俺天災に愛されすぎでは?(2)
ドックに残された四号機と向き合う。
自力のギア上げ。
苦手だがやらないわけにはいかない。
ルレーン国は小さい。
あの規模の津波に呑まれたら消滅する。
乗り込んで、目を閉じてギア上げの時の感覚を思い出す。
形容し難い感覚だった。
強い力と、自分の体を委ねるような、その力に頭だけ差し出すかのような。
自分の体が、別なものに侵食されて奪われるようで……強い力が体の中に流れ込んでくるようでもある。
『ギア1へ上昇』
イノセント・ゼロが報告してくれた。
集中しろ。
俺は弱いんだから、ここでエアーフリートにエネルギーを送る。
悔しい。
いくらラウトとディアス、五号機と一号機でも、結晶化津波は厳しいはずだ。
シズフさんを呼ぶべきか?
いや、デュレオの見張り役がいなくなるのは、ちょっとな。
「……っ」
ふと、目を開けると操縦席の中に不思議な光が漂っていた。
蛍のように白い光が無数に漂っている。
なんだ、これ。
「イ、イノセント・ゼロ、この光、なに?」
『不明。わかんない』
「ええ……」
『有毒性は感知できない。魔力的なものも、当機ではわからないよ』
「そ、そう」
じゃあ平気なのかな?
魔力的なものとは思えないんだけど。
『雑魚!』
「ウワー! ファ、ファントム! びっくりするからいきなり大声で呼び出さないでよ!」
『お前、なにをしている!』
「な、なにがぁ!?」
なにも悪いことしてませんけど!
濡れ衣で怒るのやめてください!
よくないと思います、そういうの!
『エアーフリートのエネルギーが急速に減っている! お前が——四号機が吸収してるんだよ! マジでテメェなにしてくれてんだゴラァ! 航行に支障が出てきて援護どころじゃねえ!』
「は? …………。いや! 本当に知らないんですけどおおおぉーーー!?」
それは怒られても仕方ないんだけど俺は本当に知らないんです本当なんです信じてください! 俺は無実です!
しかし、ハッとして操縦席に広がり浮遊する光を見回した。
まさかこれではないよな?
「あ、あの、でもよくわからない光が浮遊してます」
『それだドアホ!』
「うわーーー! どうやって止めるんですかああぁぁ! イノセント! イノセントなにしてんの! 吸い取っちゃダメ! 供給するのが仕事!」
『ファントムに破壊されて修繕された箇所の進化を開始してる。エネルギーが不足しているから、エアーフリートからもらってるよ』
「はぁぁあああぁぁぁー!?」
『はぁぁあああぁぁぁー!?』
ファントムが直してくれたのに、そこから進化!?
ギア・フィーネって中破以上じゃないと進化しないんじゃなかったの!?
確かにファントムにはフルボッコ……実質中破ぐらいまでぶちのめされましたけれど。
だからってこのタイミングで進化始めちゃいますか?
「イノセント、イノセント、ダメだ! エアーフリートからエネルギーもらったらダメ! 自前のエネルギーでなんとかならないのかな!?」
『ギア3ぐらいまで上げてくれたらなんとかなるよ』
『死ぬ気で上げろ!』
「死ぬ気で上げます!」
上げるしかねぇ!
上げ、上げろ俺!
『ギア2に上昇』
『早くギア3に上げろ!』
「ま、待って、頑張りますから待ってぇ!」
自力でギア3まで上げたことないんですぅ!
なんかファントムの後ろから「ンッフフフ、ンフフフ」って笑い声が聞こえるんだけど、まさかナルミさん笑ってる……?
笑い事じゃないんですわー!
『キミがそこまで焦って怒鳴るところを見れただけでも、ここまで来た甲斐があるよ』
『ホンット性格最悪ドブスだな! 言っておくけどこのまま高度が維持できなくなれば、エアーフリートはその結晶化津波の真上に落ちることになるんだからな!』
「本当に洒落にならねえええええ!?」
『だからさっさとギアを上げろー!』
もう絶対物語補正入ってんでしょこれ。
俺はどうあがいても結晶化した大地に呑み込まれ、結晶病に全身を冒されて砕け散る運命なんじゃないのか?
うああぁん、嫌だ嫌だ嫌だ、死にたくない!
年明け早々、まだ18歳にもなってないのに死にたくないよー!
……今年で17歳か。早いものだな。18歳って来年か。早いものだな。
って浸ってる場合じゃねええぇ!
意地でも上がれ! ギアよ上がれぇー!
『あ、降下開始した』
『雑魚ー!』
「ウァァァァァァァァァァァ!」
『あ、九時の方向、晶魔獣火焔竜が接近。他にもワイバーン十五。小竜三十』
『クソ! もういい、俺が表で迎撃する! お前は操縦をやれ!』
『あ、被弾』
『ああああ、もおおおお! 聖なる守りの力よ、火の雨より我が愛を守り賜え。[大聖結界]!』
「っ!」
揺れる。
この衝撃は外からのものか!
ファントムが[大聖結界]を展開したみたいだけど、振動がここまで来る。
まずい、ほんとにまずい。
集中しろ、あと少しのはずなんだ、あと少し……あと少しで……!
『落ち着いて、ヒューバート』
「落ち着いてられないんだよなぁ!」
『そうじゃなくて。落ち着いて自分のやるべきことを思い出して。大丈夫、もう少しだから』
「……、……?」
今の、イノセント・ゼロの声、か?
エアーフリートの揺れは大きくなるばかり。
そ、うだ。
とにかく落ち着いてギア上げに集中するんだ。
あとちょっとのはずだから——!
小ネタ
ラウト「結晶化津波ってこんな頻度で起こるものなのか?」
ディアス「どうだろうな? 観測記録は残っていないと思う。呑まれれば滅びるのみだから」
ラウト「ハニュレオが三ヶ月前だろう? やはり頻度が高くないか?」
ディアス「ハリケーンや噴火のようなものだとしたら、こんなものではなかろうか?」
ラウト「つまり一度起こると、それが引き金になって他の地域にも起こる、と?」
ディアス「その考察は興味深い。ルオートニスに戻ったあと、資料を集めて研究してみよう。ただ、俺からひとつ言ってもいいなら『結晶病』の権能を持つお前がまるでわからないのはちょっとどうかと思う……」
ラウト「それは自分でもちょっとそう思ってるから言うな……。なにかわかったら教えてほしい」
ディアス「……! 了解した。成長したのだな、ラウト」
ラウト「保護者ヅラするな」
ナルミ『真面目に戦いに集中してくれる?』