差し出された手の色
「石晶巨兵も、エアーフリートに積み込んでもらっていいんですか?」
「その代わり俺はいじるぞ」
「へ、兵器化しないなら、別にいいですけど……武器とかも持たせないでくださいね」
「チッ」
こういうところが怖ぇんだよなぁ! この人!
仕方なく俺もよたよたとイノセント・ゼロを後方搬入口から、エアーフリート内へと運び込んだ。
ギア上げさえしなければ大丈夫、と言われたけど気持ちは悪くなるんだよなあ!
とはいえ、正直その価値はあったように思う。
エアーフリートのドッグ内を見られて。
「スッゲー……想像してたより近未来すぎる……!」
「研究塔より設備が整ってるね! 設備の勉強になる!」
「それな!」
俺とジェラルドはそっちに大興奮だ。
だって見たことのない機材や装置がたくさんある。
どうやって使うんだろう?
『ピピ』
『ドケロ、ドケロ』
「わ!」
『機体チェック開始』
『了解。機体チェック開始』
俺たちの膝まであるコロコロと丸いものが大量に転がってきたと思ったら、突然手足を生やして縦長になる。
それらは運び込まれた機体にまとわりついて、色々な検査を開始した。
あまりのことに目を丸くして、口を開けたままになる俺とジェラルド。
「ドローンがまだ稼働しているとはな」
「ディ、ディアス、あれは?」
「機体……いや、ギア・フィーネ整備用ドローンだ。これもザードが作ったものだな」
「「え」」
一号機がドッグに入ってきて、ディアスが降りてきた。
機体同士の間にある橋で合流すると、あのウロウロしているものがエアーフリート内で活動するロボだと教えてくれる。
どうやら整備以外にも、艦内の清掃や整備、食事作りなど様々な役回りをそれぞれ担当しているものがいるらしい。
や、ヤベー……マジで近未来SFぅ……!
ガシャン、と五号機もドッグに入ってきて、ラウトも俺たちのところへ歩いてきた。
「三号機はないのか」
「そうだな。てっきりエアーフリート内にあると思っていたが」
「三号機はルレーン国に置いてある」
最後に、ナルミさんの代わりに気焔に乗ってドッグへ入ってきたファントムも降りてきた。
完全に乗りこなしててもういっそなにも不思議じゃねぇや、この人。
「というわけでエネルギーは不足気味だから一号機、四号機、五号機からエネルギーもらうわ」
「は!?」
「別に構わんが……」
「一号機だけで十分だろ」
ラウトは嫌がっているが、この場合俺はどうしたら……。
困惑していると、ファントムがマントを脱いで、「まあ、四号機はまず修理だな」と膝の後ろまである髪をまとめ上げる。
しかしふと、立ち止まった。
「邪魔くせ」
「おおおおおぉ!?」
サバイバルナイフを腰から引き抜き、まとめ上げようとした髪を掴んでブチブチと切り裂いいたではないか!
ええええ! も、もったいないー!?
「伸ばしてたんじゃないんですか!?」
「は? 別に? 溶液の中で勝手に伸びたんだよ」
「整えないのか?」
「適当にあとで切る」
そして髪はそのまま床に放置。
すると掃除用ドローンが駆けつけてきて、髪を取り込んでいく。
あれはあれでカッコよかったのに。
そして四号機の側に立つと、唇が柔らかく弧を描いたのを、見てしまった。
「…………」
それはまるで、懐かしい友と再会したかのような笑み。
触れ方も優しくて、俺が戦った悪魔みたいに強い“亡霊”はそこにはいない。
ふと、俺の横に立つ二人の登録者を見上げた。
ラウトも似たような郷愁の眼差し。
しかしその眼差しには苦々しさも滲んでいる。
ディアスの方も似たようなもの。
こちらは少しだけ悲しそう。
すぐに俺の肩を掴んで「休もう」と声をかけられたけれど……ディアスもあの姿に思うところがあるんだろうな。
——四号機の登録者は、寿命をまっとうしている。
三号機の登録者の主人格も、同じ。
あそこにいたのは“亡霊”なのだ。
戦いの最中に「なぜ」と問われた。
『お前ができてなぜ——アイツができなかった理屈がわからん!』
俺ができて、“アイツ”ができなかったこと。
俺の隣を歩く、金色の髪の中性的で美しい戦神。
彼を憎しみの沼から救い出せた。
救い出せているのだろうか?
わからない。
そうであればいいと思う。
「ラウトは、どうしてアベルトさんの手を、取らなかったの」
聞かない方がいいのはわかる。
でも、聞いておきたい。
今聞かないと、この先ずっと聞けなさそうだった。
ぴたり、と足を止めるラウト。
振り返ると無表情。
目だけが、ここではない場所を凝視している。
「……あの男、本当に一人も…………殺さなかったんだぞ」
「え……」
「ヒューバート、お前はきっと必要とあれば殺すだろう。でもあいつは……“殺さない”ことを貫いた。そんな男の手を、どうして罪もない命すら奪うことに躊躇のない俺が掴める。あの戦乱の中、本当に——殺さなかった。ただの、一人も」
「ラウト……」
「……俺はあいつに殺されたかったんだと思う。あの男になら、殺されてもよかった。……だが、あいつが俺を殺さないのも、わかっていた。だから大嫌いだったんだ。そんなやつの手など、誰が取るものか」
仄暗い眼。
でも、すぐに顔を上げてさっさと歩いていってしまう。
ディアスを見上げると、仕方なさそうに微笑まれる。
「どういうこと〜?」
「ジェラルドはわからずともいい。面倒な捻くれ者の、拗らせた意地……ということだ」
「ふ〜ん?」
一度眼を閉じて、振り返る。
もう入り口しか見えないドッグの奥で、あの亡霊が浮かべた笑みの意味。
世界で——五人しかいない登録者の織りなす友愛と愛憎って感じだろうか。
もし、アベルトさんが敵を撃っていたら、ラウトはアベルトさんの手を取った?
……そんな世界が、あればよかったんだろうか。
小ネタ
ディアス「それにしても、シャルロット王女はリリファによく似ているな」
ナルミ「ジェラルドの顔を見た時も思ったけど、存外遺伝子っておっそろしく遺伝するものなのね」
ディアス「そうだな、俺も遺伝学者として非常に興味がある。双子であっても成長環境に応じて顔が変わることが実証されているが、遺伝による容姿の酷似がこれほど如実となると、二人の遺伝子を比べてみたくなる」ワクワク
ラウト「変なスイッチ入ったぞ」
ナルミ「見張ってた方がいいかもね」
※ラウトの表情が険しかった理由