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裏切り皇女(3)

 

「ハッキング」


 ファントムにもらった通信端末を宙に放る。

 先程セラフィが使ったのと同じ大きさの3Dモニターが浮かび上がった。

 騒つく聴衆と貴族たち。

 俺の右目の色が変わったのも驚いただろうが、この程度で驚いていてはこのあと腰抜かすぞお前ら。


『な!? なに!?』


 モニターに映し出されたのは優雅に果物を飾ったカクテルを傾ける、セラフィの姿。

 なんとまあ、いいソファーに横たわり、宇宙軍の軍服を着た男——顔がいいなクソが——を五人ほど侍らせていい気にクソ広くて豪勢な部屋でお寛ぎあそばさってる。

 しかし俺がモニターを繋げたことで、驚いて酒をこぼしてしまった。

 はは、ザマァ。

 じゃ、なくて。


『どういうこと!? なぜまだ生きてるの!? 攻撃は開始されてるはずでしょう!? それに、なんで通信が繋がっているのよ!?』

「あなたが繋げた回線をハッキングして逆探知しただけですよ」

『は、はぁ!?』


 笑顔で言い放つ。

 なんてこともないように。

 実際、なんてこともないしね。


「お初にお目にかかります、セラフィ・セドルコ。俺はルオートニス王国第一王子、ヒューバート・ルオートニス。わざわざ俺の前に宇宙軍を連れてきてくれてありがとう。お礼にネタバラシしてあげましょう」

『お前が……っ! ネタバラシとはなんのことかしら?』


 ニッ、と笑みを深くする。

 これが相手にとって恐怖を煽るものだと、俺は性格の悪い神様に囲まれてよーく知っている。

 特にナルミさんとデュレオの笑顔は半端なく怖いよね。

 それを真似したのだから、セラフィも口元を引き攣らせるだろう。


「それではご覧ください」


 でもあまり邪悪な笑みは無理なので、紳士的に微笑むよ。

 あの手の邪悪な笑顔って、内から溢れるものがあってこそだと思う。

 モニターを増やして、聴衆と貴族たちにも見えるように拡大する。

 そのモニターから聞こえてきたのは、銃声と悲鳴。


『救援はまだか!』

『どうなっているんだ! 作戦概要は間違っていないはずだぞ!? なぜ別働隊がすべて——うわああああああああぁぁ!』

『ダメです! 第三、第四部隊通信途絶! 全滅です! 全滅です!! 隊長おぉー! ああああぁぁあーーーっ!』


 最後の悲鳴のあと、水を打ったように静まり返る。

 場所はこの町の地下。

 事前に城に続く地下通路をエリステレーン伯爵に教わっていたので、それを使った。

 いくつかの地下通路が集合する広場——この広場のほぼ真下で、あらゆる命が結晶に包まれて沈黙する。

 残ったのは金髪の、純白の正装騎士の青年。

 普段は優しい淡い深緑の瞳だが、ゆっくり顔を上げた彼の瞳は金に光り輝く。

 口元には愉悦と狂気に満ちた笑み。

 銃声と悲鳴をあげていた兵士たちは、結晶化している。

 間もなく彼らが崩れ落ちて淡い光で照らされた地下に集まった命は、残らず消え失せた。

 それを刈り取った荒神——戦神以外。


『な……なっ……!』

「実は事前にあなたが今日、この日にこの町を狙っている情報を得まして——事前に作戦情報を書き換えさせていただきました」

『なんですって!?』


 唇に指を当てる。

 騒がしい口を閉じろ、という意味で。


「まあ、別にこのまま秘密裏に処理してもよかったのですが、あなたが変なことを告知しに出てきて聴衆も貴族たちも、あなたと違って最後の皇帝としての責務をまっとうしたステファリー殿が不安そうだったので結果だけお知らせした方がいいのかな、と」

『っ……!?』

「ちなみに上空から来ていた戦艦隊は、さっきうちの武神と俺の腹心の一人が壊滅させましたよ。見ます?」


 モニターを新しく出してやる。

 そこに映し出されたのは穴だらけの戦艦の残骸。

 あれはアヴァリスに撃ち抜かれたやつだな。

 ファントムが「GFエンジンに使う鉄がほしい」って言ってたから、全部結晶化した大地(クリステルエリア)に落とさず墜落させたそうでーす。

 素材扱いって可哀想だよね。


「残りは全部結晶化した大地(クリステルエリア)に落としたそうです。そちらで航空ルートを確認すれば、すぐわかると思いますよ」

『す、すぐ確認します』

『しかしまだ地上の二足歩行部隊が残っております』

『そ、そうよ! まだ妾は負けてはいない!』

「あっはは! 二足歩行兵器部隊は目立つので、降下しているところを狙えばいいと思っていたんですよ?」

『は?』


 セラフィではなく男の声が否定してくる。

 白兵戦で制圧できると思ってたんだろう。

 でもその町中を制圧する部隊はジェラルドが三秒で作戦情報を書き換えて、地下で合流するようにした。

 ファントムが忙しいからとディアスに聞いたら「ジェラルドもハッキングできるようになったし、練習がてらやらせてみてはいいのでは?」という無茶振りをしたのである。

 いやいや、さすがに無理だろ、と思いつつジェラルドに作戦概要にハッキングでアクセスして、合流地点を地下の広場にしてくれない?って言ってみたら三秒で書き換えて「はい」って端末を返してきたんですよ。

「早くない?」って、聞いたよね。

 そりゃあ聞くさ。

 そしたら「そう?」って首を傾げるんですよ。

 もう俺はなにも言わなかったよね。

「そっかぁ」しか言えんくない?

 武士の情けでそれは言わずにおいてあげるよ……。




小ネタ


ランディ「あぁっ! ヒューバート殿下、なんというスマートで素晴らしい演説……! 感涙で前が見えません……!」

スヴィア(あああぁああっ! か、カッコいい〜! なによあの黒い笑顔〜! かっこいいいぃぃ〜!)

レナ「きゃ、きゃーっ! ヒューバート様かっこいいです〜っ……優しい笑顔で淡々と追い詰めていく姿……と、溶けそうです……っ!」

シャルロット(レナ様、変な扉を開けかけておられる。スヴィア様も顔が大変。ランディ様はいつも通りですね。ああ、なるほど。スヴィア様はランディ様のあの姿を見てきたのですね。それではヒューバート様の信者になるのも致し方ないかもしれませんわね。わたくしも負けていられませんわ……! ランディ様を骨抜きにする方法を模索しなければ)

ソードリオ「生きているうちにヒューバート殿下が指揮される姿を見られるとはなんたる僥倖……っ!」

マロヌ「お、おとうさま、泣かないで」

エルダー(ルオートニスに逆らうの絶対やめよう)悟

レーナ(ルオートニス王国はルレーン国並の科学力をお持ちなのね! 学ぶことが多そうだわ。ああ、メモ帳と万年筆を持ってくればよかった!)


※ツッコミ不在で混沌と化している来賓席。


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