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きょうだい(6)

 

「……おれの婚約者は、まだ候補なので、うまく治癒魔法を使えるかわからない。でも、彼女にしか、たよれない……」

「そ、そうですか。そう、ですね……」


 肩を落とされてしまったが、確約できないので仕方ない。

 俺にも言えるのだが、レナの聖女の魔法を頼りにしすぎるのは危険だ。

 彼女はまだ、漫画の中程の力を持っているわけではないのだから。

 聖女の魔法……聖女候補の体内にのみ現れる、特別な結晶魔石(クリステルストーン)

 結晶化した大地(クリステルエリア)や晶魔獣から採取されるものとは、別物であるというそれ。

 聖女が亡くなると、霊魂体(アストラル)と共に消失する、不可思議極まりない()()()()()()魔石。

『聖女』に認定されるのは、拳二つ分の大きさが必要になるという。

 つまり、聖女の魔法は聖女の身が持つ結晶魔石(クリステルストーン)に影響されるということだ。


「着替え終わりましたわ!」

「あ、あの、パティ様から、お借りしてきました……」

「かわいい!」


 お通夜のような空気になっていた応接室に、パティとパティのお下がりピンクのワンピースを着たレナが戻ってくる。

 半袖が七分袖になっていて、肩まで出ているところを中にブラウスを着てカバー。

 天才か、パティ。

 かわいすぎて誘拐されないか心配になる。

 レナの性格のような白のワンピースも可愛らしかったが、花のように可憐なピンク色もとてもよく似合っているな!

 髪の色が薄いせいだろうか、もっと濃い色のピンクでもきっとかわいいだろう。

 ああ、俺にもっと力があれば、貴族街の仕立て屋を貸し切っていろんなデザインのワンピースやドレスを仕立ててプレゼントするのに!


「殿下、全部声に出ておりますよ……!」

「うっ」

「……殿下は優しいわね、レナ様」

「う、あうううあううう」


 いかん、レナのかわいさにとち狂ってる場合ではない。

 真っ赤に照れてるレナも、それはもうかわいいけれど。


「レナ、ジェラルドを診てもらえないだろうか」

「は、はい、すぐに!」

「ありがとうございます! ジェラルドはこちらです!」


 パティが先陣切って廊下を歩く。

 レナと俺、ランディ、近衛騎士の二人とミラー子爵が続き、二階の東の側にある一室へと案内された。

 レナが空いた扉の中へと入る。

 狭い部屋にはベッドと勉強机、本棚がびっしり。

 本は魔法に関するものばかりだ。

 それを見て俺は泣きそうになる。

 ジェラルドは本当に俺との約束通り、魔法を勉強していてくれた。

 会えなくなって数日、悲しかったけど……ジェラルドは俺との約束をちゃんと守ってたのだ。

 そしてベッドの上に横たわるジェラルドに、レナが近づいた。

 俺も恐る恐る部屋に入る。

 長い付き合いだが、ジェラルドの家に来たのも部屋に入るのも初めてだ。

 いつもジェラルドが俺に会いにきてくれていたから——。


「ジェラルド……」

「……ヒューバート……でんか……どうして、ここに……」

「っ……だって、お前が……結晶病に罹ったっていうから……」


 信じ難いことに、ジェラルドはステージ3どころではない。

 呼吸音がおかしい。

 首や顎、左耳にまで結晶化が進んでいる。

 これでは半年どころか、明日まで持たないかもしれない。


「うそだ、なんだよこれ、こんなの、早すぎるだろ、進行……早すぎるよ……ジェラルド」

「泣かないで、ヒューバート……でも、会いにきてくれて嬉しい……謝ろうと思ってた、から」

「っ!」

「約束したのに、守れなくてごめんね……って」

「い、いやだ、いやだいやだいやだ」


 手がもう、結晶化してて上がらないのだ。

 俺が手を握っても、冷たい感触しかない。

 ぱき、ぱき、と肌が結晶化していくのが目に見える。

 こんな残酷なことが、あり得ていいのだろうか。

 人間が生きたまま石になる。

 最後は細かく砕けて、結晶化する。

 いやだ、そんなところ、見たら……俺、立ち直れない。


「ジェラルド……!」

「っ! ヒューバート様、わたしに任せてください!」

「レナ……!」


 場所をレナに代わり、俺は後ろに下がる。

 そうだ、レナなら……!


「初めまして、レナ・ヘムズリーと申します。ヒューバート様の、婚約者になりました」

「……あな、たが……」

「未熟な聖女候補ですが、必ず助けます! ……すぅ…………〜〜〜♪」

「……うた……?」


 レナが小さな声で歌い始めた。

 これが聖女の魔法。

 聖女は歌を紡ぐことで魔法を使う。

 世界的長編アニメの髪の長いプリンセスのように、髪が光るわけではなく、ただ歌うだけだけど。

 レナが手をジェラルドの手を握り、ずっと同じ歌を歌い続ける。

 どれだけ繰り返し歌っていたのだろう。


「……っ……やはり……」


 ミラー子爵が呟いて、顔を手で覆った。

 その声は悲壮感しか含まれていない。

 だがそれも仕方ないのだ。

 レナが歌い続けても、ジェラルドの容態は変わらない。


「いえ、ですが、進行自体は止まっていますよ!」


 ランディが気を遣ってフォローしてくれるけれど、それではダメだ。

 レナの声が掠れてしまう。

 ずっと歌い続けているわけにはいかない。

 きっと歌が止まればまた、すぐに病の進行が始まる。

 明日の朝まで、保つだろうか。

 俺も床に座り込んだ。


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