待ち時間(2)
「……なんかファントムみたいなこと言ってる……」
ファントムも同じようなこと言ってるんだぁ……。
「ミレルダ、つまんねぇ絡み方をするんじゃねぇよ。ディアス・ロスは人間だった頃から、人畜無害と定評のある男だぞ」
「な、なにそれ」
お、自分の名前が呼ばれてさすがに無視できなくなったのか、ファントムまで参戦してきたぞ。
収拾つくのかな、これ。
「共和主義連合国軍の強化ノーティスを見るや手当てをするような、根っからの“医者”だ。男も女もなく、患者かそうでないかでしか判断しない。俺が殺していいか実験していいかで判断するのと、同じようなものだ」
それは同じではないのでは……!?
助かる選択肢がないよ!?
「それなら確かに健全だけど、それと医神様を一緒にするのは医神様に失礼じゃない?」
「急に冷静に正論ブッ込む理性が戻ったなら、もう引き留める理由ないだろ」
「あ、それもそうだね! シャルロット、気をつけていってらっしゃい!」
「うん、行ってくるね。心配してくれてありがとう、ミレルダ」
「「「…………」」」
なるほど、独特な、こう、関係性というか、世界観というか、でも常識はちゃんとあるというか。
そして、シャルロット様とディアスが並ぶと絵画かな?
脳内にしっかり画像保存しておこう。
美しい!
「ふぅん、けどディアス・ロスは“神鎧”に到達したわけではないんだな」
「……貴様、神鎧のことまで知っていたのか」
「当然だ。俺を誰だと思っている。俺が知らないことはないと思えよ」
ディアスが一号機にシャルロット様を乗せて飛び去って、すぐこれである。
今回はラウトとファントムだけど。
なんか初見から思ってたけど、この二人仲悪そうだよね……相性的に。
同じ理由でデュレオとファントムも会わせたらダメそう。
……ああ、そういえばデュレオは最初から三号機の登録者を「俺より性格の悪いクズ」って言ってたぁ……。
つまりこの辺は仲悪いんだな。
「あ、そうだ。ファントム、今ディアスに言われたんですけど」
「あ?」
「俺、ギア上げの影響がめちゃくちゃ出てしまっているんです。まだ登録者になって日が浅いんですけど、ギア3まで上がってしまって。ディアスに治療してもらったんですけど、ギアが上がるのが速すぎるって。脳波とGF電波の波形が、それほど馴染んでいないのにこんなに上がっては命に関わると言われて」
「それはそうだろう」
あっさりと肯定されたぁー!
「どれ」
ぐい、と顎を掴まれて上向かされる。
ウワー! 女性向け漫画で見たことあるー!
ちょっとここは俺じゃなくて可愛い女の子の方がときめくタイミングだと思うんですがー!
……でも見上げると青白い光が通ったゴーグルなんだよなぁ。
しかし! 声が良すぎる!
こんな近くで囁かれたら男の俺でも腰が砕けるぞ!
「同調率14%とか雑魚じゃん」
「ぐぇ!」
「ヒューバート! も、もぉ〜! ファントムさん、ヒューバートを乱暴に扱わないでくださいよ〜」
ペイっと地面に捨てられたが、ジェラルドが起こしてくれた。
ああ、心の友よ。
お前のそのゆるさは安心感そのもの……。
「確かにこの同調率でいきなりギア3は死ぬな」
「ヒェ……」
「ヒューバートは登録者だぞ?」
「だからギリギリ生き延びてるんだろう」
「ちょっと待って。ファントム、君、ギア・フィーネと登録者の脳波同調を数値化できたの?」
今まで興味なさそうだったナルミさんが参戦。
んん? 数値化? 同調率は聞いたことあったけど……。
「当たり前だろう? 俺だぞ」
「「くっ」」
すげぇな、「俺だぞ」の一言でラウトとナルミさんが黙った……!
「どういうことですかぁ〜?」
「……今までGF電波と脳波の同調は、ギアの上昇で判断されていたんだよ。同調が高ければ、ギアが上がる、みたいな感じでね。それを細かく数値化したのがこのクズ野郎」
「すごいことをしたようなのにこの言われ様。ファントム、嫌われすぎじゃない?」
「ハッ! 嫌われてこその天才だろう」
ナルミさんの険しい表情。
ミレルダ嬢がファントムをジト目で見上げるが、それに対する返答がこれである。
もはや止める術なさそうだな。
「まあ、それは本当のことなので今更どうということもないが」
天才の部分かな?
「三号機の登録者探しで、同調率を数値化した方が早かったってのもある。お前ギア・フィーネの登録者になってからどれぐらい経つ?」
「えーと、一年くらい……」
「一年でこの同調率!? 雑魚じゃん!」
うぉおおお!
今度はしっかり俺のガラスハートが撃ち抜かれたぞー!
二度目の“雑魚”は効くー!
「まだこっちのガキの同調率の方が高いぞ!? お前本当に登録者になったのかよ!」
「ぼく!?」
ファントムがジェラルドの頭を鷲掴む。
は? 俺よりジェラルドの同調率の方が、高い!?
「そんなことあるのか?」
「俺も初めて見たわ。まあ、そもそも現代人の登録者自体初めて見たけど」
それはそう。
ラウトも当惑した表情で俺を見てるし、いや、俺が一番わけわからんよ!
「ヒューバートはちょっと特殊だからじゃない? 普段は“歌い手”が側にいるし、戦闘でギア上げする度に“歌い手”のブースターばかりついているし、自力で上げたことがないし」