ファントム(2)
「ボクが乗るって言ってるのに!」
「ギア・フィーネの登録者になってしまうと解除は死ぬ以外方法がないんだから、もっと慎重に考えろって言ってんだろ?」
「でも国を守るための力なんだろう!? シャルロットはボクが守ると決めている! ボクに三号機をちょうだいよ! ファントム!」
「ダーメ。そういう考えなしは一番ダメでーす」
「ぐぬぬぬぬぬー!」
……仲良しぃ。
あれ、みんなに聞いていたより、フレンドリーな感じだぞ?
ミレルダ嬢とはまるで親子みたい……こほん、兄妹みたいなやりとり。
けど、俺の目の前に立つディアスとナルミさんは一切警戒を緩めていない。
なんなら先程よりも警戒を強めている。
ディアスがそんな感じだから、トニスのおっさんも姿勢がやや前屈み。
……なにか起こったら即俺を担いで逃げる体勢なんだが……?
「……ファントムか。ではとりあえずはそのように呼ぼう」
ディアスがより、剣を深く握り込む。
声が固い。
なんでそんなに警戒してるんだ……?
「ただ、もう一つ答えてもらう。貴様の纏うその薄葉甲兵装はどこで手に入れた?」
ん!? 薄葉甲兵装!?
それって千年前にカネス・ヴィナティキ帝国で使用された戦術兵器では……?
え? 着てる? それを?
俺から見たのではわからないが、二人はずっとそれを警戒していたのか!?
「俺のお手製に決まってんだろ。ハッ! 千年経ってボケたかお前ら。俺を誰だと思っている?」
「可動式人型量子演算処理戦闘型ヒューマノイドというのも、自分で作ったってことかな?」
「死ぬ前に完成させて漬け置いておいた。復活する気はなかったが、不穏分子は残っていたからな」
と、言ってファントムはなぜか空を見上げる。
……もしかして、衛星兵器……?
「…………。確かに……このまま地上が元の大地を取り戻せば……その可能性もある、か」
「ディアス?」
「いや。今はまだお前が考えることではない。ひとまず貴様の考えは理解した。敵対意思がないのであれば、俺も恩人と戦いたいとは思わない。協力できるのなら貴様より頼もしい者はいないからな」
「恩人? 薄寒い言葉を使うな、ディアス・ロス。いいや、それともデュラハンと呼ぶべきか?」
「——!!」
緩んだと思った空気が、またピリッとした緊張感に包まれる。
俺も息を呑んだ。
おかしい。
だって——ディアスが『デュラハン』と名乗っていたのは……ルオートニスの中だけだ。
その名を知っているのは、[死者の村]の出身者と俺たちぐらい……。
「お前……僕の情報を盗み見たね?」
一際低く冷たい声で、ナルミさんが問う。
するとにべもなく妖しく笑んだファントムが「なにを今更」と突き返す。
「三号機と四号機にアクセスしてきたのはお前が先だろう? 情報戦では自分が一番だとでも思い込んでいたのか? おめでたい頭だなぁ、加賀鳴海」
「っ……」
「そもそもあのアクセスで俺は叩き起こされたんだぜ? 助けを求める相手は選ぶべきだったな」
あ——!
ラウトとディアスが戦った時の……三号機の支援。
あれはハニュレオ方面に隠された[長距離精密狙撃ユニット]からだったけど、あの時の救助要請でファントム……三号機の登録者の人格データが起きた?
実質俺たちのせい!?
「あ……えーと、あの、あの時……ラウトを狙撃してくれたの……が、あなた、なのか?」
「情報と予測で撃ったら当たっただけだ。あの程度造作もない」
いや、あの距離で動き回る五号機に当てるって普通に怪物じゃない? 知らんけど。
狙撃とか俺、わからんけど。化物じゃない?
「そ、そうか。あの時は助かりました。ありがとうございます!」
「は?」
「え?」
は?って言われた?
あれ? な、なんで?
「だ、だって実際助けてもらえましたし?」
「……ああ……ふーん、なるほど?」
「?」
な、なにが?
っていうか顔はゴーグルでわからんけど、やっぱ声、良!
耳が孕みそう!
「チッ、面白くねぇな」
なにが?
「まあいいか。石晶巨兵という魔導具には俺も興味がある。シャルロット、手を組むのは俺も賛成だ」
「はい、国守様。それではヒューバート王子、改めてよろしくお願いします」
「あ、は、はい。よろしくお願いします」
よかった。
石晶巨兵は聖女の協力が必要不可欠。
聖女二人の力が借りられるのなら、デモンストレーションもできる。
「……あの〜」
「あ?」
「ファントムさんは三号機の登録者だったんですよね? じゃあ、ぼくのご先祖様?」
「は?」
ジェラルドが興味津々といった様子でファントムを見上げる。
ああ、そういえばそうか。
ジェラルドは確か、三号機の登録者の身内の子孫。
「え? なに言ってるの? ファントムはボクのご先祖様だよ!」
「え」
「え?」
ワクワクしていたジェラルドは、ファントムの腕に絡みついてきた聖女を見る。
聖女ミレルダ。
自信満々な表情でそう言い放ち、すぐにファントムの腕から離れると「ボクの一族は三号機の登録者の子孫なんだから! 直系なんだよ!」と胸を張る。
な、なん……なん……っ。








