対策会議(3)
黙って聞いてる父上や家臣たちも、俺の方に注目する。
俺がセドルコ帝国を傀儡にして攻めてきた宇宙と、どう落とし前つけさせるのかを見ているんだろう。
そう、落とし前、つけないとね。
「まずは対話しよう。でないとなにも始まらない。そもそも宇宙の人間たちの目的がこちらが事前に調べた通りなら、協力できるはずなんだ」
なぜならこっちには医神ディアスと原材料デュレオがいるから。
ディアスの頭の良さは、どうやら王苑寺ギアンと同等らしい。
そのディアスが本気で調べたら、宇宙の人間たちの寿命も改善できるんじゃないかなって。
「なにを要求するつもりなのかな?」
「もちろん技術提供してもらう。石晶巨兵の基礎的な骨組みとかは、鉄が使われているしね。石晶巨兵以外にも、便利なものがたくさんあると思うんだ。地上では失われた科学を、少しずつ地上にもその恩恵が広がればいいんじゃないかな。科学だって元々は人の暮らしを豊かにするために発展したもののはずだもん。石晶巨兵と同じだよ。使う者が平和に正しく使えば、悪いものではない」
なにより俺は前世でそれなりに科学水準が高い国にいた。
今世が不便ってわけではないけど、スマホとかテレビとかが懐かしい時もある。
ギア・フィーネの通信機はマジで便利だしね。
使い魔飛ばすより一瞬だしさ。
デュレオとかテレビの歌番とかで眺めたくない?
世界のエネルギー問題が解決して、結晶化した大地が資源としての範囲しか持たなくなり、聖女たちが結界を作る必要もなくなったなら……アイドル歌手っぽくしてデビューさせればいいんじゃないかなぁ。
「さすがはヒューバート殿下……! なんという平和的なお考え!」
「やはり、ヒューバート殿下は世界を導くに相応しいですな」
「どうかこのルオートニスと世界を、先導者として導いていただきたい。ヒューバート殿下」
「え? えーと……いや、そこまでの期待を寄せられるのはちょっと重いかな」
大臣や高官たちの期待が重すぎるて。
「ははは! まあ、皆が期待したくなる気持ちもわからんでもないが、ヒューバートの望みはあくまでもすべてのものが手を取り合って己の力で平和を選択してほしい、というものだ。我らが一人一人、平和について真剣に考えることこそが必要。そうであろう?」
「そうですね!」
そう、そうなんですよ父上!
マジでそれです!
全部俺に丸投げしないでほしいんですよ!
「武力というのは一番簡単な解決法だ。これからさらに土地が増え、世界の人口が増えれば話し合い、妥協点を探すという困難な道から目を背ける者が増えるだろう。対話とはそれほど労力が必要となることだ。千年前の人類が対話を怠ったとは思わないが、科学が進歩して便利性は今の数倍あっただろうに、それでも世界が滅ぶ間際まで人類は追い詰められたのだ。それほど、武力とは容易い」
父上はやはりすごいな。
俺が上手く言語化できないところをこれほどにもあっさり、説得力がある言い方で語るのだ。
やはり王としての器が違うんだよな、俺とは。
「宇宙の者たちとも、だからこそ話し合わなければならない。これから共に同じ世界で生きていくことになるのだから。セドルコ帝国とも。そうだろう?」
「はい! 父上!」
「うむ、だからこそお前も旗印になることを率先してやりなさい。言い出し、理想を掲げたのはお前なのだから」
「げぇ……」
そう繋がるんだぁ。
「それが責任というものだ。お前もあと僅かで成人。私がお前の選択の結果に責任を持つのもあと僅か。大人になり、自分の選択の結果には自分で責任を持つようになる。今までは私が責任を負っていたからこそ、多少口出しはしていたが、これからはそうはいかないぞ」
「……っ……はい。胸に刻み、精進を続けます」
そうね。
世界平和を掲げたのは俺ね。
話し合い、していきたいですね。
もちろん、この“話し合い”のためにどれほどの帝国都民が犠牲になったのかは知っておかなければならない。
犠牲がなければ話し合いに持ち込めないのも、人の悲しいところだ。
痛みを共有してからでなければ話し合えない。
でも、その痛みが一方的ならそうもいかない。
ただ今回は、俺たちの国に正真正銘本物の“神”という、絶対的な力がいたからだ。
絶対的なものが存在しない千年前と現代を、あまり比べるものではないような気がする。
なんにしても、今の人類には本物の神がいる。
その神の意に身を任せることも一つの解決方法だろう。
ただ、俺はそれを、しない。
「シズフさん、宇宙が俺たちにされて一番嫌なことはなんでしょう?」
「——結晶病を持ち込まれることではないか? 結晶病が恐ろしくて、宇宙は地上との接触を避けていたはずだからな」
「こちらは宇宙になにをされたらまずいでしょう?」
「全戦力の各国への降下作戦だろうか。広範囲すぎると五機しか存在しないギア・フィーネだけでは、対応しきれない。ただ、これはあまり現実的ではない。全戦力の投入は、背水の陣でもある。他に手がなくなった場合だ」
宇宙にはまだ無人機っていう手があるはずって意味ね。
なるほど……。