side デュレオ
「ふんふんふんふーん♪」
鼻歌を歌いながら、奪ったライフル銃を片手に心臓を齧る。
新鮮で健康な血は本当に体にいい。
吸い終わった心臓は床に捨て、艦橋へと入る。
旗艦と思しき戦艦は、やはり旗艦に間違いなかったようだ。
複数の戦艦と二足歩行兵器への指示を飛ばし、“侵入者”の存在にまったく気づいていない。
それもどうかと思うのだが、相手がギア・フィーネ二号機——しかも神鎧化した“神”そのものでは焦りもするだろう。
「十番艦、十二番艦完全に沈黙!」
「八番艦の二足歩行兵器、全機大破!」
「冗談ではない……! 相手は、たったの一機だぞ!? しかも、千年前の骨董品だ! なぜそんなものにここまで好き放題を許すのだ!」
「艦長! 敵機照合該当機出ました! っ、共和主義連合国軍ミシア所属、ギア・フィーネ二号機『ディプライヴ』!」
「なっ!? ……だ、だとしても、千年前の機体だろう!? それでも届かぬと言うのか!」
その慌てぶりに笑みを深める。
当然だ。
千年経とうが、王苑寺ギアン以上の天才が生まれない限りギア・フィーネより性能のある機体は生まれてこないだろう。
閉まった扉を殴りつけ、歪ませて開かなくする。
その音でようやく一人の艦橋スタッフが“侵入者”の存在に気がついた。
「か、艦長! 侵入者です!」
「なに!? バカな!」
「ハローハロー。愚かな人類。棺桶の中にようこそ〜。気合い入れてたくさん引き連れてきたとこ悪いけど、バイバイの時間だよ〜。今日は久しぶりにお腹いっぱい食べられて機嫌がいいから一思いに殺してあげようね〜」
「くっ! 撃て!」
後方のオペレーターが拳銃で撃つ。
それを目にも止まらぬ速さで避ける黒髪の男は、艦長の心臓を素手で奪い取った。
いつの間に、と思うことさえできず、その場に倒れた艦長の遺体に唖然とするスタッフたち。
奪い取った心臓の血を口から啜り、空になった心臓をポイ、と捨てる“怪物”。
「ひ……!」
「うわああああああ!」
赤く染まった口許に、その殺し方に恐怖して走り出すスタッフたち。
歪んだ扉は殴れども開くことはない。
「助けて!」
「なんで開かないんだ!」
「嫌だ! 死にたくないいいい!」
我れ先にと扉を叩く彼らは思い知る。
もう艦橋は棺桶の中。
最初にその“怪物”が言った通り、逃げ場などない。
銃で撃とうと死ぬことはなく、一人、また一人と目の前でゆっくり食い殺される。
あまりの恐怖に自害する者まで出た頃、旗艦の異変に気づいた各艦からの通信に“怪物”は微笑む。
最後の一人を優しく一思いに殺してから、通信を艦隊全体に開く。
「やあ、愚かなる人間ども。宇宙で生活して千年、君たちなにも進歩してないみたいだね。宇宙環境に適応した割にテロメアが短くなって短命になった? ふふ、本当救いようがないね。ノーティスナノマシンなんて接種し続けるからだよ。おばーかさーん」
『な、何者だ! 貴様は!』
『クロレッディ艦長はどうした!』
「食べちゃった。この艦が一番新しいみたいだから、これだけあればあとは要らなーい。ご縁があったらまた来世で食べてあげるね。バイバーイ」
笑顔で手を振ってから、通信を切り替える。
通信相手はギア・フィーネ二号機。
「終わったよ、シズフ。旗艦は確保したからあとは結晶化した大地に沈めちゃえば? 全部相手にするの面倒くさいでしょ?」
『情報源は確保したのか?』
「うん。この艦の中の何人かは生かしておいたから」
そう言って、副艦長らしき女を見下ろす。
艦長が殺されてからすぐに銃を向けてきた女だ。
腹を殴って気絶させたが、この女が死んでも艦の中にはまだこの艦が乗っ取られていると気づいていないクルーが多数、残っている。
そちらはあとでゆっくりと戦意を折ればいい。
『では残りは始末する』
「仕方ないから俺の歌で送ってあげよう♪」
その怪物が歌えば、二号機は白く輝き赤い翼を空へ広げた。
ルオートニス王国へと飛来した宇宙からの戦艦隊。
そこから出てきた新型の二足歩行兵器たち。
彼らは千年の間に忘れてしまったのだろう。
千年前の戦争で、ギア・フィーネ二号機が幾度となく戦況をひっくり返したことを。
その、恐怖を。
『な、なんだ!? 艦の操縦が利かない!?』
『うわああああ! ど、どうなっている!? 報告しろ! なにが起こっているんだ!』
『メーデー! メーデー! ハッキングです! 艦が操作を受けつけなくなっています!』
『手動に切り替えろ!』
『ダメです! 反応がありません!!』
『なにが起きているんだぁ!』
歌いながら、十二を越える戦艦の艦橋の様子を、その断末魔を聴きながら笑みを深めた。
戦艦だけではなく、二足歩行兵器たちも次々操縦を受けつけなくなり、彼らは一様に結晶化した大地の方へと飛び去っていく。
神鎧化したことで千キロにも及ぶ広範囲を『ハッキング』可能となった二号機から、この程度で逃げられるわけがない。
結晶化した大地に落とされ、結晶化していく恐怖の叫びもまた、化物の機嫌をこの上なくよくさせる。
「攻め込んできておいて『助けてくれぇ』、なーんて叫んじゃってみっともないねぇ」
『死を恐れるのは人の本能。なにも不思議なことではない。たとえ兵士であっても、生きることを望むのは悪ではない』
「はん! 皆殺しにしておいてよく言うよ」
『留守を預かった以上、仕事だからな。貴様もだろう? デュレオ』
淡々と、そう返してくる。
クスッと笑って赤く光る瞳を細めた。
「たくさん食べられるから、そりゃあ殺るよねぇ」
初手で舐められるわけにはいかない。
それにしても、まさかこれだけの戦力を投入して“全滅”になるとは“敵”も思うまい。
しかも、攻め込んだ土地は一切なんの被害もないのだ。
「でもさすがにちょっとやりすぎたかな?」
『そうかもしれない』
「後悔はしてないけど王子サマには怒られそうだよね」
『その時は頼む』
「まさかの丸投げ」
小ネタ
レオナルド「シズフ様! あの空飛ぶ船はいったいなんだったのですか!?」
シズフ「さあ?」
ヒュリー「デュレオ様もどちらに行ったらしたんです?」
デュレオ「ご飯行ってきただけ☆」
レナ「デュレオ様が持ってきた、あの空飛ぶ船はどうするのですか?」
デュレオ「んー、研究塔でいじって遊ぼうかな〜って」
ディルレッド「ヒューバートが戻るまではお話できない——ということですかな?」
デュレオ「俺とシズフの“やりすぎ”を庇ってくれるなら話すよ」
レオナルド・レナ(やっぱりやりすぎたんですか……)