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皇帝の資格(3)

 

 ああ……最初にセドルコに行ってれば、話ができたのか。

 いや、もしかしたら、助けられていたかもしれない。

 ディアスに頼んでいれば……。

 いや、ミドレもハニュレオも結構間一髪なたこあったけどさ。

 でも、この人と話してみたかったなぁ。

 和解を……和平を望んでくれていたのか。

 なんてことだろう。


『最後の道は現実的ではない。そなたには無理だろう。なにより本来であれば、我に言われるまでもなく、自らの力でこの答えに辿り着いてほしかったが——おそらくそなたの状況はそうではなかろう? 願わくば愚かな姿を民衆や家臣に晒していなければよいとさえ思う。そなたらの教育はまことに失敗であった。いや、そなたらこそ、セドルコ帝国の長き歴史が導き出した答えなのだろう。我が国は滅びるべくして、滅びを呼び寄せた。我が声を失ったのもまた、国が自らを終わらせるべく我に余計なことをせぬようにとの思し召しなのやもしれぬ』


 そう言って、先帝は目線を上げる。

 ここではない遠いところを眺めて、目を閉じた。

 達観しているな。

 諦めている、と言った方が正しいのだろうか。


『できることならば我の手でセドルコ帝国の長き歴史に幕を閉じられればよかったが、そうもいかぬらしい』


 喉を撫でる先帝。

 この映像は[思念]の魔法も組み合わさっている、複合魔法だろう。

 声というより頭の中に直接言葉が送り込まれている感じだ。

 話せない先帝が遺した音のない遺言。

 ……悔しかったんだな、この人は。

 自分で幕を下ろしたかった。

 俺の父上と同じく、世界と国の終わりを憂いている。


『ステファリー・セドルコ、そなたをセドルコ帝国第三十代皇帝として認めることをここに宣言する! 願わくばそなたが最後の皇帝となり、セドルコをただの王国とすることを望む。民に貴族と同じ教育を施し、次代が育てばかつての民主主義国のようにせよ。それが我が国が国として残る唯一の方法であろう! セドルコ帝国に栄光あれ!』


 ぶちん、と音を立てて先帝の映像が消える。

 ステファリーを見ると、未だかつて見たこともないような絶望の表情で先帝の映像が出ていたところを見上げていた。

 その表情から、彼女が受けてきた教育、彼女が信じていた皇帝一族の矜持、自分の存在価値もなにもかも——あらゆるものが根本的に間違っていたのだと知ってしまったんだとわかる。

 セドルコ皇帝一族というものに依存していたステファリーは、皇帝家の終わりを父親から突きつけられた。

 一族は崇高されるべき、という考えは否定されたのだ。

 その上、それを彼女自身の手で終わらせろという。

 先帝は自分の子たちに、すっかり期待しなくなっていたのだ。

 でもそれは当たり前だと思う。

 先に先帝を見放したのは皇帝候補たち。

 子どもらの方なのだ。

 自分の父親が結晶病で声を失ったら、仕事をすべて丸投げにして権力だけは振り翳して好き放題。

 父親が是正しようとしても、奪った権力で揉み消し続ける。

 いやいやそこは父親を手伝えよ。

 声を失った父親の分まで声を上げ、国のために言葉を使えよ。


「あなた方の誰も、先帝陛下をお助けしなかったんですね。それでは見放されるのも仕方ないですよ」


 残酷かもしれないが、ここがステファリーの正念場だろう。

 自分自身の手で政権を立て直すのは、家臣一同の冷たい視線を見れば言わずもがな。

 協力を求めるべき隣国には危害を加えて今の有様。

 信じていたであろう先帝からは突き放す言葉。

 誰も助けてこなかったから、誰も助けてなどくれない。


「……一応もう一度聞いておきましょうか?」

「ヒューバート王子殿下?」


 この様子では傀儡として使えるか怪しい。

 不思議そうなエリステレーン伯爵を手で制してから、膝を折ってステファリーを見下ろす。


「セドルコ帝国を終わらせる最後の皇帝になり、国を終わらせることに協力しますか? それとも、家臣たちの望む通りに処刑されますか? どちらを選んでもらってもいいですよ。一応、役目を終えたあとはハニュレオの元王子エドワードの世話役として働き口は用意する予定です。彼もあなた同様ずいぶん民を疎かにしていたのですが、今は立派な騎士となっています。あなたを無碍に扱うことはないでしょう。さて、どうしますか?」


 震えながら俺を見上げるステファリー。

 ようやく俺が“生き地獄”と言ったのを理解したんだろうか。

 涙を浮かべながら、唇を振るわせながら、ステファリーは声を震わせながら「やります」と零す。


「や、やります……こ、皇帝となり、ます。……わ、わたしは……し、死にたく、ない……」

「わかりました。では改めて——あなたをセドルコ帝国にお返しします。あなたには我が国と宇宙の架け橋も期待しますね」

「は、はい」


 上手く笑えているだろうか。

 ナルミさんに笑顔だけは崩すな、と言われていたから、頑張らないと。

 笑顔で、堕ちていく者を見下ろさなければ。


「さて、引き渡しや戴冠式、国家の今後の方針を民へ向けて宣言する中身なども詰めていきましょうか。準備期間はいくらあっても足りなくなります。ハニュレオの外交官も交えて、今年中を目指しましょうか」

「は、はい」

「御意のままに」


 なぜか代表団の皆さんにまで胸に手を当てて礼をされる。

 さて、残る問題は……山積みすぎてもうどっから手をつけていいのかわからなくなってきたぁ。

 ナルミさぁん、助けてぇ!



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