落とし前(3)
『は〜い! というわけで、ディアスさん、ラウト、シズフさん! 三号機のシステムに連結よろしくお願いしま〜す! こっちで情報処理してターゲットロックオンしますね〜!』
『ほう。了解した』
『了解』
『……了解』
……やっちまいましたか? 俺。
やっちまいましたね?
これはやってしまったな? 俺。
めちゃくちゃ楽しそうなファントムとジェラルド。
それに興味深そうな笑みで返事をするディアスと、冷静なシズフさんにちょっと不本意そうなラウト。
俺抜きで十分やれちゃうって感じですか?
「あ、あの、ファントム……これからなにが起こるんでしょうか?」
「千年前はシンプルにギア・フィーネが別の勢力に散ってて、できなかった技術を使う。簡単に言えば『連結』だな」
「連結?」
それがなに、って感じだけど、ファントムの説明によると『ハッキング』はそもそもギア・フィーネ同士がシステムを“連結”させる機能の応用にすぎない。
連結するとどうなるの、って話だが、共闘用の連結が行われると『思考共有』と『思考加速』、さらに『未来予測』ができるようになる。
これはギア・フィーネのGFエンジンに入っている“天才”の脳が拡張され、量子演算コンピューターが強化されて可能になるギア・フィーネ最強のシステム。
実は千年前、四号機と三号機はギア4に到達した戦争終期に使えるようになったようだが、その時点でもうすでに“一国家級の脅威”として認められたのはそのシステムを二機で使用した結果。
はい。もうそれだけ聞いてすでにヤバいですね。
ギア・フィーネの登録者の思考を共有し、思考を加速して未来予測を行う。
相手の行動の先読みができるということもすでにヤバいが、それをやるのがギア・フィーネっていうのがヤバいのだ。
「まあ、俺も二機以上が“連結”するところは初めて見る。俺とアベルトで行った“連結”はアイツが最前線で突っ込んで、敵を撹乱したところを狙撃するってやり方だった。ただ、まあ、あの頃すでに俺とアイツは“連結”せずとも互いのやるべき役割が明確になっていたから、使ってもあまり関係なかったんだが」
「……まさしく戦友なんですね」
「まぁな。正直ラウト・セレンテージ……あいつがアベルトの手の汚れなんぞを気にしていて、最後まで手を取らなかったのはアイツの覚悟への侮辱だとさえ思っていた」
「っえ」
エアーフリートの中に初めて入った時の話、聞いてたのか?
驚いて顔を上げると、ファントムは腕を組んで膨れっ面になっている。
「アベルトは必要なら敵を殺す覚悟をちゃんとしていた。今のお前のように。ただ、それをさせたくなかったやつらが、お節介でそうさせなかっただけだ。……その筆頭が超天才で、超最強な狙撃能力を持つこの俺だったってだけで」
「……ファントム……」
「俺はあのクソガキにも落とし前をつけさせるぜ。とりあえず今日のところは“連結”でその意味を理解させるけどな。位置情報はリアルタイムで転送するから、お前はとっとと移動を開始しな。俺は“王都”から狙い撃つ」
は?
思わずファントムが表示したままの管理機体二機の場所を見る。
えーと? これは……距離的に国の中央から端ってレベルだが?
北海道の中央から、尻尾みたいなところまでの距離を撃つって認識でよろしい?
そんなことできんの?
「本当は俺一人で両方同時に撃ち抜くこともできるけどな。回収に行く必要があるから、仮名称ベータのメインカメラで許してやるよ。お前は仮名称アルファを潰せ」
「……っ、りょ、了解」
と、ファントムは東から南へ向かって動くモノを指差す。
それを仮名称アルファとし、俺が担当する。
北から西へ動いているモノはベータ。
ファントムが担当してくれる。
「じゃあ祭りの開始だ。開催宣言は言い出しっぺがやれよ、王子様」
「え」
ちらりとジェラルドたちの顔が表示されるモニターを見る。
地図と同じく浮かぶそれらから、四人それぞれの顔が俺を見つめていた。
ジェラルドとディアスはニヤニヤと。
シズフさんとラウトは無表情で。
「……。……こほん! では、始末してください」
『『『『了解』』』』
聖女たちの歌声が響く中のギア上げだ。
四人の右目が各ギア・フィーネの右目のカラーと色が替わる。
その上で、さらにギアが上がると神鎧化しているシズフさんとラウトの両眼が金に輝く。
神鎧を纏う神の証。
「俺たちも出るぜ」
「はい」
ファントムと俺も自分の機体に乗り込む。
エアーフリートのハッチが開き、送られた位置情報を頼りに空へと飛び出す。
結界の上に重なった殺戮兵器はうごうごと忙しなく動き回り、結界へ攻撃を行なっている。
あんなものが結界の中に一機でも入り込めば、村一つ町一つ容易く殲滅するだろう。
そんなことはさせない——!
『るんるる〜ん♪』
ギア・フィーネの“連結”システムが作動する。
王都から離れながら後方をモニターで確認すると、俺もどうやら“連結”システムの中に入れてもらったらしくてモニターを見ずとも状況がわかってしまう。
え、すげぇ。