表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
250/386

手のひらの上

 

「ファントムは隠すのも隠れるのも上手いんですよね」

「はい。わたくしの他に場所を知っている者はおりません」

「シャルロット……」


 ミレルダ嬢が、不安そうにシャルロット様の肩を掴む。

 ああ、あるんだな。

 大結晶魔石イフクリステルストーン・システム以外にも、なにか。


「話せ。どうせあの男がなにか造ったのだろう?」


 ラウトが腕を組んでソファーの背もたれに寄りかかる。

 ルレーン国で手に入れられる、戦争に利用できそうなもの。

 口を閉ざした二人の聖女に、今度はディアスが溜息を吐く。


「魔道兵器だな?」

「っ」

「どこにある? ファントムが造ったものなら、確実に他人が簡単に使えるものではないだろう。まして現代人の手には余る代物のはずだ。あの男はそういうものしか造らない」


 断言しちゃうディアス。

 でも俺もなんかそんな気はしていた。

 あの人、現代の『魔法』に詳しかったもん。

 特に、石晶巨兵(クォーツドール)の乗り方が。

 俺をフルボッコに撃ちまくったあの魔道兵器も、多分その副産物。

 だから多分、あの人が作ったのは魔道巨人兵的な兵器。

 そしてあの腕輪の魔道具。

 あの出鱈目な魔力量を、使いこなすアレ。

 アレも多分関係あると思う。


「……し、城の地下の……ドックです。でも、入るにはわたくしの角膜認証またはファントムのゴーグルが必要です。他の方法はありません。攻撃魔法を使用しても、破壊は不可能ですから……」

「どう思う?」


 ラウトとディアスに聞いてみる。

 二人の、なんともまあ渋い表情。

 もうそれだけで答えがわかるようだ。


「現代人には無理だろう」

「となると、残るはルレーン国民を人質にとるか、ルレーン国内に軍を呼び寄せてそこを戦場に変えるか……」

「えぇ!?」

「そんな!」


 二人の答えにシャルロット様が口を覆い、ミレルダが噛みつくように前へ出る。

 そう、結局のところ戦争をしている王たちを国へ入れるということは、彼らの卑劣を許すことになるのだ。

 ラウトがフン、と鼻で二人を笑う。


「戦争とはそういうものだ。半端な覚悟で首を突っ込めば、つけ入る隙を与える。ザード・コアブロシア……ファントムはそれも織り込み済みでなにも言わなかったのだろう。あの男は血と金の匂いが好きだからな」

「そんなこともなかろう。……と言いたいところだが、造った兵器はすぐに試したくなるのがあの男だからな……。否定ができない」

「そ、そんな! ファントムは国守様なのですよ!? 国守様が国を危険に晒すようなことをなさるはずがありません!」


 シャルロット様はあくまでファントムを庇うのか。

 でも俺もラウトとディアス派なんだよなぁ。

 なぜなら、二人は千年前からのつき合いだから。

 そしてあの人はモロにそういうタイプの人間だと思う。

 とはいえ、それならそれでもっと上手く誘導できたんじゃないかなぁ?

 俺たちに気づかれたら、遊ぶことなんてできなくなるんじゃないか?

 それはそれでいいと?

 いやぁ……そういうタイプじゃないだろ、あの人。

 デュレオみたいに、途中で遊びを邪魔されても、別なおもちゃで“次”の遊びに飛びつくタイプではないように思う。

 もっと、それがダメなら次の罠に誘導していく。

 蛇のように、じわじわと……二重三重に仕掛けられた罠の中へ、呼び込まれていくような——。


「どう転んでも、ファントムは一人勝ちになるようになっているはずだ。あの男が振り回されたのは、四号機とアベルトがいた時だけだろうな。『無欠の紅獅子』とまで呼ばれた俺の叔父でさえ、あの男に一杯食わされている。国守としてルレーン国を守るとは、正直考えられない」

「アイツ平気で嘘つくからな」

「うっ、そ、それは」


 シャルロット様たちも思うところあるのかぁ。


「ヒューバートはどうしたい?」

「え?」


 今まで黙って聞いていたナルミさんが、俺にそう問う。

 どう転んでもファントムの手のひらの上だとしたら……いや、手のひらの上だとしても、俺はどうしたい?


「うーん、とりあえず両国の王様が今どんな感じなのかは知りたいかな。いつ出て行ったのか、とか」

「あ……せ、先週です」

「我が国の王も、先週ですね」

「つまり、もうルレーン国には入っていると思って間違いないんだな?」


 デリセット卿とオルヴォッド卿が頷く。

 彼らと彼らの部下のお通夜空気が非常に痛々しい。

 頭を抱えたいのを、さぞ我慢していることだろう。


「そうか、わかった。じゃあとりあえず両国の王様はお前たちに連れて帰ってもらう。国王とはいえ“聖域”に立ち入って国民を裏切るような真似をしたのであれば、相応の罰を受けてもらうのは当然だろう?」

「そ、それは……確かにそうですが……」

「……オ、オズワード王はまだ17歳と歳若いのです! 過ちの一つや二つは、致し方ないものと——!」


 は?

 コルテレのオルヴォッド卿はなにを言い出したの?

 ちょっとあまりにも無責任で、頭の奥でブチっと聞こえた。

 俺の頭の中で聞こえたね。


「そのような考えでは困る。最前線で命を懸けるのは卿らだぞ。王が未熟ならば、王が誤った道に進まぬように支えるのが家臣の役目だろう。なにを馬鹿なことを言っている?」

「っ……!」



小ネタ


ヒューバート「ファントムは甘いものが好きだなー。肉や野菜や魚も食べないとダメだぞ」

ファントム「うるせぇなぁ、保護者かテメェ」

ミレルダ「ヒューバート殿下、もっと言ってやって! ボクとシャルロットが作った料理も絶対残すんだよ!」

シャルロット「そうなんですの! 三人で食事すると、レトルトばかり。エアーフリートのオートミールも、さすがに飽きましたからせっかく二人で頑張って作りましたのに」

ヒューバート「へー、聖女の手作り料理を残すなんて罰当たりですね」

ミレルダ「でしょー」

ファントム「……じゃあ食ってみろよ」

ヒューバート「!?」

ファントム「作ってやれよ。お前らで。聖女の手作り料理を」

ヒューバート「あ、あの……あの、今夜は俺が料理しましょうか? こう見えて料理は好きなんですよ、俺」

ミレルダ「え! 本当に? ヒューバート殿下の料理、気になる!」

シャルロット「わたくしも! ぜひよろしくお願いしますわ」

ヒューバート(今なにかを回避した気がする)

ファントム(チッ。食って死ねばよかったのに)


危機回避能力A+


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】

4g5a9fe526wsehtkgbrpk416aw51_vdb_c4_hs_3ekb.jpg
『転生大聖女の強くてニューゲーム ~私だけがレベルカンストしていたので、自由気ままな異世界旅を満喫します~』
詳しくはホームページへ。

ml4i5ot67d3mbxtk41qirpk5j5a_18lu_62_8w_15mn.jpg
『竜の聖女の刻印が現れたので、浮気性の殿下とは婚約破棄させていただきます!』発売中!
詳しくはホームページへ。

gjgmcpjmd12z7ignh8p1f541lwo0_f33_65_8w_12b0.jpg
8ld6cbz5da1l32s3kldlf1cjin4u_40g_65_8w_11p2.jpg
エンジェライト文庫様より電子書籍配信中!
― 新着の感想 ―
[一言] ガ(ラス)ーハートの王子であるヒューバートは多分15歳である。自分のけりは自分で付けるし、自分のけつは自分で拭く覚悟が有る。 そもそも人を殺すか、人を危めるか、人を人質にするかなどを思ったら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ