王に膝をつかれる者(2)
それは父上の采配なので俺は関係ないです。
ナルミさんも「支援しておくと恩を売れるからすごく得だよ⭐︎」って例のヤバい笑顔でウインクつきで言ってたから、父上がなんか色々手配してくれたらしいんだよね。
なので俺はマジでノータッチです。
最近知ったぐらいに。
と、言っても「さすが殿下……現王陛下をお立てに……」とフルスイング勘違いしおる。
なんでそうなるの?
俺の父上の功績まで俺の功績にするのはマジで違うからな!?
怒るよ!?
「初めまして、ヒューバート・ルオートニス王太子殿下。わたくしはレーナ・コルテレと申します」
「え」
彼らを遮るように膝を折った年若いお嬢様は、まさかのお姫様らしい。
コルテレ、ということはあのやらかしたオズワード王の血縁か?
「ルレーン国を巻き込んだ戦争を収め、兄の暴挙を止めただけでなく、我が国にも数多の支援をいただいたこと——心より感謝いたします。本来であればわたくしが殿下の側室として嫁ぐべきところですが、殿下はそれをお望みではないとお聞きしております」
「そうですね。側室は娶るつもりはありません」
兄。
この金髪赤目の縦巻きツインテールのお姫様、あのオズワードの妹なのか。
俺が頷くと、僅かに目を細める。
「コルテレは現在王位が空席ですので、間もなく成人となるわたくしが次の王となる予定なのですが、お許しいただけませんか?」
「え?」
なんで俺にそんなことを?
マジで意味がわからないのだが、シャルロット様が隣に歩み寄ってくる。
そして、小声で「コルテレは今、西方三国の中で一番立場が弱いのですわ。ヒューバート様のお墨つきがほしいのでしょう」と耳打ちしてきた。
めっちゃいい匂いする。
ではなく——なるほどね。
ファントムがオズワードを戦犯に仕立て上げて、自害したことになっているからコルテレは立場が一番弱いのか。
ソーフトレスの王様も相当クズいことしてるけど、それを棚上げにしてもまだコルテレを責める者が多いのだろう。
戦争で命を落とした者の家族は許せないもんな。
呑み込むことなどできない、グツグツと煮えたぎる憎悪。
それを一身に受けている状況。
「……あなたが即位すれば、あなたが矢面に立つことになるのでは?」
俺も俺を殺した者への憎悪は、最近までくすぶつていたのだ。
憎悪とはそれほど拭いきれないもの。
ソーフトレスからのものだけではない。
国内からの批難も一気に集まるだろう。
見たところ俺と年が変わらない。
そんな彼女が、次のコルテレの王?
「戦火の責任は兄がその命を以て負いました。わたくしがなさねばならないのは、ソーフトレスとの新たな信頼関係構築とルレーン国、国民への賠償です。ルオートニス王太子殿下には、そのお力添えをいただければと」
「なるほど」
まあ、そう言うしかない。
そして彼女の様子から、実力不足を心底痛感している。
ああ、めちゃくちゃ気持ちがわかるなぁ。
国を背負うのって、本当にプレッシャーだわよね。
「即位の日は決まっているのですか?」
「はい、来年の元旦に」
「なるほど、おめでたいですものね。……では、師走まで我が国で俺の補佐をしてみませんか?」
「え!?」
ガバッと顔を上げるレーナ姫。
他の者もずいぶん驚いた顔をする。
あれぇ? そんなに驚かれるようなこと言った?
「ヒューバート様の補佐ですか? 大丈夫なのですか? 他国の者にそのような」
「大丈夫もなにもランディもジェラルドも、各々進路的に俺の側からいなくなるのですよ? ぶっちゃけ人手不足で、最近絶対に休めと言われている日曜日さえ休めてないです」
「あ」
ランディを取って行ったルレーン国のお姫様は察した笑顔で目を逸らす。
ジェラルドもミレルダ嬢と国境付近の領地に、領館やら本邸やら別邸やら砦やらの建設で会える状況じゃない。
そうですよ? お察しの通りですよ?
「手が足りないんですよねぇ」
「な、なるほど……では、ハニュレオやソーフトレスからも側近を募ってみてはいかがですか? コルテレだけでは贔屓になってしまいますわ」
「そこまでの人員はいりません。レーナ姫に補佐を頼むのは、神無月と霜月の二ヶ月程度でしょう。師走にはコルテレにお返ししますよ?」
「——なるほど」
ここまで話して、シャルロット様も理解したらしい。
本格的な補佐ではない。
が、今の立場の弱いコルテレで、悪名高き戦犯オズワードの妹であり女性のレーナ姫の“信用”が得られる方法。
不本意だが、二ヶ月だけでも俺の補佐として働けば最低保証はしてやれるんではないか、ってことだ。
正直よくオズワードのやらかしでコルテレ王家は追われなかったもんだな、と思うぐらいだけど。
まあ、多分家臣たちとしては戦後処理の一番大変なところをオズワードの妹であるレーナ姫に丸投げし、針の筵にしてからある程度落ち着いたところでなんか理由をつけて玉座から引き摺り下ろす予定なんだろう。
彼女もそれをわかっているし、それが自分の責任の取り方だと思っている。
シャルロット様は今の笑顔を見るにレーナ姫とは親しいみたいだから、俺が短期間でも“主人”になることでなにかあった時の“伝手”になれるのだ。