君と休み(1)
「俺の破滅フラグってぶっ壊せたってことでいいのかなぁ」
と、初夏の日差しが降り注ぐ自室のテラスに出て独りごちる。
十八の誕生日を無事迎え、レナとの初夜も新婚生活もまともに満喫できてはいない日曜日。
もう明日には文月に入る。
ステファリー・セドルコは代表団により本国へ連れて帰られ、ルーファス・カナタは沈黙を続けていた。
セドルコ帝国の今後は、ルオートニスへの賠償のために国内を落ち着かせることを第一に考えることになる。
帝都は跡形もないため、遷都してエリステレーン伯爵の領地の一番大きな町に代理政権の首都を構えることになったそうだ。
今のところステファリーは大人しく従っており、傀儡皇帝として国の改革を見守っている。
ステファリーが皇帝になったことは国民にも知らされており、ルオートニスから技術と支援を提供されることで我が国が後ろ盾という形で国民に“許して”もらった。
新政権のやり方は安定しており、俺の提案をすべて実行してくれている。
ハニュレオから文官と高官が数十人単位でセドルコに入り、ハニュレオ政権下に入る準備が着々と進められているという報告を聞いた。
変化は大きく、案の定国民はついていけていない。
不安は大きいだろうが、ルオートニスとハニュレオに支えられている現状、生活は改善されているので、思ったより国民不満は溜まってないみたいだ。
そしてファントムが造っている新造のギア・フィーネ。
石晶巨兵の霊魂体に関するデータが、ここにきてまさかの活躍を果たしているらしい。
ギア・フィーネのエンジン内部に霊魂体が展開しているのではないか、という仮説のもと肥大化したヒューマノイドの一体を結晶魔石の膜を鉄と配合した結晶魔黒鉄石なる新ヤバ鉱物を加工して包み、中にシズフさん製の結晶魔石を霊魂体化して保存するとかなんとか。
もう途中から俺の知識でも「なにを言っているんだ?」となるほどわけわからなくなっており、とりあえず霊魂体を肥大化した脳に定着させることで情報処理・演算能力が桁違いに上がるだけでなく、脳波波形が安定し自立稼働が可能になり、その他あらゆる問題が一挙に解決してしまったらしい。
なお、その時のファントムが「は?」と謎にブチギレたため、サポートをしていたギギとメメが震えたのはあとから聞いた。
それはさぞ怖かっただろうな。
まあ、つまりギア・フィーネのGFエンジンとは擬似生物に近いものだったのだ。
なんとなくそんな気は——脳を使うという話を聞いてからしてたけど……。
王苑寺ギアンのえげつなさよここに極まれり。
ただそれによってギア・フィーネと登録者——神格化した人工的な神と神鎧が一つになり、新たなる創世神として世界に“エネルギーを発生させる”という概念を維持する装置となる……というのが、果たせる見込みになった。
これから外殻となるギア・フィーネの骨格を三体分作っていかねばならず、そちらの設計もファントムが担当するので本当に忙しそうである。
でも楽しそうすぎてキマってんだよなぁ。
怖くて止められない感はある……。
ノーティスって人工細胞と人工筋肉と人工骨で作られている、人間に限りなく近い生物型の人形ってナルミさんがものすごくざっくり説明してくれたけど、疲れたりとかしないんだろうか?
まあ、新造ギア・フィーネに関しては引き続き様子見だろう。
次の問題として大きなものはやはり宇宙への対応。
ラウトは気が短いので、宇宙に昇ってカチコミするか、とか言ってるんだがマジでやめて差し上げてほしい。
そんなの全面戦争待ったなしではないか。
多分情勢の問題は死ぬまで続くんだろうけれど……。
「レナに会いたいなぁ……」
手摺りに両手を置き、その隙間に額を載せる。
俺は死にたくないので頑張ってきた。
レナとも結婚できたし、俺は18歳で死ななくてもいいんだろうか?
デュレオが俺を憐れむ程度には、長生きできるのかな。
「!」
布ずれの音に驚いて顔を上げて振り返る。
自室のテラスなので護衛はなく、他にも入ってくる者はいないと思っていた。
でも、俺の部屋にはもう一人、住人がいる。
先日結婚した——妻が。
「レ、レナ? 北区の方に行ってるんじゃ……」
「あ、け、結界が存外無事でしたので、帰ってこられたのです。最近働き詰めでしたから、パティが無理してでも休むようにと気を遣ってくれましたし」
「そ、そうか。じゃあ今日はこのまま休むの?」
「はい。そのつもりで——……ヒューバート様はちゃんと休んでおられますか?」
「え? 休んでるよ? 今まさに」
まさかレナが帰ってくるとは思わなかったけど。
「……レナ? なに?」
そう答えたのに、レナは笑顔のまま動かない。
え? なに?
「ちなみにこのあとのご予定は?」
「え? 執務室に戻って夕飯まで書類仕事かな」
仕事します。
溜まっているので。
「ちなみに今月日曜日は四回ございましたが、日曜日はちゃんとお休みになっておりますよね?」
「え? えーと……休んで、る……よ……?」