将来の話をしよう(3)
「うん、そうだな。そうしようか!」
疲れた時にレナの手料理はエリクサーすぎる。
ありがたい。
「……ヒューバート様」
「ん?」
「今日は時間を取ってくださり、ありがとうございます。今みたいなお話、とても楽しいです!」
「……俺も!」
こういう話がしたかった。
でも、本当なら、もっと……。
「!」
「ヒューバート様?」
でも、楽しい時間というのは続かないものだ。
感じたもののままに空を見上げると、北の方へ向けて五号機が飛んでいく。
——ラウト?
だけでなく、大通り側が大きな音と振動でざわめく。
レナと顔と顔を見合わせて大通りを見ると、地尖が駆け抜けていった。
「え、地尖? ジェラルド……いや、ランディか?」
「な、なにかあったのですね?」
「レナも城に来る?」
「は、はい。ご一緒します」
方向から考えてセドルコ帝国がなにか仕掛けてきたな。
俺とレナの結婚式、来週なんですが?
って思いながら城へ向かうと、俺たちの姿を見つけた騎士たちがすぐさま父上のところに直行してくれた。
やはりセドルコ帝国との国境で、なにかあったらしい。
父上の執務室に通されると、家臣たちとナルミさんが勢揃いしていた。
執務室も結構広いのだが、さすがにこの人数が揃ってると狭く感じるなぁ。
「父上」
「来たか。休みの日にすまないな」
「構いません。国の危機に休んでいる王太子などありえません」
「うむ。お前の言う通り、嫌な知らせが来ている」
家臣たちを見回すと、困惑の表情。
……やはり、セドルコ帝国がやらかしたか。
「現在ルオートニスが所有開発している石晶巨兵の全機引渡し及び、ルオートニス王国への無条件降伏。そして皇帝候補のセラフィ皇女またはステファリー皇女へヒューバート、お前の婿入り。さもなくばルオートニス王国は火の海となるであろう——との、宣戦布告だ」
「……俺とレナの結婚式が一週間後に迫ったこのタイミングで、ですか」
「結婚させぬために、というところだろう。もしくは結婚しても、セドルコ帝国の法を敷いてしまえば無効になるというところか。どちらにしても、相変わらずあの国はやることが横暴なままだな」
本当にそうですね。
「……宇宙軍にはギア・フィーネが力を示したはずなのですが……あまり慎重になった感じもないですね」
と、ナルミさんに話を振ってみる。
セドルコ帝国も相変わらずだろうけど、ナルミさんも相変わらず微笑んでいた。
怖い方の微笑みだけど。
「それだけ追い詰められているんだろうね。平均寿命が短くなっているということは、宇宙側の上層部も経験の不足した若者ばかりだろう。焦りの方が大きいと思うよ」
「宇宙側と交渉することはできないでしょうか?」
「セドルコ帝国をすっ飛ばして? 捕虜返還を持ちかけて、彼らに和平と交渉条件を預けて伝えさせる手はある。でも、その場合こちらも宇宙側からそれなりに見返りをもらわなければならないよ。宇宙側にばかり有益だと罠だと怪しまれるからね。多少向こうに無理難題ぐらいがいい。そこから駆け引きしていくから。君はその辺本当に下手くそだからなぁ」
「ううっ」
だからナルミさんにお願いしてるのにぃ。
「だからまあ、今回セドルコ帝国が突きつけてきた条件も、それなりに無理難題なんだよ。この中でマシなのは皇女のどちらかと結婚だろう? 帝国としては何度か戦闘をして、この辺で落としたいと思ってるんだろう。宇宙側の思惑も皇女を通してヒューバートを手に入れ、ルオートニスと交渉権を得ることだろうね。だからラウトがムッとして飛び出して行ったんだけど。可哀想ですね」
誰が、とは言わずにクスクス邪悪に笑うナルミさん。
……まあ、そうですね。可哀想ですね、敵が。
特にそんな理由で前線に出される兵たちが。
ナルミさんの表現が非常にソフトだし、実際ラウトも本当にちょっとした『ムッ』て感じなんだろうけど……それに対する被害を想像すると胃が痛くなりそう。
「……実はな、ヒューバート。お前とレナの結婚式の日にもう一つ大切な発表をする予定だった」
「え? なにかあったのですか?」
「ヒュリーが懐妊した」
「……………………。父上と母上が仲良しで本当に羨ましいです。俺とレナも父上と母上のように末長く仲良くしていきたいと思います」
「ヒューバート様っ! あ、あの、わたしもヒュリー様に『もしかしたらなー』って聞いてたのですが、確定なのですね! おめでとうございます!」
「うむ! なのでまあ、結婚式は予定通り行おう。セドルコ帝国に見せつけてやろうぞ」
あ。
父上がニヤ、と笑い俺を見上げてくる。
婿入りの要求も完全に突っぱねてヨシ、ってことだ。
まあ、武力で負ける気しないしね。
「は、はい。そうですね」
「では戦後のために損害賠償の計算でもしておきましょうか! こちらの損害——は今のところ特にありませんけど、精神的被害ってことでこのくらいもらいましょう。国民一人当たり一千万ルクくらい」
「そ、それは些か吹っかけすぎではないかね、ナルミくん」
父上がドン引きしてる。