事後——登録者(3)
「あ、あの、でも、一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「ソードリオ王と、シズフさんの体調は——」
ディアスに頼もうと思っていたのはそっちだ。
メインクエストの方が滞ってると、依頼主の俺が別の方法を考えなければいけないのだ。
「ソードリオ王の方はすでに診察して治療を開始している。やや栄養失調気味で肝臓が弱っていたが、病原体はどこにも発見されていない。ピーナッツアレルギーが発症してから、食事することに恐怖心を抱いてしまったそうだ。なので他の食材のアレルギーを検査した。栄養失調も極度の偏食によるもののようだから、食生活を改善すればすぐ治る。腰痛と足の痛みは加齢によるものだが、こちらも食事療法で改善が見込めるな」
「さ、さすがぁ」
「シズフの方は、神格化したことで細胞劣化による内臓の損傷が消えた。ただ遺伝性の病なのでラウトの結晶病が引き続き悪化部位を結晶化させて、体外に排出するのは続く。俺が作った薬での治療は必要なさそうだ」
「そ、そうですか」
ホッとした。
ソードリオ王もシズフさんも大丈夫なんだ。
よかった。
それになにより——。
「シズフさんの吐く結晶魔石が引き続き採集できるんだ……よかったぁ〜」
「ああ、シズフの吐いた結晶魔石は俺も見せてもらったが、実に興味深いな」
「でしょう!?」
「杖に使ったら魔力量の少ない者も、上級魔法が使えるようになりそうだ。あれほどの濃度だと出力が高いから、MRIが作れるかもしれない。魔法で代用はできるのだが、今のところ[透視]魔法を医療に使う者はいないからな……」
「そ、そうですね」
グロテスクすぎてね。
なぜなら魔法が発展して、現役のお医者さんも外科手術とかしなくなってるし。
「あれを複数使えば、千年前と同じレベルの医療設備が整えられる。ぜひ引き続き吐き続けてほしい」
「でも、あれだけ高濃度の結晶魔石は奪い合いになりますよね」
「む……そ、それもそうだな。シズフもさすがに吐く時はつらそうだし……」
「石晶巨兵に最低でも三つはほしいんですが」
「俺は五つほしい」
「一日何個くらい……」
「体調が改善したので一日に平均一つだな」
「むむむ」
ラウトかランディがこの場にいたら、絶対に「やめろ」と咎められるだろう。
ふ、わかってるさ。
だが! ここにジェラルドがいたら絶対賛同してくれる!
ディアスも同士ということがわかったので、味方が増えた!
「あ、それとデュレオのことなのですが」
「ああ、俺も驚いた。本当に生き返るんだな」
「え?」
生き返るとこ見たの?
それ、誰か殺したってことでは?
「ラウトが平然と眉間を撃ち抜くから、さすがに叱ったのだが……」
「ラ、ラウト……」
犯人はラウトかぁ!
「倒れるわけでもなく、普通に治って驚いた」
「まあ、ですよね」
初見はビビる。
わかる。
「確かにあれはルオートニスに連れて行って、ナルミに預けた方がいいだろうな。ナルミの名前を出すだけで顔を顰めていた」
俺が思ってるよりデュレオってナルミさんのこと相当嫌い……?
あれに嫌われるナルミさんの方が怖くなってきたんだけど。
「それから——デュレオの言葉なので、どれだけ信憑性があるかはわからないが」
「え? はい」
「三号機とジークフリートの母艦、エアーフリートはこの国の近くにはない。エアーフリートがハニュレオ——というかカネス・ヴィナティキ帝国領にある、というのはおそらく情報操作。ラウトととの戦いの時に、西から長距離狙撃で援護射撃があったが、あれはおそらく三号機の長距離精密狙撃ユニット。この付近に隠し場所があったのだと思う」
「ちょ、長距離精密狙撃ユニット?」
こくり、とディアスに頷かれる。
三号機の登録者、ザード・コアブロシアは世界最高峰と呼び声高いフリーランスメカニック。
なにより世界の国家を相手に十年以上逃げ回り、鹵獲を目論む部隊を——それこそ二号機や五号機などの同シリーズ機体相手でさえ寄せつけぬ強さを誇っていた。
他の登録者がギアの存在すら知らない頃、すでにギア3にまで到達しており、基本的なスペックが最初から高かった上、多種多様な独自装備を作り出して使用していたという。
確かにシズフさんのチートぶりを見たあとだと、あれから逃げ回って撃退してたとかチートの上をいくチートだろ……。
で、その多種多様な独自装備の中に、[長距離精密狙撃ユニット]というものがあるのだそうだ。
5000キロメートル以上の目標を狙撃可能な超高性能狙撃ライフルで、自動狙撃用ライフル二丁、超濃縮バッテリー等の追加ユニット使用で様々な状況に先制を行えるというもの。
回避能力の高さに定評のあるシズフさんを、唯一撃ち抜いたことのある三号機の登録者。
もう、それだけ聞くだけでヤバい。
で、そのユニットがこの辺りに隠してあっただけで、本体と母艦はここにはない、と。
「デュレオ曰く『千年前に一度も捕まらなかった三号機が、わざわざ情報を残している時点でそれは罠だろ』……と。悔しいが説得力はある。デュレオの言うことなので、信憑性は定かではないが」
「そ、そうですねぇ」
それを言われると信憑性しかないような気もするが。
裏設定(裏?)
三号機の装備は三つのセクションと五つのユニットで構成されています。
本来ギア・フィーネは海中に潜って戦闘を行う機能がないのですが(※五機とも潜っても壊れることはない)、三号機アヴァリスは[シーモードセクション]という海中戦闘に特化した後部への付属セクションを装備することで海中戦闘を可能にしたり、[スペースモードセクション]で宇宙戦闘に特化したり、やりたい放題でした。
簡単に言うと違法改造なのですが、ギア・フィーネ自体が未知の存在なのでそんなの関係ねぇ。
さらに[長距離精密狙撃ユニット]の他に[二重刀ユニット][超精密射撃ランチャーユニット]などの武器ユニットで戦況を有利に進めていました。
[二重刀ユニット]は当時自分用ではなく、親友のキサキの機体やサイファーという部下の機体に預けて近接戦闘を任せていました。
四号機が仲間になって(それなりに操縦が上手くなってから)、四号機に持たせて使わせることが多くなったようです。
他にも試作品でロケットランチャーやらクラスター爆弾なども作って使っていましたが、疑似歩兵前身兵器にそんなもんを持たせて戦うという発想がなかった各国は、戦闘の度にデータを集めて同様の兵器開発に勤しみました。
結局それらは三号機と四号機の鹵獲に使われることなく、他国との戦争に使用されるようになります。
そのため、各国の兵器開発部で三号機は『天才兵器発明家』と影で呼ばれて一部の開発者たちには崇拝者までいました。
そのことで余計に「ギア・フィーネ三号機の登録者はジークフリートでは?」論が加熱しますが、本人は「使ってみたいから作った」という超個人趣味で作っている最低っぷり。
『凄惨の一時間』を起こした一号機、世界の運命を幾度も左右するきっかけとなった二号機と、世界に多大な影響を及ぼした三号機、世界一民間人を虐殺した五号機として、世界中に知られることとなりました。
そして四号機はとくになにもしてないので民間からは非常に印象が薄いです。