国の終わらせ方(3)
だからぁ、だったらなぜ帝都に衛星兵器が落ちた時にその混乱を収めるべく代理皇帝にでもなんでもならなかったのぉ。
「同情を引こうとするのは皇帝候補としてどうかと思うなぁ。そもそも皇帝が崩御したのは三年も前だろう? 皇帝候補たちはなぜ三年も帝位を空席にしたまま、帝位を争い合うフリを続けてなぁなぁにしていたんだい?」
「な、なんですって!?」
「だって帝位を定める方法なんていくつもあったじゃないか。代理人に決闘させるなり、貴族たちに投票して決めさせるなり、当人たちで皇帝に相応しい者を指名し合うなり……。それらの選定も行わず、なぜのうのうとしていたの? 三年も帝位が空席で政権維持できていたのが答えだろうけれどね?」
「くっ!」
と、ナルミさんが溜息を吐き出しながらステファリーを詰る。
言われてみれば確かに帝位が空席の期間が長すぎるな。
その三年間……なんならもっと前、皇帝が倒れた頃から皇帝候補たちは政務をほとんどしてなかったのでは?
先帝がよほど優秀だったのか、皇帝候補たちが政務をせずとも問題ないように信頼のおける貴族たちに仕事を割り振っていたのか?
……ん? あれ? それって、なんか……。
「あはは、それってもう先帝になんにも期待されてないってことじゃん! もしかして、先帝も候補の誰かが殺しちゃってたとかぁ?」
デュレオが縁起でもないことを言うが、ステファリーが顔を青くして俯く。
あー、もー、ほんとに……。
「ヒューバート、おそらく先帝はとうに準備を終えていて、いくつかの重鎮に最後の権限を与えていたのだと思う。私が調べたところによると、皇帝になるためには先帝が遺した四つの鍵を揃えて最後の箱を開けなければならなかったらしい」
「四つの鍵と、最後の箱?」
「それが次期皇帝候補たちへの試練だったそうだよ。結局誰一人その試練を乗り越えられた者はいないようだけれど」
へー、なんか面白そうだけどなー。
どこかに隠されてるのか。
誰かに預けられているのか。
先帝がなにを重視していたのかを考えれば、見つかりそう?
「でもそれで三年は……ポンコツすぎでは?」
「つまり資格なしということだよ。先帝もそこまで見越していたのか、三年間皇帝不在でも宮廷貴族だけで国が回るように手を回していたのだろう。皇帝の椅子が空位のままならば、皇帝候補たちの権威はいずれ弱まり貴族たちに力が移る」
「ああ、うちの国が以前聖殿の方が強かったのと同じ感じですか」
そうして皇帝一族は力を失い、お飾りになる。
お飾りにしておくために貴族たちは金を渡して仕事もさせずにチヤホヤするだけ。
「……皇帝候補とは形だけで、宇宙の者たちに傀儡にされる前から生殺しにされていたということか」
「彼女の偏った思想もお飾りにしておくために、仕向けられて仕込まれたものだろう。まあ、他の候補たちも同じようなもののようだけど。それでも、自分の目と耳で学び自分の意思で判断や決断する力があればそうはならなかった。皇帝候補ならば自ら行動するべきだったんだ。国を導く器を持つ者が、一人もいなかったということだね」
「っっっ」
ステファリーは悔しそうに唇を噛み、ナルミさんを睨み上げている。
それに微笑み返すのがナルミさん。
なんにも響いてないよー。
「じゃあ先帝は——やはり帝国を終わらせるつもりだったのですね?」
「っ!」
今度は俺がステファリーに問う。
すると、今までで一番驚いた表情で見上げられた。
なぜ、と溢れる。
「逆にあなた方はご自分の父君からなにも学ばなかったのですか?」
「な、なにを……」
「……先帝陛下はさぞ無念でしょうね。それとも、ご子息ご息女にそれほど期待しておられなかったのでしょうか? どちらにしてもお可哀想だ」
世界がいつ、結晶化した大地に呑み込まれて滅びるともわからない終末で、先帝はさぞ気を揉んだだろう。
教育係をどのように手配したのかわからないが、これほど傲慢な考え方で育った自分の子どもたちに国を遺して逝かねばならないのだから。
「なにを言っているの!? 勝手に私の父を哀れまないで!」
「ではエリステレーン伯爵に“鍵”を四つとその“箱”とやらを持ってきてもらいましょう。我が国への損害賠償としてセドルコ帝国にはステファリー・セドルコを、最後の皇帝としてその汚名を歴史に刻んでもらう。セドルコ帝国の長い歴史の中でもっとも愚かな女帝とし、国を終わらせてもらうことにする」
「な、なんっ!?」
「以後、セドルコ帝国はハニュレオの属国となり、その政権下に入ってもらおう。代理政権は解体して、民主主義政権で新国を運営してもらうことにする。ハニュレオは元々カネス・ヴィナティキ帝国という大国だった。方角的にもハニュレオに従わせた方がいい。エドワード」
「は——はい!」
振り返ると、髪を剃り上げたエドワードが返事をする。
初めて会った時とは本当に、別人のようになった。
「ステファリーは帝位を退いたあと、名を変えてハニュレオと新国の間に作る新しい領地に平民として住まわせる。護衛と監視を兼ねて、領主となるお前の屋敷で使用人としてこき使え」