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裏切り皇女(1)

 

 ステファリーはやりきったな。

 次は新国の名前の公開。

 しかし、ステファリーの宣言を待っていたかのように巨大なモニターが広場に現れる。

 半透明なその巨大なモニターはデュレオのライブで使われた、電子的なものだ。

 そこに写っているのは紫の髪に紫の瞳と口紅の美人。


「あ——姉上!?」

『ほほほほ! ではその返還された帝位は妾がもらってあげる! よくやったわね、ステファリー。さすがは妾の妹よ』


 思わず唇が弧を描く。

 ナルミさんの言った通りになりすぎて笑っちゃったよねぇ。


『民衆どもよ! 聞いての通り、今この瞬間より妾、セラフィ・セドルコがこのセドルコ帝国の新たなる皇帝よ! 妾に従わぬ者は皆殺しにします。お前たちのすべては妾のもの。ありがたく天上女となった妾の奴隷となるがよい』

「ふ、ふざけるな! 誰が貴様のような……! 帝国は終わったのだ!」

『終わるわけなかろう。妾という新たな皇帝がいるのだぞ。平伏さぬのなら死、あるのみ! 皇帝の力を見るがよい! ほほほほほほ! おほほほほほほほほほほ!!』


 聞きしに勝るとんでも女が出てきたな。

 貴族と聴衆が動揺し始める。

 モニターが消えて、混乱だけが残ってしまった。


「ヒュ、ヒューバート王子、これは……我々はどうしたら……」

「動揺するでない、ソーフトレスの若王よ。我らの動揺は民にも感染してしまう。いやはやしかし、エドワードが王位を継いでおったらこんな感じかのう。マロヌがいて本当によかったわい」

「はっはっはっ。そう言わないであげてください、ソードリオ王。エドワードは本当に改心してよい若者になりましたよ」

「ほお、そうかな?」

「はい。とても立派な騎士になっております」


 俺がつい笑ってしまったので、国賓席はだいぶ和やか。

 反対に壇上は聴衆より動揺している。

 みんながあわあわと顔を見合わせ、なにが起こるのかを恐れているようだ。

 一人、エリステレーン伯爵だけが「静まりなさい! 静まりなさい! 大丈夫よ! 落ち着きなさい!」と叫んでいる。

 しかし、彼女の顔色も青白い。

 動揺しているのは明らかだし、聴衆を落ち着かせようとしているよりも、自分に向けて叫んでいるかのようだ。


「お手伝いなさった方がよろしいのではなくて?」

「仕方ないですね。この国であのモニター技術は見慣れないでしょうから、それも怖いんでしょうか」

「おそらく」 


 シャルロット様に言われてしまったので、仕方なく立ち上がる。

 レナには“歌い手”としての役目に備えて、シャルロット様と共にいるようにお願いしてある。

 頷き合って、俺だけ壇上に移動した。

 袖から杖を出して、[精神安寧]の魔法を使う。


「皆、静かに。こちらを見て。俺を見ろ」


 杖を唇に当てて、できるだけ優しく語りかける。

 最初に壇上の貴族たちが落ち着きを取り戻し、次に聴衆が俺の方へ視線を向けた。

 声はまだ聞こえるが、前方が落ち着けば中程も落ち着いてくる。

 魔法の効果が広がり続けて、数分後にはかなり落ち着くだろう。

 本当はレナに歌ってもらった方が、効果は高いのだが……まだ温存してもらいたい。


「うん。みんないい子だ。セドルコの民よ、なにも怯える必要はない! セラフィ・セドルコの言葉に惑わされるな! 先帝が認めた後継者は、ステファリー・セドルコのみ! そしてそれは、我ら他国の王族もまた見届けた! セドルコ帝国はその誇りを持ったまま、長き歴史に幕を閉じている! 今更裏切り者の元皇女がなんと言おうと、この国が生まれ変わる妨げになどなりはしない!」

「っ」

「お、おおお……」


 さて、あんまり得意ではないのだが、王族らしく演説もしてあげるよ。

 得意じゃないけどナルミさんとディアスとデュレオに指導は受けたのでこんな感じで多分大丈夫じゃない?

 聴衆の受けは悪くない。

 動揺は治ったみたいだしね。

 ……今更ながら俺もナルミさんには頭が上がりません。

 あの人に為政者としてのノウハウを教わったようなものだ。

 あの人も俺にとっての、師だ。


「ヒュ、ヒューバート様……しかし、あの映像は、魔法では……っ」

「そうだね。宇宙の技術だろう。でも想定内だ、君たちもこれから国を治めていく者として動揺を民に見せるべきではない。器が知れるよ」

「で、ですが」


 エリステレーン伯爵他、代表の貴族たちが未だ怯えている。

 もしかしたら、国民たちよりも彼らの方が皇帝家にひどい仕打ちを受けてきたのかもしれない。

 直接関わるからこそ与えられるトラウマ。

 今はもうセドルコ国内に皇帝家の権力で従える武力はない。

 それでも恐ろしいのは——宇宙の技術により把握されている弱味かな?


「あなた方も叩けば埃が出そうですね」

「うっ」

「いいですよ。為政者たる者清濁合わせて呑むぐらいせねばいけませんから。でも、今後もそのスタイルが通じるとは思うなよ」

「「「「はいっ!」」」」


 少し釘を刺しておこう。

 ラウトはこういうの大嫌いだから、俺の知らないところで彼らが消されても困る。

 今のタイミングで彼らが死ぬと、新国運営にも影響が出てしまうんだよね。

 隣国がいつまでも不安定なのは困る。

 それに個人的にもあの女は気に入らない。



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