で説明できる。
無属性杖を取り出して、初級魔法の魔法陣を地面に描いて見せてやればいい。
初級魔法の魔法陣はすべての属性で共通。
使う者の適正属性と、杖の属性で使える魔法は変わる。
まあ、たとえば闇属性の俺の場合火属性の杖を使えば火魔法が使えたりするが、火属性の誰かが俺の闇属性杖で魔法を使うと失敗して事故る、みたいな話だ。
雷と氷は基礎の四属性より適正判定が厳しいらしくて、杖の属性だけでなく使い手の適正属性も重要となる。
闇と光はそれよりさらに判定が厳しい。
平民たちはみたところ、みんな基礎の四属性。
無属性杖で問題なく初級魔法を使えるだろう。
「事故を起こさないように気をつけるんだぞ」
「はい!」
とりあえず火属性の者たちに集まってもらい、杖を中心にみんなで掴んでもらい、火魔法の初歩、[着火]を覚えてもらう。
次に水属性の者たちに同じように杖を囲んで掴んでもらい、水魔法初歩[水球]を作り出す。
それを風と土でも繰り返していると、先生たちが平民の名前を呼び始めた。
俺の杖を貸してやるので、皆、問題なく初級魔法を打ち出すことができている。
「しかしやはり魔力量が少ないからしょぼいな」
「んふふふ」
「うふふふ」
「え、なに?」
左右でによによするジェラルドとレナ。
意味がわからなくて怖いんですが。
「なんでもないよね〜」
「はい、なんでもありません」
「ええ……?」
左右からぐいぐいくる。
本当に、なに?