落とし前(1)
まして“今日”を狙ってきたんだから、確信犯でしょ。
書状をまだ見てない、って言い訳はなしだよ。
もう一週間近く経ってるんだから。
俺だって自力のギア上げは時間を見つけてやってきた。
乗ってなくても『ハッキング』を行える。
研究塔からエアーフリートと四号機を、上空まで呼び出す。
騒つく来客たちだが、ゆっくりと四号機と三号機が降下してきて着地地点を空ける。
ジェラルドにこの場を頼んで、俺は四号機に乗り込もう。
「ヒューバート様!? 行かれるおつもりですか!?」
「ごめんね、レナ。本当は今日一日ずっと側にいたかった。俺誕生日だし、そのくらいの我儘、別にいいと思うんだけど……世知辛いね」
他の聖女たちの歌のおかげで負担が減ったレナが駆け寄ってくる。
せっかくのウエディングドレス、今日一日は隣で見ていたかった。
そろそろ目も慣れてきたことだし、直視しても潰れないだろう。
ん、意外とダメだぁ、やはり美しいぃぃぃ……!
これが今日で見納めだなんて寂しいしもったいない。
もっと全人類にこの美しさを鑑賞させてあげた方がいいのではないだろうか?
デュレオという『美と芸術の神』もいるし、レナの美しさを後世に残すための銅像とか作って聖殿の祭壇に置くべきではなかろうか?
「ヒューバート様……口に全部出てます……」
「あ、いや、割と真面目に現状対策も考えてるよ!?」
「わ、わかっております。それと、わたしの銅像はいりません!」
「うぐぅ……そ、そう?」
俺が記念にほしかったんだけど、ダメかぁ。
ギア・フィーネに録画機能とかない?
「……ご希望でしたら、いつでも着ますから」
「本当!?」
「その時はヒューバート様も着てください」
「……需要なくない?」
「わたしにあります」
「そ、そう? わかった……?」
レナにコスプレ性癖が……?
まさか?
でもまあ、ありといえばありだよな、俺もまたウエディングドレスに着飾ったレナを見たいし。
しかし今この瞬間のレナはこの瞬間にしか見られないわけで——。
『おい、呼び出しておいていつまでも来ないとはいい度胸だな』
「ひい! 今すぐ行きます!」
袖から杖を取り出し、[浮遊]魔法で浮かび上がる。
頭上にエアーフリートが現れ、ファントムの[念話]が飛び込んできたので一刻も早く行かねば殺される!
「ご無事をお祈りしております」
「うん!」
レナに手を振り、[浮遊]から[飛翔]へ魔法を切り替えた。
そのまま上空のエアーフリートの扉に張りつき、出入り口を開けてもらって中へ入る。
格納庫へ行くと不機嫌そうなファントム。
「あ、あのー、来ていただきありがとうございます」
「本当にな!」
怖いよぉ。
「それよりお前今日誕生日らしいじゃねぇか」
「え? は、はい」
え、なになに本当怖い怖い怖い。
笑顔が邪悪すぎて怖すぎる。
なんで今その話題振ってきたの!?
「誕生日プレゼントにコレをやろう」
「これは……パイロットスーツ!?」
「あとアレ。左のやつな」
「デカ!? な、なんですか!?」
放り投げられたのはラウトとシズフさんが初めて会った時着ていたような、パイロットスーツだ。
すげー! ロボアニメのやつ!
って、喜んでたら追加で十メートルくらいの格納パーツを指さされた。
ファントムが指を鳴らすと、左の縦長い箱がカラカラ音を立てて扉を巻き込みながら開いていく。
そこに現れたのは、黒剣だ。
デカい。俺用っていうか、コレは多分四号機用の武器じゃないのか!?
「ファントム……」
ダメって言ったのに、兵器を作ったな?
と、いう意味でジトリと見つめると顔を背けられた。
こ、このやろう!
「四号機は近接戦闘格闘型。でもお前、元々剣で戦ってたんだろう?」
「ま、まあ、そうですけど」
そうらしい。
ボクシングとか、空手とか、そういう系を経験してれば強いんだろう。
でも俺は剣しか学んでこなかった。
組み手をシズフさんやラウトに教わったことがあるけど、あまり時間が取れなくて身になっているとは言い難い。
それならまだ、幼少期からやっている剣の方が得意だ。
「アベルトも時々は剣を使っていた。アイツも一応サイファに格闘技教わってたけど多勢に無勢が多かったからな。敵の数が手に負えないほど多い時だけだが、戦争後期は常用していた。武器一つあるだけで戦い方の幅が広がる」
「そ、それは……わかります、けど」
「元々三号機用に作った二重刀ユニットをアイツに貸し出してたら、結構相性良かったからアイツ専用に手直ししたやつ——の、改良版。アレ長かったから、この時代の騎士団が使う長さに調整して作った。多分使いやすいだろ」
「……」
そう言われて改めて見上げると、確かに抜き身の洋風長剣だ。
隣にある左側の箱の中には、そのモデルとなった二重刀ユニットがあるのだろう。
「言っておくけど二重刀ユニットは使えねーぞ。折れてるからな」
「え、折れてるんですか?」
「最後の五号機との戦いの時、根本付近から折れたんだわ」
そう言って右側の箱も開けてくれる。
本当に根本から折れた巨大な刀の残骸がかけてあった。
廃棄することなく、大切に。
遺っているのがスゲェ。
ずっとエアーフリートの中に保管されていたのかな。
「まあ、あとディアス・ロスが言っていた作り方で、本当にGFエンジンを覆っているモノと同じ素材が作れるのかやってみたかったってのもある」
裏設定
かつてアスメジスア基国に『黄金竜』と『無欠の紅獅子』に並ぶ『蒼海の虎』と呼ばれる軍人がいました。
彼は戦災孤児でしたが優秀だったので軍人になる前、留学で共和主義連合国軍になる前のレネエルの学生でした。
その学校のマドンナを射止め、学生結婚しました。
安定した生活のためにアスメジスア基国では軍属になるのが当たり前だったため、子どもが生まれる前に帰国して軍属になりますが、そのタイミングでレネエルは共和主義連合国軍に強制的に加盟してしまい妻子をアスメジスア基国に呼ぶことも難しくなってしまいました。
戦果を挙げれば妻子を国に呼べると頑張り『蒼海の虎』の二つ名まで得ましたが、メイゼアとダイグロリアがギア・フィーネの登録者に行った非道な実験や対応に衝撃を受けてしまいます。なにせまだ二十台前半で若かったので。
単独でギア・フィーネらしき機体の目撃情報を調査していた時、ダイグロリアから逃れた三号機の登録者に出会います。
彼は息子と同い年の少年が、両親を目の前で無惨に殺害されたことを知っていたので保護しようと手を伸ばします。
しかしその登録者はすでに「どうやって世界から逃れるか」を模索して、そのために会社を起こすことを決めて行動していました。
彼はその姿勢に感銘を受けて自分の機体のコクピットを破壊させ、戦死を装って登録者と共に行くことを即決しました。
このまま国にいても、家族を迎えにいけないのも決断の理由の一つでした。
結局忙殺されて息子と三号機の登録者が十七歳になるまで会うこともできず、妻へ『遺族年金』という形で仕送りしかできない状況が続きますが、息子が四号機の登録者になり、三号機の登録者が保護することになり思わぬ形で初めて息子と顔を合わせることになります。
死んでいることになっているため名前も『サイファー・ロン・ガイラオ』と別人となっており、多忙な生活で若い頃とはかなり印象が変わった彼を息子もまさか父とは思わず接してくるので結局最期まで言い出すことはできませんでした。
しかし、それでも昔学んだ格闘技を息子に教えたりして、“兄貴分”のように慕ってもらうことはできました。
事情を知っているザードには「好きにすれば」と言われていましたが、内心は早く“父親”を返してやりたかったと思います。
そういう面でもザードにとってアベルト・ザグレブは特別な登録者だったといえるでしょう。