ルレーン国と三号機(1)
デュレオの不死っぷりが霊魂体にまで及ぶのは驚きだが、ディアスは千年前——おそらく最初の結晶病感染者だ。
ある意味聖女の始祖といえる。
彼の四肢を繋ぐ結晶が、聖女の体内の結晶魔石と同じ役割を持つのならば、彼が結晶化した大地を彷徨っていたのも頷ける。
すごい話ではあるな。
「っていうか、多分だけど〜、シズフさんは霊魂体の結晶魔石を破壊された細胞と一緒に吐き出してるんだと思う〜。だからデュレオさんとディアスさんみたいに、聖女と同じ霊魂体ではないんだよ〜」
「その推測は正しそうだね」
「じゃあデュレオ様もディアスさんも、歌えば聖女の魔法が使えるのでしょうか!?」
「デュレオは使えそうだけどディアスは歌歌えるの?」
そもそも。
なんかあんまり歌得意そうに見えないんだよな。
ところでレナはなんでデュレオだけ様付けなの?
「あ、そうだ。ナルミさんにもう一つ聞きたいことがあったんだった」
「なんだい?」
「ソーフトレスとコルテレのこと! 今抗戦地帯になってるんだけど、石晶巨兵を両国に普及するにはどうしたらいいかな?」
「……本当に行くのかい? あまりお勧めできないけど」
「俺が一緒に行って引っ掻き回してきてあげようか? すーぐ両国共に戦争続行不可能にしてあげるよ〜」
「デュレオは最終手段ってことで」
甚大な被害が出る未来しか見えないんだよなぁ!
「地理的に元々はアスメジスア基国だね」
「え! そ、そうなんだ!?」
この辺りが、ラウトやディアスの出身国……軍事国家アスメジスア基国。
カネス・ヴィナティキ帝国とともに世界を支配していた大国の……。
「ただ、コルテレの東にある少し突き出た場所。ここはルレーン国があったところ」
「ルレーン国?」
「小さな島国だね。本当に小さい。アスメジスア基国の元王が独立国家として建国して以来、中立を守っていた国だ。アスメジスア基国は軍事国家だが、すべての国民が戦争を好むわけではない。その受け皿となるべく独立した国だよ。共和主義連合国軍が立ち上がってから、ミシアが調子に乗って占拠したもんだからアスメジスア基国の『黄金竜』がガチギレして激戦地になってしまったっけねぇ」
「あー、あったねぇ、そんなこと。よりにもよって『黄金竜』を引っ張り出したんだからある意味ミシアの作戦勝ちだよねぇ」
「……?」
ナルミとデュレオは懐かしそうにうんうん頷いているけど、『黄金竜』ってなに……?
当時は晶魔獣とかいなかったから、晶魔獣のことじゃないよね?
「ってか、この辺りはアスメジスア基国の中でも第三軍事主要都市 ダイグロリアのあったところじゃなぁい? ハハ! 反乱が起きた時、真っ先にソレイヴ・キーマに喰われたところじゃん! 未だに二つに分かれて争ってるとか超ウケる〜〜!」
「ダイグロリアのハニー・J・ヘリスは歳ばっかり食った無能ババアだったから仕方ないねぇ。それにしても、あの巨大なアスメジスア基国領土がこれっぽっちしか残ってないとは驚きですねぇ」
「……ん? ソーフトレスとコルテレの場所って、町があったところなの……?」
「町というか……アスメジスア基国は七つの州に分かれてたんだよ。その中心にあるのが軍事主要都市ね」
で、その州の広さは広大で、現代の国の二ヵ国分の領土分はあったらしい。
それが七つ。
……もしかしてアスメジスア基国って前世の世界のアメリカより広いですか……?
「ちなみにルレーン国の姫君は、当時の“歌い手”の一人だよ。『リリファ・ユン・ルレーン』姫」
「あ!」
研究塔の地下で、映像を見た。
あの時映っていた、オレンジ色の髪のすごく可愛い女の人!
あの人が!
「ミシアがルレーン国を占拠した時、一人だけ国外に逃れたんだよね。けれど、追手がかかってレネエルに潜伏していた。その時に四号機と四号機の登録者に助けられたんだって」
「……四号機の……」
「まあ、その四号機と四号機の登録者は、三号機と三号機の登録者、そしてジークフリートに助けられてましたけどねぇ」
そういう流れで一緒にいたのか。
でもお姫様が“歌い手”で、ギア・フィーネと一緒に行動を共にするようになるなんて、なんか運命的だな。
「三号機ってぼくのご先祖様?」
「そうそう。……ああ、もしかしたらエアーフリートと三号機、ここにあるかもね」
と、ジェラルドを見てデュレオがなんか言い出した。
ナルミさんとラウトは、以前四号機がラウトと五号機の強襲の時に掩護した方角が西だったので、西にエアーフリートと三号機があるのでは、と言っていたがそれはおそらくフェイク。
デュレオが「あの悪魔が情報を残すわけがない。もし情報があるならそれは罠」と言い切ったので多分西のハニュレオ付近にエアーフリートと三号機は、ない。
しかし、そんなデュレオが今度はソーフトレスとコルテレのあたりに、エアーフリートと三号機があるとか言い出した。
「あの男がアスメジスア基国のあった土地に、エアーフリートとギア・フィーネを隠す? ありえない」
ナルミさんは全否定ですが?
裏設定
ルレーン国は本当に小さな国土しかない島国でした。
アスメジスア基国は選挙王国制(有力貴族の中から立候補した者を、選挙で国王を選ぶ)で、数代前の争いを好まなかった王が島を買い取り、隠居して立国したことが興りです。
アスメジスア基国は軍事国家でしたが、選挙王国制なのでかなり個人の思想が尊重される国でした。
その中でも一度国王を退いた人物が「平和な中立な国が欲しい」「カネス・ヴィナティキ帝国とも、対話が可能な国が」というある種の緩衝地帯としてルレーン国がその役割を担ってきたのです。
そんな感じでアスメジスア基国とカネス・ヴィナティキ帝国にとって、比較的重要視されていたルレーン国ですが、共和主義連合国軍が立ち上がりミシア軍がその重要性をぬるっと無視して占拠した結果、火に油を注ぐことになりました。なんでやった?
“アスメジスア基国王家”に忠誠心の強い『黄金竜』リーマルドは、バチボコにガチギレして自身のほぼ全戦力でルレーン国を奪還。
しかし、その時には王族はリリファを除き全員殺害されていました。
リリファを救うためにリーマルドは中立機関へ捜索、および救助と保護を求めました。
その依頼で動いたのがシヴォル財閥のフェノ・シヴォルです。
フェノはザードにリリファの捜索と保護を依頼しました。
ザードはお給金が良かったので、その依頼を請け負い、別なところからの情報で四号機がレネエルの田舎町にあると突き止めます。
偶然なのか、ギア・フィーネと歌い手が引き合ったのか、その田舎町で両方を確保できそうだと踏んだザードは部下のサイファーと親友のキサキとともに町へ潜入。
同じく四号機の情報を得ていた共和主義連合国軍の二号機と、アスメジスア基国の五号機が確保に動きます。
四号機のことも戦争のことも知らなかった高校生のアベルトが、悪友の双子とともに肝試しにきた工場の中でリリファと、そして四号機と遭遇しました。
四号機の登録者に選ばれたアベルトにより、リリファは無事に保護されますが、それは新たな戦乱の時代の幕開けでもありました。








