ブレス・トワ・アース(2)
リアルの俺の体が。
確かに、ここに来る前顔面から出る穴全部から血出てそうだったからな。
一つだけ、どうしても聞くのなら……。
「君は……前にも俺の夢の中に出てきたよな? その声……君は誰だ? どこにいる? 夢の中には姿も見せたのに……」
ギアンとは別の声の主。
まだ会話が成立しそうなこの子はいったい誰なんだ?
なぜ今回は姿を見せない?
『——僕は……僕は自律起動超速再生被験体D型ヒューマノイドコンプリートタイプ。個体名称、クレア』
「……クレア……クレアって、デュレオの弟? どこにいるんだ? デュレオは、君のことを捜してるよ!?」
『……すみません、僕はここを動けない。僕の生産する生態維持エネルギーで、この世界を維持している状況なんです。今、この世界には創世神がいないから……』
「創世神……?」
デュレオの弟、クレア。
捜してほしいと言われたけど、こんなところで所在を知ることになるとは思わなかった。
それに、なにを言っているのかもよくわからない。
この世界には創世神が、いない?
創世神とか、世界を作った存在?
いきなり世界観ぐちゃぐちゃになってない!?
『創世神は基本的にすべての生命という“エネルギーを創り出す”存在。無から有を生産できる概念なのです。でも、この世界の創世神は千年前の戦争でその役目を終えました。僕は王苑寺ギアンにそのことを教えられ、創世神の代行者として自分の生命エネルギーをこの惑星に流し続けて維持に努めています。……兄には、言わないでください。きっと僕の代わりになろうとする。でも、僕一人でも足りないのに、兄にはこの役目は務まらない』
『そうだ。だから俺たちは晶魔獣を世界に放ち、維持するエネルギーをこの世界のすべての生命に強要している』
「!?」
『だって仕方ないだろう? そうしなければ維持できない。俺はこの通り、ただの人格データで、システムの管理で手一杯』
……は?
なん、なに言ってる?
晶魔獣が世界のエネルギー不足を、補填する“システム”って言ってる?
いや、いや……それじゃあ……それじゃあ!
「今ルレーン国を襲っている結晶化津波は!」
『足りねぇんだよ。お前が石晶巨兵を開発して、世界に土の大地を再び増やしたことで、エネルギー生産量が少しずつ上がっている。クレアの生命エネルギーを搾り取り続けても、あっという間に食い尽くされる。ここまで言えばアホでもわかっていると思うが、クレアの生命エネルギーの変換先は結晶魔石だ』
「っ!」
『すみません。でも、僕だけでも兄を足しても、足りない。しょせん僕も兄も人工物にすぎないから。新なる奇跡である、神には成り代われない』
足りない。
足りなくなっている。
だから結晶化津波が増えた。
ギア・フィーネで押さえ込んでも、別のところで起こるということか……!
結晶化津波を鎮静化し続けても、いつか必ずエネルギー不足に陥る。
それじゃあ、まるで、この世界は……。
「詰んでる……?」
『そうだ。千年前の時点でな』
『ラウトさんの権能“結晶化”はこの世界を維持するために目覚めた奇跡。あの人は千年前、我々の話を一切聞かなかったのに、あの権能に目覚めた。救世主に等しいです』
『それでも……神鎧に目覚めたラウト・セレンテージとシズフ・エフォロンを足しても世界のエネルギー不足はどうにもならない。すべてのギア・フィーネが神鎧化して、五柱の神が揃えば——新たな創世神の代わりになるだろう』
五人の登録者が全員ギア5に到達し、神鎧化と神格化して、初めて創世神と対等になる?
いや、待て、待て!
それじゃあ、まるで!
「ギア・フィーネが造られた目的って、人身御供ってことかよ……?」
『そう』
ああ、ずいぶんと無慈悲に突きつけてくれるもんだ。
でも、世界でたった五人の人間が犠牲になれば世界が救われるのなら……安いものなのかもしれない。
なるほどね。
この話を登録者に聞かせるために——覚悟を決めさせるために、謁見の場がギア4に到達時点で設けられるわけか。
それを拒むのなら、死ぬしかない。
人のまま死ぬ自由を、選択を与えるための場か。
「はははは……」
えぐすぎない?
ここ、女性向けの世界だろ?
俺、主人公に婚約破棄を突きつけてザマァされて死ぬ、一般的な悪役王子のはずなんですけど?
……そうか、どこまでも悪役王子に生き延びる選択は与えられていないのか。
厳しい世界だな、悪役の世界。
『そろそろ本当に戻られた方がいいです。体が壊れてしまいます。兄とあなたの婚約者の歌声が、あなたの体を最低限守っていますが……』
「わかった。戻るよ。話してくれてありがとう、クレア。でも俺、君のこと、お兄さんにも話すよ。俺も弟がいるから、心配してる気持ちわかるから」
『……お好きになさってください……』
悲しそうな声。
でも、デュレオとの約束が先だから。
『そうだ。最後に一つ伝えておく』
「今ぁ?」
『宇宙に気をつけろ』
「え?」
それだけ、王苑寺ギアンが告げると俺の目の前はまだ世界の風景に変わった。
さっきが一日の終わりなら、今度は一日の始まりのような早送り。
でも、最後の——宇宙に気をつけろって、いったいなんだよ。
これ以上の問題ごとは、マジでいらねーよ!