落とし前(4)
ジェラルドが鼻歌歌いながら王都近郊に漂うラウトとディアスへ、狙撃能力を共有して的を絞る。
さらにそこへシズフさんの能力も加わり誤差が修正。
主に、回避行動を行なわれた場合の逃げ道の予測。
それが加わることで、ドローンたちから逃げ道がなくなる。
『まだまだ不慣れだな。アレン、お前がサポートしても粗が目立つ』
『わーい、ザードだぁ』
「!?」
なにこれ、ヤバい。
ヒューマノイドとしての能力で、ファントムも『思考共有』で“連結”に加わってこれるのか!?
そして三号機にダウンロードされていた“アレン・ザドクリフ”も!
この二人のサポートがまたさらに狙撃能力を向上させる。
途中になにかトラブルがあっても、この二人の“能力”で情報がリアルタイムに修正されるようだ。——これが『未来予測』! やべぇ!
そしてこいつらのやりたいことも理解できた。
はい、俺がやりすぎましたね確定です。
宇宙のみんな、ごめんね! 負け確だよ! ゲロ……。
『チャージ率120%完了。準備はいいな? ディアス・ロス』
『望むところだ。いつでも来い』
『じゃあぼくは調査ドローン落とすねぇ〜』
ジェラルドのゆるい宣言のあと、チャージ率最大の五号機が胸部電子融解砲が放たれる。
その強力な極太ビームを、ディアスの一号機サルヴェイションのオールドミラーが合体した大盾が受け止めた。
反射した巨大なビームが、そのまま角度を変えられ結界上の超広範囲に散布された殺戮用ドローンをローラー式に蒸発させていく。
結界への攻撃ではないから結界は無事。
五号機が胸部電子融解砲を放ち続けているから、威力は弱まることはない。
そしてジェラルドが長距離精密狙撃ユニットで調査用ドローンを撃ち抜いていく。
位置情報はシズフさんがリアルタイムで送ってくれたものと、ファントムが収容した敵の最新機ギア・マレディツィオーネで『ハッキング』して宇宙のリアルタイム情報を共有する。
調査用ドローンの回避行動も、シズフさんとファントムの“戦歴”が予想してしまうから無人機ごときでは回避不可能。
十機ほどあった調査用ドローンは、瞬く間に撃ち抜かれていく。
俺もセドルコ帝国上空付近に到達した。
調査用ドローンを管理している機体の反応は、目視可能な域。
「!」
いた。
見つけた。
向こうも俺の存在をレーダーで感知していたらしく、刀のような武器を引き抜いた。
ギア・フィーネ四号機をモデルにしたギア・マレディツィオーネ。
なるほど。
ラウトが「潰したくなるほど気に入らない」って言ってた理由が、少しだけわかる。
ギア・フィーネに愛着があればあるほど、それを模しただけの機体には不快感を覚えるのだ。
不思議な感覚だな。
ファントムに手渡されたイノセント・ゼロ用の黒剣を、俺もまた引き抜いて加速した。
「あ?」
結界を飛び出すと、実弾銃がイノセント・ゼロを撃ってくる。
ギアは2まで上げてあるので、ダメージにはなっていないが撃っている“モノ”が問題だった。
とことん、セドルコ帝国は俺の逆鱗を逆撫でしたいらしい。
そうまでして俺を怒らせて、なにか得でもあるのかな?
ギア・マレディツィオーネの下。
地上に十機ほど並ぶのは光炎を模した石晶巨兵。
それが武装して、ライフル銃でイノセント・ゼロを撃っているのだ。
「……ハッキング開始。Cデータ発動」
上等だ。
二年前に石晶巨兵をせびってきて、渡したCデータの石晶巨兵を本当に作ったのか。
ナルミさんがニコニコしながら使者はルオートニス守護神教の信者にしてしまったようだが、データそのものはしっかり帝国に伝えられて皇族たちのみに有効活用されたようだ。
信じられない。
民のために、使わなかったのか。
土地を治癒することもなく、武装兵器として製造したのか。
本当に救いようがない。
俺とて一時的にギア4まで上げた者。
『ハッキング』はできるようになっている!
だから俺が、俺の手で!
『な、なんだ!』
『出力が落ちるぞ!?』
『うわああああっ!』
十機の石晶巨兵は機能を停止する。
セドルコ帝国に手渡したCデータで造られた石晶巨兵のサポートAIには、ギア・フィーネの『ハッキング』でアクセスすれば主導権を奪えるのだ。
二年前の俺ならば、ラウトやディアスにその権限を渡していた。
でも今は、俺が俺の手で『ハッキング』して主導権を奪える。
セドルコ帝国の石晶巨兵は全機、ギア・マレディツィオーネを狙え!
『操縦が! 勝手に!』
『一体どうなっているの!?』
通信も開きっぱなしなのだが、真ん中の一機は女が乗っている。
デザインも特殊だし、隊長機か?
「まあ、それはあとで確認するけど、ね!」
振りかぶった黒剣を長刀を振り翳したギア・マレディツィオーネに振り下ろす。
ギアを3に上げる。
あれほど苦労したギア上げも、3までなら難なく上げられるようになった。
俺も成長しているんだなぁ。
時間を見つけては自主的にギア上げ頑張ってた甲斐がある。
ちょっと感動するなぁ。