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いつでも吐きそう

 

「他の皇帝候補の状況がわかったよ」

「え、早……」


 誕生日&結婚式から翌日、ナルミさんがニコニコ機嫌良さそうに現れた。

 現在うちの地下牢は満室である。

 PTSDを発症して精神不安定な数名の捕虜を除き、昨日捕まえた十一名の捕虜が追加で入ったからだ。

 地下牢、十部屋しかないの。

 朝起きて食堂に行く途中、ナルミさんから他の皇帝候補の行方を聞くと、四人中一人は宇宙で保護されているそうだ。

 残りの三人は、死亡を確認。

 帝都脱出が間に合わなかった——というか、皇帝候補には宇宙の軍の者がそれぞれ一人に一人ついていたらしい。

 しかし、その宇宙の付き人に皇帝候補は見捨てられた。

 三時間という猶予の中助けられたのはステファリー殿下他一名。

 残りの三名はこれからなにが起こるかを教わることすらなく、そのまま置き去りにされたようなのだ。

 ひどいことをする。


「死んだのは第一皇子ステゴリー。第三皇子エドリッグ。第五皇子クリード。第一皇女セラフィは宇宙に連れて行かれ、元王妃メリリアと共に宇宙の者と婚姻を結んだそうだよ」

「は? メリリアも宇宙に?」

「どうやら地上の人間と短命化した宇宙の人間が子を作ったらどうなるか、実験しているようだね。メリリアの産んだ子を見る限り結果は芳しくないようだが」

「っ……!?」


 吐きそう。

 完全に人の胎を使った人体実験じゃないか……!

 思わず口を覆ってしまう。

 メリリア、マジか。

 産んだの?

 ……確かにあの人がこの国を去って数年。

 子どもを産む時間は十分、だけど。


「第一皇女セラフィも宇宙の者と婚姻を?」

「若くて高位の位置にいる者と結婚したと思ってるんじゃない? 宇宙の事情は聞かされてないだろう。多分ステファリーもね」

「…………」


 そうか。

 そういう可能性もあるのか。

 相手のことをなにも知らされず、益のあることだけを吹き込まれて利用されて。

 だつてそれが皇帝一族。

 相手は献上するのが当たり前。


「なんかもう、滅ぶべくして滅ぶ感じだなぁ」

「一応地下牢に入れてるけど、警備は厳しくした方がいい。半年前からセドルコの難民は死んだ第一皇子ステゴリーの命令で、ルオートニスへ向かう道を通ると射殺されるようになっていたらしい。でも衛星兵器落下以降、ステゴリーの死は難民たちにも知れ渡っている。その上ステファリーが我が国に捕えられたのは国境だ。多分今セドルコの難民たちの前に皇帝候補たちを差し出したら、嬲り殺されるよ」

「……」


 なるほど、セドルコ帝国内で皇帝候補たちの生死はすでに公然と知れ渡っているのか。

 第一皇女セラフィの政略結婚は、国民たちも納得するだろう。

 宇宙から支援が受けられることを期待できる。

 しかし今回のステファリーの行動は、寝耳に水もいいところ。

 民のために皇帝を目指すと公言していたようだし、国民からすれば裏切られたようなものだ。

 なにしろルオートニスはセドルコに隣接する唯一の国。

 ルオートニスと友好を結び、支援を受けられれば、と考えるところを侵攻だ。

 皇子たちはその報いを帝都陥落で命という形で受けているが、ステファリーは火に油を注いでいる。

 それは平民貴族と、皇帝一族との決定的な認識の差が露骨に結果として現れたからだ。

 その認識の差はステファリーが民意というものを肌で感じなければ、きっと理解できないだろう。

 ただそうなった時、彼女の命はまず——。


「もしかして今回の件、国民の方がガチギレてる?」

「衛星兵器落下で死んだ皇子たちは幸せだったな、という目に遭わされるだろうね」

「宇宙に嫁に行った第一皇女はなにも言ってないんですか?」

「表向きの嘆願はあったようだけど、代理政府は却下したようだ。セラフィの嫁入り時期があからさますぎて、貴族たちもいよいよ堪忍袋の尾が切れたようだね。『妾が皇帝になる』って豪語してたのに、帝都がああなった直後に嫁入りだ。たとえ前々から話に出ていた、決定していたと主張しても、怒って当然でしょ」

「ああ……ものすごくやっちまってますね」


 その日に宇宙に上がることが決まっていた、と言い訳しても、行くのを遅らせることもなく戻ってくることもない。

 それは完全に保身を優先しているから、と平民にもわかる。

 すべてを丸投げにされた貴族たちは、重用されていたわけではない。

 重用されていた貴族は皇都で、皇子たちと死んでいる。

 なんなら皇帝候補たちのやりように口を挟むなり苦言をした者が、どんどん皇都より外へと飛ばされたという。

 いわゆる更迭ってやつだ。

 そんな目に遭わされたのに、その後始末をやらされる。

 生き残ったステファリーが、不甲斐ない口だけの姉の代わりに矢面に立ち、貴族たちを纏められるようならば名君として歴史に名を残すことになっただろう。

 それなのにステファリーがしたことといえば、宇宙の力を借りてルオートニスへの侵攻。


「そんなわけで、ステファリー皇女には帝国から引き渡し要求が来ているよ。代理政権の代表者はエリステレーン伯爵という女性。和平交渉に応じる旨と、宇宙との対話の件をセラフィ元殿下に交渉する約束を提示してきた。可能ならば一週間後にルオートニスへ来て直接陛下と話したいと、書状でお伺いを立ててきたね。もちろん急だから日程はルオートニスに合わせるとも」




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[一言] 民族として混血しても短命が遺伝するレベルか もうナノマシン投与の有無が関係ないレベル
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