ギア4
『でかいのが大口開けて迫ってくるよ』
『丸呑みされるぞ雑魚! 早くギアを上げろ! さすがにあれは迎え撃たないとヤバい!』
「うわ〜〜〜〜〜〜!」
そう言われましても、俺はギア上げに集中することしかできません!
嫌がらせのように——いや、絶対ナルミさんからの嫌がらせだと思うけど——モニター全面に外の様子がリアルタイムで繋がれる。
巨大な空竜が、大口を開けてエアーフリートを今まさに丸呑みしようとしているところだった。
泣くだろ。
——ガァン!
その空竜の眉間を、一筋の光線が撃ち抜いた。
生物に近い晶魔獣にも“弱い部分”というのは確かに存在しており、頭はその一つ。
それをこうも美しく撃ち抜くなんて……。
ディアスだろうか、と思った瞬間、無数のワイバーンが続けて襲ってくる。
あ、全然安心できなかった。
『なにしてんの、ファントム! もっと下がらないとやられちゃうよ!』
ワイバーンの群れを次々撃ち抜いていくのは、見たこともない真紅の機体——石晶巨兵?
いや、違う。
魔力循環は感知できるが、構造と素材はギア・フィーネに近い。
おそらくあれが、ファントムの造った人型兵器!
『チッ! エネルギー不足で防衛に回す電力が足らねぇんだよ!』
『まぁ、国守様の日頃の行いが悪いからでしょうか?』
ガゥン、と二双の剣で華麗に撃ち漏れたワイバーンを切り裂くオレンジ色の機体。
って、いうか……待て待て待て。
「え!? その声……ミレルダ嬢とシャルロット様!?」
『そうだよ! ファントムはボクたちの分もギア・イニーツィオを作ってくれたんだ』
「ギア・イニーツィオ……?」
それがあの機体の名称?
名前からして、ギア・フィーネを参考にして造られた機体だろう。
ファントムが開発した、ギア・フィーネを模した機体だと思うとこの運動性能と火力は頷けるが。
『っ!?』
『いけませんわね、ミレルダ。背後がおざなりになっていますわよ』
『も、もぉー! シャルロットのことはボクが守るんだから、守られててよ!』
『あら、それならきちんと守ってくださいませ』
イチャイチャしてる……。
え、百合? 尊ッ……!?
浄化される!?
『オイコラ雑魚。なに集中力切らしてんだゴルァ。エアーフリートのエネルギーは絶賛四号機に搾取され続けてんだぞ』
「ヒィ……! すいません! もう少しお待ちください」
そうだった。
しっかり意識して感じろ。
今の自分がどこにいるか。
イノセント・ゼロが俺とどこまで“一つ
”になっているのかを。
あと少し、もう少しで——手が届く。
『そうだ、来い』
誰だろう。
前にも会ったことがある気がする。
「……ギア、3」
光が集約する。
俺の右目が完全にイノセント・ゼロとリンクした。
二つの情報が同時に入ってきて、不思議な感覚が俺の脳の代わりに情報を処理してくれる感覚。
なんだこれ、本当に不思議だ。
さっきまでとは違う。
もう一段階別な世界に来てしまったかのような……。
『そろそろ参りますわよ、ミレルダ!』
『オッケー! シャルロット!』
空に舞う美しい二機のギア・イニーツィオ。
二人の聖女が機体越しに手を繋ぐ。
『見て』
『ちゃんと見て』
『『私たちの姿を、目を、心を』』
『見て』
『ちゃんと見て』
『『まだ出会っていなくても、私たちは知っている』』
二人の聖女の重なり合う歌声が、二機のギア・イニーツィオ。
光が増し、二機を包む光のリングが生み出されて広がっていく。
体が熱暴走でも抱えているかのように、俺も……これは、まさか?
あ? これ、もしかして……そうだ、二人は聖女だ。
聖女は、“歌い手”である可能性が高い。
手が震える。
まずい、しかも今までで一番——強い!
「う、ぐっう……ううっ!」
別の次元だ。
自分が人間とは別のものに近づく感覚。
近く、そして遠い。
体から魂を無理やり引き離されるかのような強い違和感。
「ぁっく、ぐぅあああああああぁ!」
多分、あの二人は晶魔獣たちを倒すために歌っている。
“歌い手”として歌っているわけではない。
それでも強制的に引き上げられる!
——ギア、4。
『バカな! 同調率が跳ね上がる!? いくらなんでもあの通常時の同調率でギア4は死ぬぞ!』
『止められないの!?』
『シャルロット! ミレルダ、歌をやめろ! お前たちは二人とも“歌い手”だぞ!』
エネルギーの濁流に呑み込まれる。
両目から血が垂れ、耳からも濡れた感覚。
毛細血管がぶちぶち切れる音が聞こえて、鼻からも血が出た。
目の前が真っ赤だ。
死ぬんじゃないか?
これは、死ぬ。
前世の死に方は、俺が思っていたよりも痛みも恐怖もなく、穏やかなものだったんだなぁ。
こんなにっ、苦しくて、つらい死に方……すると思ってなかった。
俺、なんか悪いことした?
前世でも今世でもそれなりに善良な人生だったと思っていたけど、そうでもなかったんだろうか?
『落ち着いて。深呼吸して』
「っ、ぐ?」
『目を開けて。思い出して。君の大切な人を』
誰だ?
アベルトさんの声みたいな……。
深呼吸して、俺の大切な人を、思い出す?
俺の大切な人——。
レナ。
その頃のルオートニス
シズフ「……歌い手の歌が聴こえる」
デュレオ「…………。ハァ?」
デュレオ「レナ・ヘムズリー! ちょっと歌うよ!」
レナ「なんでですか!?」
王妃「まあ、デュレオ様。レナは今勉強中なのですが……でもまあデュレオ様の歌が聴けるのでしたら許可します! どうぞ!」
レナ「王妃様!?」
デュレオ「シズフが他の歌い手の歌を感知したんだよ! 負けてられないでしょ! っていうか歌い手の歌が聴こえたってことは、ヒューバートが危ないのかもしれないよ!」
レナ「歌わせていただきます!」
王妃(役得!)
侍女たち(((最高!)))
ツッコミ不在