ルーファス・カナタ(1)
特に俺の推し進めていた事業には魔法が必要なものが多いから、彼らは多大な貢献をしてくれているそうだ。
城の中にも優秀な平民が一気に増えたらしく、文官武官に限らず土地が増えたことによる仕事の倍増にも対応。
父上は城で働く平民には官僚として爵位を与えて、少しずつ貴族も増やしていく方針らしい。
さらに学院には俺の卒業後も貴族が平民に対して、お茶会で給仕のアルバイトをさせるのが当たり前となっており、貴族は労力、平民は給金を得られるとWin-Win関係が完成。
さっぱり貢献した記憶のない学院生徒会では、平民に杖の素材を提供するのが権威の証となっているらしい。
「ヒューバート様が学院に残した偉業ですよ!」
「エ、ア……ソ、ソウナンダァ……」
俺の知らないところで俺の偉業になっている件。
「そ、それなら土地も増えるし、学校を増やしてもいいかもね。そんなに優秀な平民が増えたなら、東西南北の主要都市から、平民限定の学園を国立運営で建てようか。そうすればもっとたくさん優秀な平民が、仕事を手伝ってくれると思うし」
そもそも貴族が圧倒的に足りない。
ミドレ公国がルオートニスに吸収されたところで、そもそもミドレは首都しか残っていなかった状況だ。
ミドレはミドレで土地を納める貴族不足が超深刻。
ハニュレオも同じだろう。
平民から貴族に召し上げるのなら、貴族と同等の教養を持つ平民を増やさなければ。
そして、それならば学校を増やせばよくない?
義務教育は、俺が前世で「勉強嫌い。義務教育うぜー」と思ってたからどうかと思うけど、平民で学びたいという人は、結構多いんじゃないんだろうか。
子どもを労力として頼っているところは大きいが、宇宙の技術を取り入れられれば労働力をドローンなどに頼れるかもしれない。
手始めに主要都市だけに国立学校を建てて、様子を見てみれば——。
「天才か?」
「す、素晴らしいお考えです、ヒューバート様!」
ディアスとレナは俺を持ち上げすぎではなかろうか?
「いや、千年前は普通だったんじゃない!?」
「軍学校が普通だった」
「平民が勉学だけ学ぶような学校、共和主義連合国軍の田舎にしか残ってなかったよ」
「ヒェ……」
ラウトとデュレオの援護がえげつなさすぎん?
じ、時代というやつかぁ?
「うんうん、いい考えですね。帰ったら企画書作りましょう。わたくしめも手伝いますよ」
「ひぃ、リーンズ先輩!?」
まだいたのかこの人。
「殿下のお考え、とても素晴らしいです。それで、いかがでしょう? 植物専門科……などの学科を設立してみては」
「学科……専攻を作るってこと? あ、いいかもしれませんね」
「そうでしょうそうでしょう! やはり専門家の母体数は大いに越したことはありません! わたくしめも、植物の有用性を語りあえる友がほしい……!」
「……そ、そうですね……」
リーンズ先輩が孤独に耐えられなくなっている……!
そうだよね、石晶巨兵のことも、なんだかんだ専門外だもんね……。
果たしてリーンズ先輩に友達ができないのはそれだけが理由なのかな?って思わんでもないけど。
「では医学部と薬学部も!」
「機械科学部! プログラミング部! 兵器開発部!」
「ハードル爆上げしすぎでしょう!? 検討する時間をください色々! ファントムのは後半不穏だから却下!」
専門科設置は人気が出そうだから細分化してもいいかもしれない。
でもまあ、父上や母上にも相談してからだな。
レオナルドは在学しているし、学生の声も聞いてみたい。
魔法専攻や剣術専攻——あるいは魔法師、騎士専攻という名称にしてもいいか。
そういうファンタジーっぽいのもいいよなぁ。
「おい、そろそろ拘束を解いていいか?」
ラウトが呆れたようにギア・マレディツィオーネのパイロットの拘束についてディアスに聞く。
そういえば固めたままだった。
「ところでこの人、名前名乗った?」
ギア・マレディツィオーネのパイロット、と呼んでいたがいちいち長い。
ファントムならパイロット情報とか引き出せてる?
「パイロット情報として引き出せているものとして、名前はルーファス・カナタ。歳は18。宇宙連合国大和国出身。ギア・マレディツィオーネ四号機『ゼッカイ』のパイロット。血液型はA型で身長は170センチ、体重57キロ。大和水星コロニー第八エリア軍事学園首席で卒業。宇宙連合軍地上制圧作戦部隊『ストーリー』のリーダー。……だったかな」
「っ……なぜ、そこまで……!」
ゆっくり沈み消えていく拘束用の結晶。
ラウトは相変わらず不服そうな表情。
ファントムが暗記していた内容は、ギア・マレディツィオーネのパイロットの個人情報。
怖すぎる。
「ルーファス・カナタか。で、どう? 本物の神を間近で見て、その力をその身で経験してみた感想は」
神なんていない、と豪語していたが、ラウトの力は経験してしまっただろう。
若干俺としても思いも寄らない形で経験させてしまったが。
「……どうせ地上人のわけのわからない力……魔法の一種だろう!」
「最初に言っておくけどラウトは荒神だ。俺の提案は聞いてくれることもあるけど、絶対ってわけじゃない。怒りっぽいし、容赦もない。君の同僚をPTSDで精神病棟に入れちゃったのもコイツ」