ルーファス・カナタ(2)
「舐め腐ってくるクソガキが悪い」
ラウトと戦ったギア・マレディツィオーネのパイロットは、名前なんだっけ、えーと……トリア・メッシュくん16歳だっけ?
彼、本当に可哀想なほど怯えていまだに夜泣き叫びながら起きちゃうらしいよ。
えげつないよね……。
ディアス調合の精神安定剤で落ち着かせてるらしいけど、16歳の若さでそんなトラウマ植えつけられるなんてマジで可哀想。
「宇宙の人たちって魔法使えないのかな?」
「使い方を覚えれば使えるのではないか? 聖女のように、生まれながらに体内に結晶魔石を持つのは、話が別だが」
「ですよねぇ。宇宙連合軍の捕虜の人で希望者には魔法を教えてみようかな?」
ディアスにうんうん頷かれるけど、デュレオとラウトとファントムのドン引きした表情!
なんでだよ!?
「いや、なんで? 宇宙軍に魔法を教えるとか普通に地上のアイデンティティ渡すようなものじゃん、バカなの?」
「えぇー? 別に宇宙にセドルコの第一皇女が嫁いだなら、そこから魔法の使い方は広まるんじゃないの? メリリアも宇宙に行ってるっぽいしさぁ」
「それはそうかもしれないが、敵に攻撃方法を与えるようなことをする必要はないだろう」
「杖を作るのは魔樹が必要だけど、今は石晶巨兵で魔樹は貴重品になっているから杖は貴重品になりつつあるし……魔法は専門知識と魔力を増やすには練度が必要だから簡単じゃないし!」
そう、魔力は増やすのも大変よ?
一度空っぽになるまで使わないといけないし、魔力量を増やしたところで次は魔力制御、属性検査、属性付与訓練、練度がなければ詠唱が必要だから詠唱の暗記……。
やっぱり簡単ではないよな、魔法。
「宇宙の人間の体内魔力量がどれほどのものなのか、興味があるな」
ほら〜〜〜!
ディアスはワクワクしてるしぃ!
「身体は地上の者よりかなり強い。皮膚の感度も低く、身体能力も強化魔法を使っているわけではないのにとても高い。暴れられた時、手足の鎖が引きちぎられたしな」
「は!?」
「だからラウトに頼んだんだ。ほら」
本当だ。
地下牢の中でさらに拘束用の鎖で手足が繋がれていたのだが、彼の場合全部引き抜かれている。
そんなことあるぅ!?
いや、実際そうなっているしな。
それでディアスはラウトに頼んだのか。
「ディアスは……あ、なんでもないです」
「ん?」
よくご無事で、と思ったが、この人は魔王だし神でもあるんで心配は不要なんだろうな。
「でも、魔法も使わずこんなことができるなんて」
「シズフみたいなもんだよ。ノーティスナノマシンを改良して使い続けてたから、千年前は強化手術が必要だったところが代を重ねて比較的安全に強化が進んでいったんだろうね。その代わり俺の食人遺伝子も浸透して、遺伝子に結びついちゃったんでしょ。ロス家の坊やの言う通り、薬で発症を遅らせるしかできないよ。寿命を延ばしたいのであればノーティスナノマシンの接種を停止して、地上の人間の遺伝子を千年かけて取り込んでいくしかないね〜」
シズフさんみたいなものと言われると、それだけでゾッとしちゃう。
さすがにシズフさんのような魔法見ただけで完コピは、宇宙の人間も無理だろうとのこと。
「あれはクソ」とデュレオに言わしめているしな。
「じゃあ単純に身体能力がめちゃくちゃ高いんだ。へー」
「その身体能力のまま寿命を地上人ぐらいにしてほしい、なんて都合がよすぎでしょ。消費したエネルギー分寿命が縮むのは生き物として正常だよ。その身体能力のまま寿命を延ばすなら、別の生き物に進化しなきゃいけない。その覚悟も努力もせず身を委ねてきたのなら、その運命を受け入れた方がいいよ。俺の体を調べて寿命を延ばすあれそれーとか言ってるのなら、俺を食って進化できるか死ぬか、試してみればいいのに、ねぇ?」
ちらりと檻の中を見て、カマをかけるデュレオ。
ルーファスが顔を上げて、いかにも「そんな方法が!?」って顔をしている。
俺の言うことは一ミリも信じないのに、この邪神の言うことは信じるの?
ヤバくない?
もう一度言っておく?
この邪神の言うこと信じるの?
ヤバくない?
「確かデュレオの肉を食べたら、食人細胞を取り込むことになるから、死ぬんじゃなかった?」
「あれぇ? 覚えてたのぉ?」
「デュレオが食人衝動を持ってるのも、それが原因なんだよな?」
「そうねー。俺のコンセプトはとにかく不老不死の“人型生物”の開発だったから、かなりなりふり構ってなかったっぽいよ。地殻付近で発見された、謎の古代生物の卵から採取された細胞がベースって聞いたことある。ギアンはこの世界を歪めた神の細胞とか湧いたこと言ってたけど、どっちにしろ俺は不完全な不良品だしねぇ」
「正体もわからないものを使ってるの……」
神の細胞とか怪しすぎる。
地殻付近って妖精結晶とかなんとか、ファンタジー素材も出てたよなぁ?
地殻、別のファンタジー異世界と繋がってたりしない?
「寿命を延ばすのなら、それぞれの症状に合った代用ナノマシンを投与すればいい。内臓不全にはサイボーグという手もある。宇宙技術を使えば難しくなかろう」
「おい、俺は医療分野の手伝いはしねーぞ」