未来の宇宙と地上の現在(1)
「……三週間」
『そうだ』
「……三週間……」
はい、俺が意識不明だった時間です。
きっちり一週間ずつ増えていってて草。
いや、草とか言ってる場合じゃないんですけどね。
思いっきり点滴まみれで見た目はさっぱり笑えません。
なんなら自己呼吸もできなくなっていて、鼻と口にも人工呼吸器がついております。
目も治癒魔法を数回かけられたが、おそらく完全に視力が回復することはないだろう、とのことだ。
耳も同じ。
聴力がかなり下がる。
鼻もまあ、多分匂いを感じる器官に障害が出ているだろう。
ただ、目と耳はシャルロット様やミレルダ嬢、レナというハイクラスの聖女の治癒魔法なら治る可能性が高いそうだ。
なお、今はディアスの[思伝]という念話みたいな魔法で意思疎通している。
耳がほとんど聞こえないし、目もうっすらとしか見えないからね。
我ながら、本当に無茶こいたな。
音もあまり聞こえないのに、ディアスが盛大に溜息を吐いたのはわかるのがつらい。
『ここはルレーン国の城の一室だ。津波はお前がエアーフリートで援護してくれたおかげで、我々だけで鎮圧できた。だが、ヒューバート、忘れるなよ。お前はルオートニス王国の第一王子にして王太子。お前がその命を犠牲にしてまで、俺たちを守る必要はない……! お前にそこまでして守られるほど、弱くはないのだから……!!』
「ごめんなさい……」
それはそう。本当にそう。
でもすみません、途中から意識がないんです。
例の——『永遠に祝福された地球』に行っていたから。
ディアスはギア4に到達しているし、ディアスもあそこへ行ったのだろうか?
聞きたいところだが、血が絶賛不足してて頭が上手く動かない。
『この国に入っていたソーフトレスとコルテレの王だが、ソーフトレスの王は無事にコールドスリープの中から引きずり出されたよ。お前の予想通り、一難民のふりをして入り込み、賄賂で自国の民を買収して順番を先入りして奪っていた』
わあ、クソ。
「コルテレの王は……」
『こちらはまだ捜索中だが、ルレーン国内にいるのまず間違いない。我々が捜索を開始していることにも勘づかれているだろう。ファントムが本気で捜していないところを見ると、あの男の目的はコルテレの王をなにかしらに利用するつもりなのだろうな』
ああ、こちらは別の意味でクソ……。
『それと……ルレーン国の方でもルオートニス王国の守護神教を導入する流れになっている。この国は元々ギア・フィーネを守護神として崇めていたので、躊躇が一切ない』
「わ、わあ……」
『さすがにハニュレオのような事態にはなっていないから安心していい』
「よ、よかったです……」
よかったのか?
いや、よかった。
『と、まあ、そんな感じでひっ捕えたソーフトレスの国王とはナルミが交渉してルレーン国の属国になる流れができそうだ。元々ソーフトレスとコルテレはルレーン国と同じ祖を持つ。必然的にソーフトレスもルオートニス守護神教に改宗だろうな』
それはあんまり知りたくなかったかも。
というか、このままだとルオートニス守護神教が世界統一しそうなんですが。
と、言えば『それはそれで、世界平和の第一歩になるのではないか?』としれっと言われてしまう。
そ、そうかなぁ。
しかし、世界の戦争の一部は間違いなく宗教が発端になっている。
宗教が統一されれば、争いはなくなるのだろうか?
少なくとも俺はカルト宗教以外の宗教は、自由に認めていいと思う。
信仰というのはどんな形でも人を救うために生まれたものだと思うから。
……カルト宗教は別な。
信仰して誰かが泣くのなら、それは宗教じゃなくて洗脳だからね。
『問題はコルテレだな』
「どうなる、んでしょう……」
『わからない。とりあえずお前は起き上がれるようになりなさい。そんな体では、治癒魔法もかけられない』
「うう、は、はい……」
起き上がれるように、なるんだろうか?
多分、ディアスは詳しく言わないけど脳神経の一部もやられている。
伝達機能がイカれていて、起き上がるのが無理なのでは?
『大丈夫だぞ』
「え?」
『確かに脳神経はかなりやられている。でも、不幸中の幸いというか、幸か不幸か、お前が手足と首につけていた“体で覚えろシステム”が補助してくれる』
「あ」
『ギア・フィーネのサポートが得られる状態だ。だからまたすぐに起き上がれるようになる。大丈夫だよ』
「……はい。ありがとうございます……」
髪を撫でられる感触。
ディアスには、本当に何度も救われている。
世話ばかりかけて、申し訳ないな。
「あ、あの」
『なんだ?』
「……宇宙って、なにかありますか?」
話したいことはたくさんあるけれど、今はこう、脳みそが上手く話の順序を組み立てられる気がしない。
それほどの大量の情報を得てしまったから。
だから、その中でも一番聞きやすいことを聞いた。
王苑寺ギアンが言った、『宇宙に気をつけろ』とは、いったいどういうことなのか。
『……接触があったのか?』
俺の横から立ち上がった気配のディアスが、隣に座り直す気配。
[思伝]でも声色が強張ったのがわかる。
やはりなにか、あるのか。
小ネタ
ラウト「それにしても、なんかそうなるような気はしていたがお前が三号機の登録者になったか、ジェラルド」
ジェラルド「は〜い! これからよろしくお願いします、せんぱ〜い」
ディアス「ジェラルドは存外登録者向きの性格だから、悲惨なことにはならないだろう。そこは少し安心だな」
ラウト(一号機の登録者が言うと説得力がなぁ……)
ディアス「それで、お前はギア上げの同調障害は出なかったのか? シャルロットとミレルダの歌は聴いていたのだろう?」
ジェラルド「鼻血と頭痛はありましたけど、ちょっとコツ?がわかったのですぐ治りました〜」
ファントム「嘘だろ……コイツ昨日の戦闘で通常時の同調率24に上がってるぞ……上がりすぎたろ、なにコイツヤバ……」
ディアス・ラウト「「え……(引)」」
ジェラルド「え?」
先輩にドン引きされる後輩。