研究塔(4)
『ギギって呼んでおくれ。お掃除は終わってるよ! フロア内をカスタマイズしたかったら、それもギギにお任せあれ!』
「す、すごく流暢に喋りますね」
『君たちの研究はギギがサポートするよ! 情報を盗もうとする悪いやつは、ギギがとっちめるからお任せあれ!』
「こりゃ頼もしいな」
「むむ……古代科学の存在、でしょうか。動物が喋っているみたいですごいですね……」
冗談抜きですげー。
ここなら確かにどんな研究でも安心して進められそうだ。
明らかに現代技術では不可能な存在。
……もしかして、俺らって今割ととんでもない状況なのでは……。
い、いやいや、怯んでる場合じゃない!
「では、ギギ。俺たちの研究内容を先に伝えておく。それを聞いてお前が必要だと思う設備を整えてくれ」
無茶振りかな、と思って宣言すると、ギギは『了解しましたー!』と翼を広げて返事をする。
マ、マジか〜〜〜〜!
「俺たちは『聖女の魔法』を普通の人間が使えるようにする研究をしている。主に、魔道具にできないか、と思っている」
『アーーーーー。——————。……アップデート完了! フロア内ノ改装ヲ開始シマス』
「うわ……」
びっくりした。
いや、もう何回びっくりすりゃいいんだ、この施設!
壁が生えてきて、区画——部屋が形成されていく。
テーブルや椅子まで!
「す、すごすぎ……」
「どうなってるんでしょうか……」
『現代人のみなさーんに、一点注意がございまーす』
「な、なんだ?」
研究室が個室のあるフロアに変身したら、ギギが首を回転させる。
いや、怖。
現代人、というのも気になる。
『当施設はレッドデータプロジェクト総括、通称名称“クイーン”とは接触せず、新たに組まれた大和型自由研究施設となっております。これまでこの施設を利用してきた研究者たちにより、当施設が完成した時代よりも、技術力が衰退しているとの申告が多数ありました』
「そ、そうだな」
『ギギはあくまで施設管理者ですので、研究者たちのサポートに徹しております。が、しかし、結晶化した大地に呑まれた場所の中には、当施設の健全な運営を脅かす“クイーン”のウイルスが、多数残留している可能性が高い。お戻りになられる際は、スキャン機能をお使いください。クイーンに侵食されれば、当施設は安全に研究者の皆様へのサポートを継続できなくなる可能性が極めて高くなります』
「……!」
「? どういうことだ?」
「殿下、ギギの言っていること、わかります?」
俺以外の四人は、ギギの言っている内容をまるで理解できていないのだろう。
でも、俺には前世の記憶がある。
特にSF系のアニメとか映画の知識が、それに該当する事象。
「ギ、ギギ、まさか、結晶病は、そのクイーンっていうウイルスが原因なのか?」
だとしたら、ウイルスを解析してワクチンが作れるのでは——。
この施設の技術力なら特効薬が作れるのでは。
そう期待を込めて質問した。
『ノー! ウイルスはウイルスでもコンピューターウイルスでーす』
「…………。そうか、なんだ……」
「ヒューバート様?」
「あ、ごめん。えーと、要するに外の結晶病みたいな病気が、この施設に入るとギギがその病気に罹って危険、と言っていたんだ」
「まあ、そうなのですね。わたしの魔法で治癒はできないのでしょうか?」
「うーん、多分レナの『聖女の魔法』でも無理だろうな……」
コンピューターウイルスが『聖女の魔法』で直ったら笑っちゃう。
いや、しかし……色々興味深いこといっぱい言ってたな。
生きた化石みたいな感じ?
もしかして、衰退した間に消えた歴史とか、知ってたりする?
「なあ、ギギ。ギギの言うタイワという国はどんな国だったんだ? どうしてこの土地はルオートニス王国になったんだろうか?」
『当施設が建設され、ギギたちがこの施設のAIになったのはおよそ千年前になりまーす。当時稼働していたのはせいぜい五年三ヶ月と二日でした。それ以降施設の電源は落とされて、五十年ほど前に最初の研究者さんがギギたちを再起動させました。しかし、ギギたちはその研究者さんの研究をお手伝いできませんでした。なので研究者さんは、ギギたちを起こして放置していかれました。ギギたちが本当にサポートすべき研究者さんが、いつか必ず現れるとおっしゃっていました』
つまりタイワという国がいつの間にか滅んでて、ルオートニス王国になっていた。
その上知らないうちに世界は結晶化した大地に侵食されているし、ギギたちを再起動させた研究者はギギたちを利用することなく放置した、と。
いやー、めでたいほどになにもわからない。
「……その再起動させた研究者は、どうしてギギたちを利用しなかったんだ?」
『この国の民ではないからー、とおっしゃっていましたし、研究内容がギギたちにはお手伝いできないものでした』
「ギギたちが手伝えない研究内容って?」
『魔法に関するものです。それと、自死——自殺に関するものでしたねー』
「……え」
硬直した。
なんなら足下が崩れたのでは、と思うような答え。