神の制裁
「どうします?」
「え! な、なにがでございましょうか!?」
「デュレオに頼んで、船内の者たちを制圧しますか? 個人的には、貴国の騎士か兵に任せた方が死者も少なくて済むと思うのですが」
「す、すぐに手配いたします」
「ヒュ、ヒューバート様、そろそろ下ろしていただいてもいいでしょうか!」
「あ、はい」
レナを横抱き——お姫様抱っこをしていたら恥ずかしがられてしまった。
この先また側室の話とか出そうだったから、俺にそのつもりはないと行動で示しておこうと思ったんだけどなぁ。
「ヒューバート王子……あ、あの……あ、ありがとう、ございました」
なんと、俺に近づき頭を下げてきたのはステファリーだった。
初めて会った時とは別人のようにお淑やかになってしまって……人間変わるもんだね。
「王子サマ〜」
「なに〜、デュレオ。食べちゃダメだよ」
ある程度落ち着いたし、控え室でお茶でも飲みたいなぁ、と思っていたら後ろからデュレオが近づいてきた。
船の中の制圧をして、ついでにつまみ食いしたいとか言い出すんじゃないだろうなと思ったら——
「もー、違くてぇ。ほら、あれー。俺より先に止めないといけないんじゃないの? 正直俺がやってもよかったんだけど、あの通信坊やにも筒抜けだったじゃん?」
「え? 坊…………ああああ! ラウトー!」
デュレオが指差すのは町の外の、船が着地した方向。
そこに三十階建てビルばりに伸びる鉱石結晶。
鉱石結晶の中にはセラフィを乗せた船。
未だ繋がったモニターからはセラフィの『ぎゃあああああああ!』という汚い悲鳴が響いてきた。
しまったぁー! ラウトの方に釘を刺すのを忘れてたぁー!
「ごめんレナ、ちょっと止めてくる!」
「わたしも参ります!」
「わかった、一緒に行こう!」
正直結晶病に関しては神格化していても拘束に使われたら俺でも効果抜群のままなので、レナがついてきてくれるのはありがたい。
デュレオに通信を消すよう頼み、ランディに国賓たちを控室に戻すよう指示を出してから[瞬間転移]で船のところまで飛ぶ。
人間の頃の俺ならこの魔法は使えなかった。
体内魔力量も桁違いに上がっている。
「ラウト!」
「五月蝿い」
あ、いかん、ブチギレとる。
俺とレナを拒むように半透明の結晶が壁になり、船が瞬く間に巨大な鉱石結晶に侵食されて中の人間が草原に落ちてきた。
乗組員は思いのほか少なく、三十人ぐらいしかいなかったらしい。
この人数でも動く中型船なんてすごいね、って言ってる場合か!
「ラウト、ダメだ、セラフィは新国の結束を固めるための生贄に使う!」
「ひっ、ひぃ! なんで、結晶が、結晶化した大地内ぞ、ここは!」
「もう一度言ってみろ」
「っえ」
「なにが終わらない? 誰が皇帝になる? 民衆が貴様にとってのなんであると? うまく逃げ延びたものだ、あの時確かに殺したと思っていたのだがな、皇帝候補は、帝都とともに。全員」
「な……なっ……お、お前が帝都を、沈めたというの? あの衛星兵器を、落として……? そんな馬鹿な——」
「黙れ。俺は『もう一度言ってみろ』と言った。もう一度、最初に通信を入れた時と同じことを言ってみろ、女ァ!」
「ひ、ぎゃああああ!」
「まずい! レナ!」
「きゃあああああっ!」
鉱石結晶が山のように次々生えて広がっていく。
ちょ、待っ、こんな広がり方見たことない!
町の方まで地面には結晶化した大地と同じ結晶化が広がっていく。
その結晶からも、鉱石結晶が生えては成長していった。
本当にまずくないでしょうか、これ。
「ひ、ひぃ、ひいいいいっ! た、助け、助けて……」
「足掻くな。俺はもう一度さっきと同じことを言ってみろと言ったんだ」
「あ、ぎっ、か、髪……痛っ」
「誰が、皇帝だと? 皇帝になって、民衆をどうすると? 他にも面白いことを言っていたな? 天上女? ハハ!」
「い、いや、ち、違……助け……違うから……」
「思い上がるなよ、人間風情が!!」
鉱石結晶で体を拘束されたセラフィの長い髪を、ラウトが引っ張る。
ぶちぶちと血を出しながら抜かれていく髪。
さらにセラフィの頭をラウトは踏みつける。
「覚悟も責任も信念もない、血統だけの豚が一国を治められると思うのか? 今の戦い、貴様はなにをした? なにもできていない。俺が貴様の派遣した部隊をどうしたと思う? 一人残らず砕き落としてやった! この無能が!」
「ひい、ひ、ひぃ、ひぃっ」
「貴様のような無能な者が人の上に立つだと!? 馬鹿も休み休み言え! 貴様が! 無能だから! あの白兵部隊は全員死んだんだ! 全員な! あれらと同じ死に方ができると思うなよ! 貴様には儚い死すら生ぬるい!!」
「ぎゃぁあああああっ!」
「ラウト!」
剣が振り下ろされる。
セラフィの首が、剣を受けてゴロゴロと落下してきた。
さらに体も、鉱石結晶がゆっくりと沈んで消えていく。
や、殺ってしまった……。
「ヒューバート様!」
「!?」
「い、いや、いやぁ! な、なによ、こ、これぇ!」
しかし、セラフィは生首のまま喋り始めた。
ギョッとする。
俺たちだけでなく、セラフィとともに落ちてきた船員たちも驚愕と恐怖で悲鳴を呑み込んでいた。
続け様に、頭の側に左足が放り投げられる。
セラフィの左足だ。
切り口は結晶化している。
部分結晶病……!
「い、いやぁ! 嘘よ、うそよぉ!」
「せいぜい貴様が見下していた奴隷どもに媚び諂って助けてもらえ」
「いやああああああぁっ!」
ラウトが剣を鞘に納める頃、拘束のために荷馬車を繋いで駆けてきた騎士団が到着する。
俺とレナの隣に歩いてきたラウトは「殺してないぞ」と言わんばかりのドヤ顔。
「……はぁ……まあ、いいか」
殺してないしね。