面倒ごとの予感(2)
「簡単に説明すると内政干渉のきっかけにしたいのだよ。腐ってもメリリア元妃は第二王子レオナルドの母君だ。ヒューバートになにかあれば、レオナルド王子が王太子に繰り上がるだろう? その時母親の身柄を得ておけば、一枚噛めるというわけさ」
「んんん〜? でもレオナルドは王太子になるつもりはないし〜、メリリア様のこと大嫌いだよねぇ〜?」
「それならそれで『王太子にして英雄ヒューバート・ルオートニス王子を暗殺した犯人、メリリアを捕らえている。引き渡してほしければ、こちらの要求を聞け』とか、やりようはあるよね」
「うえぇ〜」
さすがナルミさんである。
帝国の下心をたやすく見抜くな。
まあ、そんな感じでメリリア元妃はていのいい駒になるのだ。
もちろんこちらが要求を突っぱねる前提の、非常に安い駒。
しかし、あの粘着質なメリリア元妃が目の届くところにいないというのは、非常に薄寒いものがある。
「でもそれってヒューバートを殺すってこと? そんなのダメだよっ!」
「メリリアはヒューバートを狙うと思うよ。他国の方が安全かもねぇ?」
「ハァーーー……面倒なことになってきてるなぁ」
「俺を帝国に派遣してくれたらしっちゃかめっちゃかにしてきてあげるよ〜☆」
「それは最終手段かなぁ」
デュレオが帝国に行ったら、それはそれで被害がすごいことになりそうだしなぁ。
ひとまずはコンサートの日取りを決めて、メリリア元妃の対策を父上と話して、仕事を頼む貴族を選りすぐって……。
ジェラルドの嫁も探さないとなぁ。
そういえば、ランディは婚約者とかいるんだっけ?
あとはマリヤ。そろそろレオナルドと会わせても大丈夫そうだよな。
あ、エドワードのことも忘れてた。
聖殿はレオナルドが聖殿長になり、ナルミさんが裏でレオナルドを指導し、ルオートニス守護神を祀る形に変えてからかなりよくなっているらしいから、このままで大丈夫だろう。
それでもまだ腐ってるやつらは残ってるから、そういうやつらに金が流れないように程々に搾り取るのは必要。
レオナルドに金の流れあれそれはまだ難しいだろうけど、ナルミさんの指示待ち人間にはなってほしくないからたまーに俺が手を加えないとな。
さすがに、弟に丸投げはちょっと。
「ギギ、新型試作機はいつ頃形になりそうだ?」
『金属加工の工程が入りましたので、半年くらいを見ていただけるとよいかもしれませんなぁ!』
「結構かかるな?」
「単純に魔樹の皮不足なのですよ」
「へぁ!?」
「石晶巨兵開発のために魔樹の植樹は増やしているのですが、魔法で育成を促すのにも限界がありますからねぇ。皮は一度剥ぐと、再び使える厚さになるまで一年かかります。元々魔樹は数も少なかったですし……大量生産するのでしたら、別な素材を探した方がいいかもしれません」
「別な素材って……」
リーンズ先輩は魔樹の研究をしていた。
だから魔樹がどういうものなのかもわかってる。
そして、魔樹は元々貴重な樹だ。
しまった……盲点だった。
魔樹の皮が、石晶巨兵量産に追いつかなくなっているなんて!
気焔という量産型を作ったせいで、新しい試作機用のものさえ足りなくなってるとはーーー!
「デュ、デュレオ、ハニュレオになにかちょうどいい素材とかない?」
「んー? さぁ? 魔力を遮断する素材ってこと?」
「いや、霊魂体を包む素材!」
「聖女の生皮でも使えば?」
「怖いこと言うな!」
却下すぎる!
えー! でもうーーーん!
霊魂体を包む素材……なんか原点に立ち返ったような問題が発生したなあ!?
「結晶魔石の膜を使えたらいいんだろうけどねぇ」
「結晶魔石の膜? あの、毒を包んでる硬くて薄いっていう?」
「そうそう。膜の成分に近いものを作り出せたらいいんだろうけど、それはそれで中身の毒がどうなるかって感じだよねぇ」
さすがはナルミさん、着眼点が違う。
と、思ったが、やはりそれはそれで問題があるらしい。
中身の毒をどうするか。
確か、分解物質、というらしい。
「分解物質って、取り込んだら内臓が分解されるってこと……?」
「内臓ではなく、霊魂体を分解するのだと思うよ。ヒューバートが実験につき合ってくれたら、検証できるけど」
「ダ! ダメですよ!」
「ふふふ、わかってるよ」
こ、こっわ!
レナが止めてくれなかったら本当にやられてそう!
「あ〜、なるほど〜」
「ジェラルド? なにがなるほど?」
「聖女の体内には最初から結晶魔石が霊魂体と一体化する形で存在しているでしょ〜? 結晶魔石を聖女の才能のない者が取り込むと、体の形の霊魂体に合わないから霊魂体化した結晶魔石の中身の毒が流れ出て霊魂体が融解して死んじゃうってこと。デュレオさんは死なないから毒素のものが通用しないけど、ディアスさんは結晶病の結晶が聖女の体内の結晶魔石と同じ役割をしてたんだよ〜」
「! なるほど」
小ネタ
ジェラルド「ギア・フィーネって色とりどりで綺麗だよねぇ〜」
ヒューバート「そうだなぁ。一号機が黒、二号機が灰色と赤と緑と青、四号機が深緑、五号機が白と金色。三号機は何色なんだろう?」
ランディ「この中にない色だと、オレンジか紫色でしょうか?」
ナルミ「ギア・フィーネの色であんなに盛り上がれるなんてカワイイねぇ」
デュレオ「側近くんが地味に正解してるのがなんとも」
正解=紫