情報共有(2)
「けれど、人格というのは環境で変化する。ザード・コアブロシアは王苑寺ギアンとは別人だよ。ザード・コアブロシアの人格データを使っているファントムも、私は王苑寺ギアンとは別個体と考える」
「ふむ、なるほど」
「そうか」
「まあ、それはそうだろうな」
「む……」
ナルミさんの言葉にディアスもシズフさんもラウトも同意した。
それがよほど意外だったのか、ファントムが唇を結ぶ。
でもまあ、俺も王苑寺ギアンに会ったことがあるから完全に同意だなぁ。
王苑寺ギアンとファントム……いや、ザード・コアブロシアは別人だ。
決定的に、違うのは“人”への情の有無。
ザードには間違いなく、守り抜いたアレン・ザドクリフと戦友アベルト・ザグレブへの情がある。
「ねぇ、王子サマ。それってどうやったら行けるの」
「俺もよくわからない。ギア4になったら登録者を招くけど、それが最初で最後の機会らしいし……体というか精神?みたいな感じでさ。あと、クレアはデュレオが『自分の代わりになろうとするけど、自分で無理だから兄にも無理です』って言ってたよ」
「チッ……王苑寺ギアンだね、そういう無駄な知恵を与えるのは」
舌打ちがガチ。
「それにしても、人格データが経験を経て別人になるのはなかなかに面白い検証結果だな」
「王苑寺ギアンがゲスすぎたというだけではないか?」
「それはそうかもしれん。なぜかあの男には嫌悪感が止まらなかった」
ディアスとラウトがそんな話をするしね。
ディアスも俺と同じように、ゲスっぷりに吐き気を催していたのか。
どうなってんだ王苑寺ギアン。
会っただけで吐きたくなるとか人間性やばすぎだろ。
「あ、あの、ヒューバート様」
「うん、なに? レナ」
「わたしには難しくてよくわからなかったのですが……つまり、簡単にいうとこの世界は、石晶巨兵で大地を治癒していっても、根本的なところが改善されていないから近く滅んでしまう……ということですか? それって、もう、すべての国家規模の問題なのでは……!?」
「そうだよ。だからひとまず、頭のいい人たちが揃っているここで相談してみたんだ。この世界でディアスやファントム、ナルミさん、リーンズ先輩、ジェラルド、デュレオ……みんなに知恵を借りられれば、なにかわかるかもしれないでしょ?」
父上や他国の王たちに話をするのはそれからだ。
正直、石晶巨兵で大地を治癒して変動している情勢を整えるだけで、国はいっぱいいっぱい。
西方諸国など終戦し、王の代替わりが起こって間もないから混乱は続いているだろう。
ここでまとめられるだけの情報をまとめておきたいんだよね。
「それと、国家規模の話はもう一つある。宇宙のこと」
「それ」
と、指を俺に向けたのはデュレオだ。
ファントムも「拿捕した旗艦の調査もあらかた終わっているしな」と頷く。
さすがだなー。
「捕虜たちの話をまとめると、宇宙はそのエネルギー不足の影響をもろに受けているみたい」
「創世神がいない影響で、エネルギーが生産できなくなってるから襲ってきた、ってことですか」
「あと、宇宙に上がった人類は、ノーティスナノマシンを使い続けていたみたい。宇宙環境に適応するために仕方なかったみたいだけど、代を重ねるごとに寿命が短くなっていったらしいよ。まあ、当たり前だよね」
「え」
ノーティスナノマシンというのは、かつて共和主義連合国軍で用いられた簡易手術。
病気になりにくくなり、闘争本能を低下させる効果がある。
そこからさらに強化手術を行うと、シズフさんのように強化人間となって高い身体能力を手に入れられるが——代償として障害や病の発症を引き起こしやすい。
シズフさんの場合は些かそれよりも上位の研究——ブラッディノーティスシリーズの研究により、強化した母親の身体能力をそのまま受け継いでいると聞いた。
その代償は睡眠障害と内臓の細胞劣化。
細胞劣化は現在ラウトの結晶病により結晶魔石という形で劣化細胞を排出し、欠損細胞は結晶が代用しているらしい。
「……つまり、宇宙の狙いは……」
「そう、副作用を完全に克服した今のシズフ・エフォロンと、ノーティスナノマシンの原材料である、俺」
「ウワァ……」
ウワァ、以外の言葉が出てこない。
宇宙、やっちゃってるぅ。
可哀想に。宇宙の詰み具合は地上以上なんだな。
「ナノマシン自体は進化しているんだろう?」
「みたいだねー。ロス家の坊ちゃんに調べてもらったけど、かなり別物になってたみたい。強化手術の副作用はほぼ完璧に抑え込まれているし、副作用を治療する薬もある。でも根本的に“俺”の食人細胞を使ってるから、適応したことで寿命を喰われてる。しかも母親の子宮から遺伝してしまったり、人工子宮に最初からナノマシンを仕込んだりしているからナノマシンを取り除くってことをしていない。バカだねー」
ナルミさんも質問してその返答なので、「バカだねぇ」とほくそ笑む。
笑うところではないと思います。
「どうしてナノマシンをやめなかったんだ?」
やめれば済む話なのでは?
と、俺は思うのだが。








