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番外編 男として(1)

 

 その日、突然ルオートニスの王子が現れる。

 初めて会った時とどことなく雰囲気が変わり、穏やかなのに静かで、人ならざるもののような空気を纏っていた。

 彼は手枷をしたままのルーファス・カナタを大きな牢へと連れて行く。

 左右前後はもちろん兵に囲まれ、間違っても王太子に危害が加えられないようになっている。

 大きな牢に移動ということは、今日からは集団行動か。

 これも揺さぶりの一つだろう。

 この王太子は、宇宙との和平などと夢物語のようなことをルーファスに語って聞かせる。

 こんな変な宗教を騙る詐欺師の言うことなど、誰が信じるものか。

 どうせ本部からは切り捨てられている。

 捕虜からこの国の民として帰化し、情報を集めていつか宇宙へ帰るのだ。

 帰って、娘に会う。

 それを目標に、頑なにルオートニスの王子の誘いを断り続けていた。

 だから大部屋でストレスを与えて、こちらの譲歩を引き出すつもりなのだろう。

 最初はそう、思っていたのだが——。

 

「な! クロン、アイラン!? ソラウも!? まさかお前たちも捕虜になったのか!?」

「ルーファス!」

「お前、生きていたのかよ!」

「わーん! ルーファスさん〜! あたしたち負けちゃいましたぁー!」

 

 牢にいたのは部隊の仲間たち。

 まさか、彼らまで敗北した?

 

(いや、ギア・フィーネは本物……! 俺の時も……忌々しいが手も足も出なかった。——だがっ)

 

 ギロリとヒューバート・ルオートニスを睨む。

 それに対するヒューバートの眼差しの落ち着き払った色。

 

「今日から君もこちらで過ごすといい。クロンだっけ。君の弟トリアは最近安定してきたから、近く連れてくるよ。肉親といた方が精神的にも落ち着くだろうし。本当は宇宙との交渉を手伝ってほしいんだけど、まだその気にはならない?」

「こんなことをしても、信用できるわけあるか」

「頑なだなぁ。別に善意100%の慈善事業でやってるわけじゃないよ、俺も。国として旨みがあるから頼んでるの。そっちもそうだろ? なんで戦って奪うしかないと思ってるのかが理解できない。宇宙爛れすぎじゃない?」

「黙れ!」

「利害関係が一致してるんだから協力し合う、って宇宙はやらないの?」

「お前とその交渉をするつもりはない」

 

 せっかく聖女の結界の中に入れたのだから、ルオートニス王国で地上の情報を集める。

 それこそが正しく宇宙を救う方法のはずだ。

 デュレオ・ビドロの顔と姿は前回見た。

 仲間たちにわざわざ引き合わせてくれたのだから、彼らにもその話をして——。

 

「クスクス……手こずってるねぇ、王子サマ」

「デュレオ」

「「「「!?」」」」」

「うわあ、あざと……」

 

 デュレオ・ビドロ。

 自律起動超速再生被験体D型ヒューマノイドプロトタイプにして、不老不死の怪物。

 ノーティスナノマシンの原材料であり、宇宙の寿命問題改善の手がかり。

 ルーファスがソレに初めて遭遇した時は、千年前の資料と同じく青年の姿だった。

 だが、現れたのは十歳くらいの子どもだ。

 青と紫のチャイナドレス。

 袖は長すぎて、指先まで隠れている。

 それを口元に当てて牢の中のルーファスたちを見て無邪気に笑う。

 

「ど、どういうことだ、姿が……若返っている……!?」

「あ、そうか。前にルーファスに会った時は擬態前か」

「擬態……!?」

 

 この姿は擬態ということだろうか?

 髪の色も赤黒くなり、瞳は紫色。

 顔立ちは同じだが資料と、そして先日会った時とはまるで別人。

 ルオートニスの王子が彼を「デュレオ」と呼ばなれければとても同一人物とは思わなかった。

 

「王子サマは優しすぎるから逆に警戒されるんだよ。ちゃんと拷問や尋問とかしてから、その根性に免じて交渉措置を取ればいいの」

「えー……でも拷問とかしたらお前殺しそうだし、パイロット経験者には協力してもらいたいんだよ。ラウトに任せてトリアみたいになってしまうと困るでしょ」

「必要なパイロットは三人でしょ? いや、三人も要らないかな? ランディ・アダムスとファントム、俺も疑似歩兵前身兵器の操縦はできるし……あれ、そもそも要らなくない?」

「デュレオも疑似歩兵前身兵器の操縦できる話は今初めて聞いたんですが!?」

「言ってなかったっけ? 能力的に斥候とか工作員とか向いているから、俺は大概のこと一通りできるよぉ。まあ、強いかって言われたらシズフと絶対比べないでとしか」

「それは誰でもそうだけど」

 

 思わずクロンたちと目配せる。

 

(シズフ? シズフと言ったか? まさか本当に千年前の登録者が、生きている? そんな馬鹿なこと……)

 

 千年前の資料は非常に少ない。

 宇宙で保管されていたギア・フィーネの資料には、固定パイロット——登録者の資料も僅かながら残されていた。

 登録者の所以はもちろん、生態データと氏名、年齢、性別、階級、容姿。

 その中で、ルーファスにも覚えがあったのが二名。

 共和主義連合国軍ミシア軍所属ギア・フィーネシリーズ二号機登録者、シズフ・エフォロン大佐。

 アスメジスア基国第二軍事主要都市メイゼア所属、ギア・フィーネシリーズ五号機登録者、ラウト・セレンテージ。

 同姓同名だとしても千年前の人間が生きているわけがない。

 まさか、ギア・フィーネには登録者を不老不死にする機能まで備わっているとでもいうのだろうか?

 前回ヒューバートが連れてきた医者もどこか人ならざる者のような雰囲気ではあったが、金髪の少年は間違いなくデュレオ・ビドロと同じ人間ではないモノだ。

 ラウトと呼ばれていたように思うが——あれが五号機の登録者だとしたら?


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