帝国の未来(3)
『石晶巨兵か』
「そうなんですよ。立派に喧嘩を売られてるんで、責任者の方には出るところへ出てもらおうと思います。でも、個人的には宇宙の人たちとも仲良くしたいんですよね。宇宙の技術にはとても興味があります。宇宙の科学技術なら、石晶巨兵をより効率的に改良できそうじゃないですか」
『ああ、ファントムが喜びそうだな』
ですよねー。
俺もそう思いまーす。
「で、どうしますか? ギア・マレディツィオーネのパイロットの人。俺と戦うか。それとも自分自身で神格化したギア・フィーネとその登録者である“武神”と戦ってみるか。ちなみにオススメは俺。なぜなら俺の方が弱いから」
イノセント・ゼロで胸に手を当ててみる。
俺の方が間違いなく弱い。
でも、負けるつもりも要素もない。
ファントムに調べてもらったが、ギア・マレディツィオーネの“ギア”はギア・フィーネの名前から取っただけでギア・フィーネのような“ギア”があるわけではないそうだ。
ただ、ギア・マレディツィオーネはギア・フィーネシリーズの完全再現をコンセプトに製造されており、武器や性能は通常モードのギア・フィーネシリーズとほぼ同じ。
まあ、ラウトに言わせると『機体だけ真似してもな!』ということなので機体の完成度が高くてもやはり“ギア”があるギア・フィーネの完コピは不可能だったのだろう。
こんなの量産できてたまるか、感はあるけどな。
ファントムもラウトもギア・マレディツィオーネはギア・フィーネの代用品にはならないと言っていたし、あとはやはりパイロットの“質”だ。
それをカバーして余りある、ギア上げ。
なので俺が負けることはないし、シズフさんはもっと負けることはないだろう。
よほど卑劣な横槍が入らなければ、ね。
「どうです? 一対一で。決闘してみます? あなたが勝ったら見逃してあげますよ、そこのお姫様は」
向こうにも旨味がないとやってられないだろう。
なので、相手にとって一番望ましい、またはそれに近い条件を提示する。
……ここで改めて申し上げておくと、俺はこいつらを逃す気が一ミリもないよ!
なんなら[思念]でレナに頼んで歌ってもらってギア4に上げてからたたっ潰すのも吝かではないよ!
さあ! 俺を選べ、ギア・マレディツィオーネのパイロット!
俺の方が弱くてお得だよ!
『くだらない。それならその神とやらの力、見せてもらおう』
「え」
な、なんだってぇー。
俺じゃなくて強い方を選ぶ、だとー!?
なんでだよぉー!?
『まあ、普通に考えれば近接戦闘型のお前より一撃離脱型のディプライヴの方が、相性的に勝てる見込みが高いと思うだろう。ディプライヴは実際シリーズの中では防御力が低くて脆い。サバイバルナイフとビームハンドガンしか搭載していないし』
「ぐ、ぐうう……」
ディプライヴの方が弱そうに見えるってことか。
全然そんなことないけどな!
むしろマジで勝ちの可能性が消え失せたぞ。
『ファントムに整備してもらってディプライヴも調子がいい。機体相性で判断したのなら、それもよかろう。ひとまず話し合いに持ち込む必要があるのなら、話を聞き入れさせるようにすればいい』
「……お願いできますか?」
『問題ない』
頼もしいー!
『詐欺師王子と結託して、神を名乗って世界を手に入れんとする悪党め……!』
『……別に神を名乗ったことはない。ただ人の身でなくなったことは事実』
なんなら生身でギア・マレディツィオーネとも戦えそうだもんね、シズフさん。
さすがにやらないだろうけど。
剣を構えて突進してくるギア・マレディツィオーネに、シズフさん——ディプライヴは対人戦の構え。
余談だが、イノセント・ゼロが近接戦闘型なので、戦いの幅を広げるためにも組み手をシズフさんに教わったことのある俺は、この構えを見ただけでゲロを吐きそうになる。
なぜなら怖いから。
実力差がありすぎて、俺はシズフさんに組み手を教わっても、なにも身にならなかったのだ。
あと、単純にシズフさん教えるのド下手。
そんなシズフさんの乗るディプライヴへ、剣を構えたまま突進してくるギア・マレディツィオーネ。
勝負は一瞬だろうな、と思ったら、一瞬でディプライヴが姿を消し、次の瞬間にはギア・マレディツィオーネの剣が吹き飛び——メインカメラのある頭部も弧を描いて宙を飛んでいく。
「…………」
すいません、二足歩行兵器の首っていくらギア・フィーネでも素手で捻じ切るってできるもんなんですか?
やばくない?
頭部が取れたギア・マレディツィオーネはよろよろ後ろに下がり、後ろ向きにぶっ倒れた。
「……シズフさん、なんかしました?」
『コクピットに衝撃を与えたから、おそらく気絶していると思う』
あの一瞬でなにかましてんの、この人。
こわぁ……。
「ハッキングすればコクピットハッチは開きますかね?」
『簡単だろう。ファントムに丸投げすればいい。それより、この石晶巨兵はどうするのだ?』
「操作権は俺が持っているので、このまま徒歩で持ち帰ります。返すにしても責任は取ってもらわねばなりません。それが為政者としての責務です。ねえ? ステファリー殿下? ……死になど逃れようなどとは思いませんよね?」