ラブコメは突然に
「シャ、シャルロット・ユン・ルレーン嬢! どうか、俺と結婚してください!」
「え」
「「「え?」」」
次の瞬間、跪いたランディがシャルロット様に結婚を申し込んだ。
仰天の表情になるお茶会会場と、俺たち。
なんかそれからはランディがシャルロット様の容姿をめちゃくちゃに褒め散らかしているのが聞こえてくる。
それに対してスヴィア嬢の表情がどんどん鬼のように変わっていくのに、誰も気づいていない感じでしょうか?
「…………」
「シャ、シャルロット?」
「え! あ! な、なんですか、ミレルダ!」
「大丈夫? あの、なんか反応してあげたら?」
「え、ええ、えええええーーーと……ええ、まあ、その……、……っ、お……お手洗いをお借りしてもよろしいでしょうか!」
「このタイミングで!?」
シャルロット様の動揺がものすごい!
あのシャルロット様がまさかの逃げの一手。
侍女に案内されて……あれ、こっちに来る!?
「ヤバいヤバい、隠れて隠れて」
「ヒューバート様! なにをなさっているのですかっ」
「ああ、バレた……」
「そりゃ一本道だからな」
ラウトに冷静に突っ込まれつつ、姿勢を正す。
つい、気になって、と白状するとぷくぅ、と赤い顔で頬を膨らませられた。なぜ。
「えーと、ランディとは……その、お会いになったようでしたが……」
「あ、あんな方だとは聞いておりません……」
「それは、はい。俺も正直驚きましたけれど……」
まさかいきなり求婚するとは思わなかったよね。
頬を掻きながら、普段はもっと冷静な男なのですが、と言うとラウトがチベットスナキツネみたいな顔で俺を見る。
な、なんですかその顔!?
「でもランディはいい男ですよ。学校の成績も学年主席ですし」
「っ」
「確か、シャルロット様も17歳でしたよね? ランディも17歳……今年18歳ですし」
「と、歳まで同じなのですか!?」
「はい」
レオナルドではなく、ランディをシャルロット様に薦めたのは歳が同じということもありで、だ。
ミレルダ嬢とシャルロット様も同じ歳で、ジェラルドには一つ年上になるけど。
「…………」
「あ、あの……」
赤い顔のまま俯いてしまわれた。
えぇ、どうしようこれ。
「ルレーン国の血筋は本当にわんこ系男子に弱いね……」
そこにきてデュレオがそんなことを言う。
……なに、わんこ系男子って……。
確かにランディをカテゴライズするならわんこ系忠犬男子だと思うけれども。
「べ、別にそのような好みの話ではなく……いえ、正直あまり期待していなかったんです。だって政略結婚ですよ? いくらヒューバート様とジェラルド様の幼馴染の方とはいえ、容姿も性格も、だってそんな……わたくしの好みドンピシャな訳がないじゃないですか、普通に考えて!」
「……ドンピシャでしたか……」
「そそそそんなことになるとは思うわけないじゃないですかあ!」
それはそうですな。
「ど、どんな顔をしてあんな方とお話ししたらいいんですか……む、むり、むりです、むりむり……」
「フッ……すっかり恋する乙女の顔になって……」
「デュレオ、からかうんじゃないよ」
個人的には普通に嬉しい。
ランディの良さを一目で理解し、好きになってもらって。
しかもこんな美人がランディのお嫁さんになるのだ。
え、もう確定でよろしいですよね?
「でも、そうなるとあの鬼のような表情のスヴィア嬢は……」
「ランディとハニュレオで恋仲になったとかではないのか?」
「さっき朝食会の時に聞いたら、『そんなんじゃない』って全否定されましたけどね」
「……なるほど面倒臭いな……」
さすがラウト、理解が早くて助かる。
「どちらにしても手遅れだろう。ルレーンの姫もこの様子だしな」
「うっ」
「まあ、そうですね。……ランディからシャルロット様に求婚するとは思わなかったですが、本人がそのつもりなのならいいのではないでしょうか。ランディの両親も恋愛結婚なので、多分反対はされないと思いますし」
「ま、まあ……ランディ様のご両親は恋愛結婚なのですか?」
「はい。しかも身分差婚です。詳しく本人に聞いてみてください。恋愛小説みたいな、ものすごいロマンチックな話ですよ」
「っ」
とりあえず話題提供。
まだもじもじとしているけれど、俺がそう言うと、「がんばってみますわ……」と言う。
うん、頑張ってほしい。
しかし——。
「非常に予想外の展開」
「王子サマがルレーン国の姫に従者クンを紹介したの?」
「能力的にもうちの国から差し出せる最大級の人材って、俺にとってはランディだったんだけど……なんか差し出すっつーか……持っていかれそう?」
「そうみたいね」
ルレーン国としてもミレルダ嬢とギア・イニーツィオとエアーフリートをうちの国へ手渡すのだ、それと同等のものになるかはわからないが、俺の中ではそれに匹敵するのがランディだ。
マジで渡したくないのだが、あの様子だと「行かないでほしい」は野暮すぎる。
友として、送り出すのが一番だろう。
「……だが、大丈夫なのか?」
「え? あー、まあ、ランディがいなくなるのは痛いけど、ランディには幸せになってほしいし……」
「そうではなく。ルレーンの姫と結婚する場合、ファントムを倒さなければならないのだろう? ジェラルドは——エアーフリートを預けられたようだから、実力を認められてはいるようだが」
「あ」
俺はほとんど見えてなかったけど、ファントムはあっさりとシャルロット様に求婚したコルテレの王オズワードを殺している。
悪いことはまとめてオズワードに引き受けてもらったが、あの人の容赦のなさはガチだ。
「ラ……ランディー! ランディ、ランディちょっとこっちに来なさい! 至急お知らせしたいことがありまーす!」
「ヒューバート殿下!? なぜこちらに!?」
このあとめちゃくちゃランディに事情説明してレナと母上に睨まれて退散した。








