ルレーン国と三号機(2)
「アスメジスア基国じゃなくてルレーン国の方」
と、デュレオは地図をトントン叩く。
コルテレの東南にある、少し突き出た部分。
かつてルレーン国があった場所……。
「……確かに……ルレーン国ならあっても不思議はない、けど……あの男がそんなわかりやすい真似する?」
「四号機は多分ルレーン国にあったよね。俺が最後に見た時もルレーン国にあった」
「!」
イノセント・ゼロ。
四号機の登録者がルレーン国のお姫様と結婚して、その地で亡くなったのならそれはそうだろう。
そのまま千年、ルレーン国のあった地に眠り続けていたのか。
「他の国を見比べたらルレーン国が一番可能性高いと思うねぇ、俺は」
「それは、そうだけど」
「……? ヒューバート、三号機は見つけたいの?」
「え?」
ジェラルドが首を傾げる。
三号機を見つけたいって、まあ、別に見つけなくてもいいと思うけど……いや、見つかった方がいいのか?
んーーー。
「そうだな、まあ……セドルコ帝国のものになると困るしなぁ」
「現代人がギア・フィーネに乗ってまともに動かせるとも思えませんけどねぇ」
うおおぉ、ナルミさんよ、俺を見ながら言わないでほしいー!
でもそろそろ一ヶ月以上経つし、イノセント・ゼロに乗って訓練の成果を試したくはあるな。
ラウトに「四号機は近接戦闘タイプなんだから、お前は格闘術も学べ!」って言われているからそれも始めないと。
剣以外の格闘術って、現代にほとんど残ってないからシズフさんとラウトに教わるしかないんじゃない?
……え? めちゃくちゃ怖い。
あの二人から肉弾戦学ぶとか死亡フラグでは?
「そうか……悪いことに使われたら困るものね」
「うんうん、そうそう」
とはいえ、千年前の世界ってギア・フィーネが対立する国にあったってだけで別に悪用されてたわけではないんだよな。
一号機の『凄惨の一時間』も、登録者が毒を投与されて死にかけた結果だもん。
とはいえ実際三号機がセドルコ帝国に取られたら、やばい?
うちには四機もギア・フィーネがいるから、負けるとはあまり思えないんだが……。
でも、狙撃特化型は一発で戦況をひっくり返すこともある。
けどマジで現代人、ギア・フィーネを上手く扱えると思ねぇんだよな、実体験で。
「三号機って、強い?」
「エアーフリートと当時の三号機が使ってた追加装備を揃えて、使いこなせたらいい勝負じゃない?」
「ヤッベェじゃーん……!」
あれか、デュレオの言う追加装備って[長距離精密狙撃ユニット]とかのことだよな?
ああいうのが他にもあって、エアーフリートの中に残されてるとしたら……。
本当に万が一敵対国とかの手に渡ったらヤッベェな。
「でも本当にかなりのスキル持ちじゃないと無理だと思うよ。シズフに一撃かまして、二号機を今の形に“進化”させたのは三号機だけど、三号機は一度も“進化”するほど大破したことないんだもん」
「へ」
進化とは、ギア・フィーネが破損箇所を自己再生した時の大幅な変形のこと。
破壊された理由——弱さを補うために強化されることが多いらしくて、それを踏まえて“進化”と呼ばれている。
しかしまあ、自己再生はギア4から現れる機能。
ってか、あの回避能力半端ねぇシズフさんと二号機が大破するほどの一撃かますって三号機と三号機の登録者マジでヤッベェ〜!
そして三号機は一度も“進化”するほどの破損を受けたことがないってぇー!
敵なしってことかなぁー!?
「エアーフリートと三号機の確保をした方がいいのは、ワタシも賛成ですね。登録者の技量によっては——ザードと同等の実力者が登録者になれば、ルオートニスの全戦力でも崩されますよ。アレは本当に“世界”と戦ってきた猛者ですからね」
「ひぇ」
「ねぇねぇ、王子サマ〜。ソーフトレスとコルテレ? には俺も連れて行ってよ〜。ぐちゃぐちゃのどろっどろにしてあげるからさぁ〜」
「デュレオを連れてくのならシズフさんにもついてきてもらう」
「ぬぐっ」
しかし、実際ソーフトレスとコルテレに誰を連れて行くかは考えておかないと。
聖女が原因で戦争をしているのなら、レナを連れて行くのは危険かもしれない。
アスメジスア基国があったところなら、ディアスとラウトについてきてもらった方がいいかな?
……四号機と縁深いところだし、ううん。
「ちなみにナルミさんは来てくれる?」
「両国の交渉にってことかな?」
「うん。できれば二ヵ国には停戦・終戦してほしい。そのあと和平条約と不可侵条約をルオートニスを含めた、三ヵ国で行えたらと思う」
「なかなか非現実的だね」
やはり?
俺は前世、戦争のない国で育ったから多分その辺りの認識が甘いんだろう。
自覚はあったけれど、あっさり言い放たれてしまった。
「けれど、まあ……石晶巨兵にはそれだけの価値はあるだろう。交渉次第では不可能ではない」
「じゃあ!」
「いいよ。でも俺は本当に戦闘能力皆無だから、ちゃんと守ってくれないと。か弱い乙女はすぐ死んじゃう」
「あーは、ははは」
笑ったら失礼だけど笑っちゃうよ……。
デュレオがものすごく嫌そうな顔をしてるんだもの。
不死のデュレオにここまでの顔をさせるナルミさんが、か弱い……んんんん。
小ネタ〜アスメジスア基国の闇(前半)〜
ヒューバート「アスメジスア基国って本当に国土の広い国だったんだなぁ。でも、七つの州?があるってことはどこかに首都みたいなのがあったんでしょ? それっぽいところがないんだけど」
ディアス「アスメジスア基国は軍事国家故、国王はすべての主要都市に家を持っていて定住はできないんだ。強襲される危険性を減らすために、信頼の置ける都市か自身の出身都市の自宅にいることが多かったが」
ヒューバート「えっ、め、めんどくさくない!?」
ラウト「だが、実際反乱を起こした方は国王の居場所が掴めなくて大変ではあったな。短期決戦のつもりだというから力を貸したのに、ソレイヴの手に入れた王の情報はフェイクだった。おかげで俺は『黄金竜』と戦う羽目になったのだから、今考えても腹が立つ」
ヒューバート「ええ〜……」