帝国の未来(1)
まあ、王都からレナたちの歌声が今も響いている。
そのおかげで楽にギア3まで上げられた。
そしてギア3まで上げた現状のイノセント・ゼロは、刀で受け止めたギア・マレディツィオーネを地面に叩き落とすことなど造作もない。
ああ、ラウトが言っていた通り、敵機のパイロットがどんな顔をしているのか、想像がつく。
千年前の機体に地面へ叩き落とされ、驚愕と畏怖、そして悔しさで綯い交ぜになったような顔をしているのだろう。
「イノセント、外部への音声をオンにして」
『了解』
「あー、あー、聞こえるだろうか? ギア・マレディツィオーネのパイロット及び、似非石晶巨兵に乗る者たち。俺の名はヒューバート・ルオートニス。ルオートニス王国第一王子である」
『!?』
石晶巨兵の主導権はすべて“俺”に帰属している。
内部の音声も全部丸聞こえだ。
息を呑む音。
そして、あの真ん中の装飾が派手な石晶巨兵からは『ヒューバート・ルオートニスだと……?』という呟きが聞こえてきた。
「貴国は神の怒りに触れ、神の怒りの鉄槌を受けたにも関わらずよりにもよって我が生誕の日と結婚の儀の最中に我が国土へ直接攻撃を仕掛けてきたな?」
ひとまずはお前らこんなことやらかしてますけど、って事実確認である。
誰一人答えない。
ふむふむ、まあいいだろう。
認めてしまえばそちらが不利だもんね。
無駄な抵抗お疲れ様って感じだけど。
「正直貴国の混乱の中、よくめげずに攻撃してきたものだと素直に驚いている。馬鹿につける薬はないということなのか、自国の状況を本当に理解していないと見える」
『なんだと!?』
煽ったらあの派手な石晶巨兵から女性の声が聞こえてきた。
よしよし、釣れたね。
「我が国は貴国に和平を申し入れた。その返答が攻撃ということは、貴国はまだ戦争が続いているとでも思っているのか?」
『だ——黙れ! ルオートニスの王子が自らたった一人で現れるなどそれこそ笑止千万! 貴様を人質に、私はセドルコ帝国の女帝となり国を再建する!』
「ほう? ……ということは、あなたはセラフィ殿下かステファリー殿下、なのですか? 名乗りも上げずに縮こまって、次期女帝はなんとも腰抜けですね」
『誰が腰抜けだ! ……私は、私はステファリー・セドルコ! セドルコ帝国第四皇女だ!』
はい、引っかかりましたー。
いいのが釣れたねぇ。
そもそも、俺は別に護衛もなしでここまできたわけではない。
センサーに引っかからないほど上空に、調査用ドローンの位置を観測しているシズフさん——二号機がいるもんね。
現在俺もまた“連結”の一部に組み込まれている。
状況が変われば王都から三号機の長距離精密狙撃ユニットが火を噴くし、ラウトの【反射結晶】の加護も健在。
神鎧化してギア5の状況の二号機がここまで来るのに二秒もかからない、ってところまで考えると、危ないのはあなた方の方だが?
「なるほど? で? その皇帝候補のステファリー殿下が、いったい全体どういうおつもりで攻撃を仕掛けてこられたんですかね? 自国の状況が本当にわかっておられないのですか? 馬鹿ですか? 俺を捕虜にして交渉? できると思ってます? 宇宙の後ろ盾があればできると思ったんでしょうけど、現状を見てもまだ同じことが言えますか? 言えるとしたら、あなたは為政者に向いてないですね? まだご兄弟の敵討ちと言われた方が納得できたんですが?」
我ながら性格が悪い言い方をしてしまったと思う。
でも、俺も結構頭に来ているのだ。
このくらいの嫌味は許されて然るべきでは?
『わ、私が負けなければ問題はない!』
「あはは。そのザマでですか? 言っておきますが、二年前にセドルコ帝国に渡した石晶巨兵のデータには武装して我が国を襲ってきた場合、機体の主導権をギア・フィーネで取得するという仕掛けがしてあります。今あなた方の石晶巨兵が動かないのは、機体の主導権を俺が奪ったからです」
『なっ!? なんだと!? 我らを謀ったのか!?』
「石晶巨兵のデータを手渡す条件に『非武装』があります。それを破ったのはそちらでしょう? もしかして、契約書見ないタイプですか? ええ? 嘘でしょ? それでも皇帝候補なんですか? はぁーーー、呆れてものも言えませんね」
『くっ、ぐ……!』
怒りに震える声。
でも、こっちの条件を破ったのはそちらだ。
その場合のリスクは考慮しておくのが当たり前だと思いまーす。
そもそも、そんなにうちの国と仲良くないんだしさあ。
それなのにそのリスクも考えず武装して襲ってくるんだもん、ピュアピュアかよ。
「まあ、ね? 考古学が必要な“ディスク”から、石晶巨兵を作れたことは称賛に値しますよ? 頑張ったなー、って思います。宇宙の協力を得てのことではありましょうが、こちらの正式な技術者から教わったわけでもなく、宇宙の力を借りて傀儡になるのを受け入れて、そこまでしなきゃいけないなんて可哀想だなぁー!って思いつつも頑張って作ったのは伝わってきます。でもまるでうちの国がこうなることを考えてなかったみたいに、そのまま信じて作るなんて、ねぇ?」








