国の終わらせ方(1)
「かなりまとも……というか下手に出た対応ですね」
「エリステレーン伯爵家は皇帝一族の姫が嫁入りしている、かなり古い家らしい。その分先代伯爵が厳しい人物で皇帝候補たちに、度々苦言を呈していたようだけど、それを鬱陶しく思った皇帝候補たちにより帝都を追われたようだ。宮廷貴族が辺境近くで領地運営のみをやることになり、かなり苦労したのだろうね。先代は過労で亡くなっているそうだよ」
そこまで突き止めてるナルミさんが怖ぇえわ。
言わないけどね。
……しかし、なるほど。
エリステレーン伯爵家は皇族と確執があるわけか。
どうやってでも皇族に責任を取らせたい感がバリバリに出てる。
「ちなみに書状には、皇女ステファリーの処刑方法もいくつか提案されている。こうやって責任を取らせるから、セドルコに返してほしいって意味みたい」
「殺る気に満ち満ちている……」
一ヶ月間の市中引き回しと、広場に磔。
十分見せしめたのちに、火炙り。
殺意高すぎじゃない?
怖い怖い怖い。
いつの時代の処刑法よ、これ。
やだ。野蛮。
「一応本人にも聞いてみたいけど……」
「え、本人に? この処刑内容教えちゃうのかい?」
「これを回避するためにどうすればいいと思う?って聞いてみようかなって?」
「助けるつもりなのかい?」
「歳も近いし、女の子だし……ちゃんと反省したらうちの国から支援してもいいかなって。セドルコ帝国の民もかなり困窮してるって聞いたし」
「甘いねぇ」
そりゃ俺もそう思うけど、レナと歳の変わらない女の子がこんな処刑法で死ぬと思うと気分が……ちょっと、ねぇ?
しかもこの人、お姉さんにも裏切られているんたろう?
責任は取らせたいけど、それは死という形ではない方がいい。
護衛役のエドワードも連れて、会いに行くと声をかけたらナルミさんとラウトとディアスとデュレオとレナが地下牢に行くそうだ。
食後に地下牢前で合流するけれど、やはりデュレオはによによしている。
絶対冷やかしだと思ったよ、お前は。
「ヒューバート、皇女を助けるつもりなのか?」
「えー。本人次第かなぁ、と」
「ロス家の坊ちゃんはなんで来たの? 護衛?」
「ギア・マレディツィオーネのパイロットに用がある。解析にはもう少しサンプルがほしい」
「「ああ〜」」
ラウトは不満そうだけど、ディアスは宇宙の人類の寿命を治療しようとしてくれている。
遺伝学の権威として興味があるのだ。
「レナは地下牢、大丈夫? 怖くない?」
「はい。ヒューバート様と一緒だから大丈夫です」
天使かな?
「では、俺は件のパイロットに会いにいくので」
「はい。では後ほど」
「ああ」
地下牢は壁を挟んでU字磁石のような作りになっている。
どうあがいても看守の前を通らないといけない、シンプルな造り。
一応俺たちが来るのは事前に話を通しておいたので、看守が三人も並んで緊張の面持ち。
俺たちが右でディアスが左に進む。
「あ……」
「どうも。こうして直に会うのは初めましてですね、ステファリー殿下。ヒューバート・ルオートニスと申します。今日はセドルコ帝国からの書状について説明に参りました。部下にやらせてもよかったのですが、一応返答を送る前にご本人のご意見も聞きたかったので俺が直接説明しますね」
牢を見るとベッドの横で鎖に繋がれて、憔悴したステファリーが体育座りで小さくなっていた。
牢に入れられて数日はかなり騒いでいたと聞いている。
皇族の意地だね。
ともあれ、セドルコ帝国代理政権の書状を読み上げて聞かせる。
見る見る顔色が悪くなり、表情も硬くなっていくステファリー。
「う、嘘よ……! 私はセドルコ帝国皇帝一族の、ステファリー・セドルコよ……? なんで、そんな、処刑……って」
「自分たちを守ることもない皇族など、必要ないということでしょう。姉君も宇宙に嫁いだまま戻られないということですし、男兄弟は亡くなっているそうですね。皇帝候補たちが誰一人、この混乱を治めようともせず保身に走って民の暮らしは悪くなる一方。救いを求めてルオートニスに向かうと撃ち殺される。恨みつらみが爆発したのです。姉君はあなたにその矛を向けさせてご自分は宇宙で生き延びる腹のご様子。あなた自身が皇帝となり、当時の混乱を収めるよう動けばこのようなことになることもなかったでしょうに」
だから言ったじゃん、という意味で溜息。
皇帝候補たちの行いに対する、貴族を含めた民の答えがこれなのだ。
そんな絶望に打ちひしがれたような顔をされても、自業自得としか言えない。
チラリとエドワードを見ると、彼も顔が青くなっている。
自分が辿ったかもしれない末路が彼女なのだから、顔も青くなるだろう。
ただ、エドワードとステファリーでは決定的に違うことがある。
そのことに気づいているか、いないかだ。
「わ、私はセドルコ帝国皇帝一族の皇女……民草は、皇帝一族に無条件で従うもの……な、なのに、民草は私を……こ、殺そうというの? 私は皇帝候補なのよ……? そんな馬鹿なこと……む、謀反ですわ……! そんなのは許されない! 民草は皇帝一族のために命ある者よ……!?」
譫言のように繰り返しているところを見ると、ようやく認識に皹が入ったようだ。