ファントムは正義である
「あの二人が用途を聞くと目を逸らすんです。なんだか恐ろしくて」
「それは……怖いな」
ラウトとディアスが使い方を知らない?
めちゃくちゃ怖くない? それ。
もしくは使い方を知ってて、あえて目を背けてる?
それはそれでめちゃくちゃ怖いな!
「ご先祖様、ぼくには優しいけどなぁ」
「ジェラルドだけだよ」
割とガチで。
まあ、そんな話をしながら、研究塔を目指す。
気づけば弥生になっており、学院内には春の花が咲き始めていた。
中身日本人としては、いつか桜も見たいものである。
大地が戻ったら、桜も見られるようになるだろうか?
そのあたりは、リーンズ先輩に期待だなー。
「学校の勉強もしなきゃなぁ……。ランディは卒業までいてくれよな」
「は! それはもちろん」
「パーフェクト首席卒業がかかってるもんねぇ、ランディは〜」
「プレッシャーをかけるな……!」
そうか、ランディは一度も首席から落ちたことがないんだっけ。
すごいよなぁ。
同じぐらい休んでるはずなのに、ランディが一番すごいよ。
……昔、ランディに「ランディはどういう大人になりたいんだ?」と聞いた時、ランディは「剣も魔法も勉強も全部できる無能なんて呼ばれない、なんでもできる大人になりたい」と言った。
有言実行じゃないか。
本当にすごい。
一国のお姫様と結婚しても、なんら問題のない能力の高さ。
胸を張ってどこの国でもやっていけるだろう。
ずっと一緒にはいられないけれど、俺の幼馴染はどっちも本当にすごいよな。
……本当に、寂しいけど。
「あー、来た来た。ワーカホリックプリンス」
「変なあだ名つけないでほしい、デュレオ。なんで研究塔の外にいるんだ?」
「シンプルに中が地獄だから」
「…………なんで?」
「あのね、王子サマ。今研究塔の中には三号機の悪魔とシズフと五号機の坊やとロス家の坊ちゃん……ギア・フィーネの登録者が勢揃いしてる状況なの。しかも今からするのは戦争の話でしょ? 情報も共有したらそりゃそうなるわ」
「えぇ……」
入るのが怖いんだけど?
しかし、研究塔の外にいるのも怖いので、渋々デュレオも伴って中へ入る。
「……あ、そうだ。デュレオ」
「なに?」
「クレアを見つけたよ」
「え」
「その話もあとでするね」
「…………。うん」
実はずっとデュレオにしておきたかった、クレアの話。
まさかこんなに早く見つけてくるとは、って感じだろう。
クレアには口止めされたけど、デュレオは探してるんだもん、先に頼まれたし、同じ兄としてやっぱり話しておきたい。
で、研究塔の中だが、なるほど。
「な、なにしてんの……ファントム」
「オーバーホールだ馬鹿たれ。特に五号機が酷すぎる。よくこの状態で動いてたもんだわ本当」
「……」
ギア・フィーネ五号機が……ブレイクナイトゼロが……ば、バラバラになっとる……。
ランスや盾まで……!
ど、どうなってんのこれ。
オロオロしながらラウトを見ると、すごく複雑そうな表情。
「三号機と四号機は俺が目覚めてからすぐ整備したから後回しにするとして——結晶柱の中にあった一号機と二号機も、それなりに金属疲労が見られる。精密機器部分は自己修復機能で問題はなさそうだが……げっ、こんなところにも砂やら木の根が入ってやがる。よくこんな状態で放置してやがったなテメェはよぉ!」
「お、俺だってそれなりに修理した! 専用の機材も施設もないのに、そこまでできるわけあるか!」
「逆ギレしてんじゃねぇー! 一号機も二号機もなんだこのわけのわからん砂やら小石! 清掃サボってんじゃねーぞ!」
「「すまん」」
シズフさんとディアスが壁際に正座させられとるーー!
「なに他人事みてぇなツラしてやがる? おい、雑兵」
「すみませんでした」
「理由もわからずとりあえず謝ってんじゃねぇよ。テメェ、石晶巨兵の整備も丸投げしてろくにやってねぇな?」
「え、えーと……それは、あの」
「ヌルいんだよテメェら全員整備がよぉ! 舐めてんのか整備! メンテナンスの意味理解してんのか、あぁ!? この着ぐるみ研究者はこっち系の専門家じゃねぇというじゃねえか!」
リーンズ先輩まで端の方で正座している!?
なんで!? なにがあったんだ!?
「ナルミはプログラミングの方はともかく、こっちの方はてんで素人!」
「そうなんですよねぇ」
「そしてジェラルド、コイツは適当がすぎる!」
「えへへへ」
「ほとんど全部研究用ドローンに任せきりって、全員正座しろごるぁぁぁあ!」
「うわあああああ! ごめんなさいごめんなさい!」
——と、いうわけで。
「ホンットマジで信じられん。衛星兵器の攻撃軌道をずらした時の五号機の出力が、ギア5にしてはえらく弱いと思ったけど、千年地下に放置されてそのままだったとかバッカじゃねーの……! 研究塔の八階は俺専用のメンテナンスドックにさせてもらうからな」
「はい、どうぞ」
「ホンットマジで信じられん……!」
ちらり、と同じく壁際に正座させられたラウトを見る。
俺はラウトがそれなりに頑張って整備しているのは見ていたけれど、やはりプロの目が見るとダメダメのダメダメだったらしい。
ファントムのキレ方がガチの正論すぎて誰もなにも言い返せねぇ……。