誕生日と結婚式(3)
ブーケは誰がゲットしたのだろうと、気にする間もない。
レナが表情を顰める。
「くっ……! お、重い……! ヒューバート様、すぐに結界を貼り直します……! すぐに他の聖女候補の方々にも、結界強化の指示を!」
「わかった! パティ!」
「了解いたしました! すぐに伝えて参ります!」
パティに聖女候補の招集を指示する。
レナは両手を広げ、目を閉じると歌い始めた。
光の輪が幾重にも広がり、魔法陣が形成されていく。
「ジェラルドはどこ!」
「うわぁっ! ミ、ミレルダ嬢がゲットしたんですか、花束」
「これを持って結婚を申し込むのがこの国の習わしだと聞いたからね!」
そこまで男前にならなくてもいいのでは!?
「あの、でも今ちょっとそれどころではない感じで」
「結界の上に張りついてるアレだね」
「そうですね」
やはり聖女。
普段は透明でわからないが、結界が国を覆い守っているのがよくわかる本日の絵面。
結晶化した大地の治癒が進み、土地が広がったことで結界も広げられ、薄くなってしまっている。
その上での、宇宙からのなんらかの攻撃。
レナが王都から国中へ結界強化の『聖女の魔法』を広げるが、さすがのレナでも一人では強化が間に合わないだろう。
一刻も早く他の聖女候補たちに協力してもらわないと。
「それなら、ボクも協力するとも! ボクも“聖女”だよ、忘れてない!?」
「忘れてましたね」
「しかも本日はわたくしも参列しておりますわ」
「シャルロット様!」
「アタクシとマロヌ姫もね!」
「あい!」
「スヴィア嬢、マロヌ姫!」
いかん、結婚式の最中の記憶がなくて挨拶した覚えがないけど、そういえばそうだった。
今日の俺の結婚式には、他国の要人が多数参列している。
ハニュレオからはマロヌ姫。
西方諸国ルレーン国からはシャルロット様。
招待客名簿の中にいたのは知ってたけど、俺ちゃんと挨拶したっけ!? 記憶にございません!
いや、それよりも、レナ一人でも大変そうなこの状況で、他国の有力な聖女たちが勢揃いしているのはありがたい!
「ぜひご協力お願いします!」
「任せてくれ!」
「お任せください!」
「もちろんです!」
「あい!」
なんだか久しぶりに一緒に歌えるのが嬉しそうな、ミレルダ嬢とシャルロット様。
マロヌ姫と手を取り合い、スヴィア嬢も目を閉じる。
聖女たちの歌声が響くと、レナの魔法陣にさらなる輝きが追加されていく。
「あ」
広がり続ける白い光に、黒い粒が増える。
キモ、っと思っていたら結界の外に五号機が見えた。ラウトだ。
次の瞬間黒い粒が結晶化して、一気に砕ける。
開始からは「おお……!」という感嘆の声が上がった。
よかった、ラウトが対応してくれたなら大丈夫……大丈夫かな?
ラウトはやりすぎるところがあるからなぁ……!
そう心配していたら、二号機も上空に飛んでいく。
え? シズフさんまで……?
ラウトのストッパーかな?
いや、黒い機体も見える。
一号機——ディアスまで!?
過剰すぎでは!?
「トニスのおっさん、なにか起きてるかわかる?」
「ディアスの旦那曰く、宇宙から大量の無人機が降下しているとのことです。結界を重ねがけしますが、広範囲すぎて聖女の結界の方が確実とのこと。結婚式と誕生日に申し訳ありませんが、レナ嬢にはこのまま結界強化に努めていただきたい。落ちてきているのは——殺戮兵器なので」
「っ!」
「生体反応を無差別に攻撃するそうです。撒かれたのが広範囲すぎるので、ディアスの旦那と機動性の高い二号機が索敵と破壊を行い、集団になっているところへは五号機と戦神が直接出向いてまとめて始末するとのこと。殿下はこのままレナ嬢たち、聖女様方をお守りいただけますかい?」
「…………わかった。ジェラルドと三号機にも、防衛に回ってもらってくれ」
「了解」
一瞬、息を止めた。
一週間前に話し合い、まとめた内容——和平条約の申し入れの、こっちの書状は届いていると聞いている。
それでもなお、攻撃を行ってきた。
なんなら首都を含めて広範囲を、殺戮兵器で。
ルオートニスが嫌がるであろう戦略で、襲ってきた。
和平への話し合いの中には、宇宙の問題も相談に乗ると記載してもらったのに。
話し合うつもりはないということか。
それとも、これを防がれるようなら応じるってことなんだろうか。
俺は割と、温厚な方だと思うし……今までの攻防はこちらがやりすぎてしまったなぁ、とさえ思っていたのだが……宇宙はそう思ってなかったんだろうな。
だからまた襲ってきたんだろう。
甘いとよく言われるが、本当に甘かったんだ。
だから——こんな日にレナと、来客たちと、民を……こんなに、何日も前から準備して祝ってくれた俺の民を危険に晒してしまったのだ。
「……それから、俺も出る。兵器に指示を出しているところを探して見つけたら、教えてほしい。エアーフリートも出すとファントムに連絡してくれ。全部潰す」
「は? いや、殿下にはレナ嬢たちを守っていたたきたいんですが」
「大元を潰した方が早い。うちの国に直接手を出してきた報いは受けてもらわないと。こっちは十分譲歩した。二度目までは許すが三度目はない」
「っ……了解いたしました」