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番外編 戦神(3)

 


「俺のギア・フィーネの模造品。それだけでも不愉快だというのに、なんだその様は。劣化品もいいところだ。つまらんおもちゃではしゃぐ割に、てんで相手にもならない。多少は楽しめた。()()()()()()()()()()。だが、俺を本気で楽しませるまでには至らない。もういい、見るべきものはなにもない。沈め。模造品」


 目など閉じていない。

 瞬きさえしていない。

 なのに、ギア・マレディツィオーネは地面に倒れていた。

 なぜ?

 両脚を一瞬で貫かれて潰された。

 トリアはきっとこの時点でもまだ理解が追いついていないだろう。

 そのトリアがいるコクピットを、ギア・フィーネ五号機が踏みつける。

 バキバキ、と上の装甲が潰れる音が、コクピットに響いたはずだ。

 ラウトの唇は笑みを浮かべる。


「ふは」

『っ!?』

「ははは、あははははは!」


 ゆっくり、ゆっくり、コクピットが潰れていく。

 立ちあがろうにも両足はなく、ギア5による『ハッキング』で制御は奪われ指一本動かせない。

 理解しただろう。否が応でも。


『う、嘘だ。嘘だ! 嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! し、死にたくない! 助けてクロン兄さん! 嫌だ! 助けて! 誰か助けて! 助けてよ! なんでもするから助けてえ!』

「助け? 来るわけないだろう? よく見ろ」


 味方の陸上艦や、先程メインカメラを潰して落とされた二足歩行兵器たちも、自分の脚で一箇所に集まる。

 次の瞬間、彼らはじわじわと結晶病に侵され始めた。

 トリアのコクピットには、助けを求めに開いた通信先の阿鼻叫喚が飛び込んだことだろう。


『あ……ひっ……ひぃ!』

「理解したか? 戦争ということはこういうことだ。弱者が慈悲もなく踏み躙られる。そこに人の尊厳などない。誰も命を尊重しない。だから戦争など起こすべきではなかった。お前たちはそこを間違えたのだ」


 ミシミシと鳴る機体の悲鳴。

 コクピットから小さな爆発音が増える。

 背後は地面に押しつけられて、脱出もできない。

 兵士として最後にできるのは自爆だろうが、発狂したように助命を求めて泣きじゃくる声を聞く限りこのトリアというパイロットにはそんな兵士としての矜持もなかろう。

 この場で動ける味方などもう、トリアにはいない。


『ラウト!』

「!」


 だが、神鎧となったブレイクナイトゼロに体当たりしてくる機体が一つあった。

 無表情でギア・マレディツィオーネを踏みつけていたラウトは、また笑みを浮かべる。

 獣の姿を持つ石晶巨兵(クォーツドール)地尖(チセン)

 乗り手はランディ・アダムス。

 補助AIを切られたところで、魔道具の石晶巨兵(クォーツドール)は『ハッキング』の影響をほぼ受けない。

 操縦機能を制御するのは魔道具の使い手だからだ。

 ある意味、この世界においてギア・フィーネと対等に戦えるのは、ヒューバートが「兵器にはしない」と公言している石晶巨兵(クォーツドール)だけだろう。

 皮肉な話ではある。

 この石晶巨兵(クォーツドール)には、それだけのポテンシャルが秘められているのだ。

 王苑寺ギアンが唯一予想できなかったとするのならばヒューバートと、石晶巨兵(クォーツドール)だろう。

 そして——今のラウトの蛮行を、ランディ・アダムスなら止めると思っていた。


『無抵抗な人間を……命乞いする者を殺すというのならヒューバート殿下の騎士として、見過ごすわけにはいかない! これ以上は許さんぞ!』

「それは侵略者だぞ。庇うというのか?」

『ああ! この者に、もう戦う意思はない! そのような者にさらに鞭打つような真似は、許せない!』


 ヒューバートの意志を、特に強く理解している騎士。

 ランディなら、絶対止めに入ってくると思っていた。

 記憶がなかった頃に、ラウトが「ランディみたいな騎士になりたい」と言っていたのは本気だったのだから。

 あの頃の記憶は実を言うとしっかりある。

 そして、あの頃の——なにも失ったことのない自分がなりたかった姿が目の前にある。

 弱い者を、強い者から守れる騎士。

 こんな騎士に、なりたかった。

 目を細めてその眩しさに微笑む。


「…………いいだろう。ギア・マレディツィオーネとやらを、持ち帰る好機だからな。ファントムがほしがっていたから、借りを作れる」

『……あの、結晶柱は……』


 ランディが地尖(チセン)の頭で指したのは、陸艦と二足歩行兵器の塊だ。

 すでに全体が結晶化に呑まれて、美しい結晶の彫刻になっている。

 指を鳴らすと、バラバラに崩れて地面に消えていく。

 地面は結晶化することなく、結晶化したそれらを吸収してしまう。


『っ!』

「多少世界のエネルギー変換の概念化に役立つだろう。慣れろとは言わんが理解はしろよ、ランディ」

『り、理解はしている……。だが、ヒューバート殿下やレナ嬢のいる時には、やらないでほしい……!』

「わかっている。俺とてあれらの顔を曇らせたいわけではない」


 地尖(チセン)に抵抗できないよう、手足を千切ったギア・マレディツィオーネを載せる。

 ファントムにはよい土産ができた。

 ルオートニス国内に戻り、王都への帰路のために飛び上がる。

 一度振り向き、セドルコ帝国の帝都の方を見た。

 笑みが深まる。


(せいぜい残りの時間を楽しむといい、セドルコ帝国の皇帝候補たち。俺は他の連中と違って優しくないぞ)




ヒューバートがランディに小さい頃聞いた


「どんな大人になりたいか」


という質問はラウトにとっての


「こんな騎士になりたい」


という姿そのもでした。

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