表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/386

番外編 デュレオ・ビドロ(3)

 

 これは些か意外。

 素直に感心してしまうと、レナはいい笑顔で「はい! 結晶化津波は天災なので、いつ来るかわからないとヒューバート様がすごく心配していたので!」と答える。

 結晶化津波は天災。

 規模によっては国一つを呑み込むものだ。

 過去、数日かけて国が呑まれた記録もある。

 なので、聖女は数日間休むことなく結界を維持し続けなければならない。

 非常に過酷な役目だ。

 本来一人では、到底耐えられない。


「し、知らなかったわ……」

「ヒューバート様が『結晶化津波に限らず、災害は常に備えておくことが重要』とおっしゃっていました! 火事が起こった時の避難訓練や、嵐が来た時の避難所などもルオートニスには作られているんですよ!」

「そ、そうなの!? 来るかわからないのに!?」

「はい! ヒューバート様は本当にすごいんです!」

「……用意周到なのね。本当にすごいわ」


 そしてどうやらルオートニスでは、結晶化津波が起こった時のマニュアルもあるらしい。

 医療改革の時に村や町をできるだけ見捨てず済むよう、ディアスの[死者の村]を浮かせた超強力な[浮遊]魔法と石晶巨兵(クォーツドール)とギア・フィーネの通信機の技術を応用し、離れた場所から聖女の力を通す簡易結界が開発された。

 まだ出番はなく、実際に効果があるかは未知数というやや残念なものだが、その存在は人々の心に安心感を齎すだろうと。

 もっと改良して行く予定で、それは仕事を溜め込んだヒューバートにより有力貴族数名に丸投げされている。

 ルオートニスに帰ったら、発つ前よりいいものになっているかもしれない。

 かなり専門的なものなので、これ以上の改良にジェラルド並みの知識が必要だろうけれど。


「でもそれとオズを連れてきた関連性がわからないわ!」

「“歌い手”として興味があったんです! デュレオ様も元々は歌手だったそうですから、歌はすごく上手いと思うんですよ!」

「だからそれがわからないのよ……!」


 なんとも会話がずれているような。


「それに、ヒューバート様が『デュレオにも“聖女”みたいな力があるのかなぁ?』って呟いていたので、デュレオ様が聖女かどうかも検証しましょう!」

「聖“女”ではないよね? 俺。誰がどう見ても」

「こんな人喰いの化け物が聖女なわけないじゃない!」

「ツッコミがおかしい」

「そんな、わからないじゃないですか、スヴィアさん!」

「間違ってないけど間違ってると思うなぁ?」

「いいえ! ワタシはこんな聖女認めないわ!」

「俺にツッコミをやらせないでもらえるかなぁ!?」


 聖女ってみんなこうなんだろうか?

 特に痛まない頭が痛み出した気がして、思わず頭を抱えてしまう。

 全体的に会話にズレが大きくて、つい突っ込んでしまった。


「スヴィア殿! ヒューバート王子殿下方が接敵されたとの報告が!」

「わかりました! 仕方ないわ、レナになにかしたら、このワタシが引っ叩きます!」

「わぁお、痛ソーダナー」


 くらいが低くともお嬢様。

 あまりにもご丁寧に宣言するのがなんとも笑える。


「この国の者として、ヒューバート王子たちの力になるわよ! 行きましょう、レナ!」

「はい! デュレオ様も行きましょう!」

「はいはい」


 そうして二人と共に城の屋上へと行く。

 そこにはなぜか、しっかりとしたビュッフェの準備が万端になっていた。

 レナの侍女たちが丁寧に頭を下げて、「お待ちしておりました」と二人を出迎える。

 ちょっと気合い入れすぎでは?


「ありがとうございます、パティさん、マリヤさん! わたし、頑張って歌いますね!」

「ヒューバート様が用意されていた蜂蜜飴もありますよ」

「わあ、わたし、これ大好きです!」

「蜂蜜飴?」


 スヴィアがパティの差し出した飴を覗き込む。

 今の時代に蜂蜜が残っていたのにも驚きだが、その効能を正しく理解して作られたお菓子だ。

 その点にも驚く。


(……あー、でもディアス・ロスが側にいるならあの男の入れ知恵かもねぇ)


 だとしても蜂が現存していることに驚くが。

 まして蜜蜂。

 花々は生産性もないので、かなり早めに根絶しているものが多い。

 薬草効果のあるもの以外は、王侯貴族の庭ぐらいにしか残っていまい。


(……そういえばカネス・ヴィナティキはこれに近いことになると思って『レッドデータプロジェクト』を始めたんだっけねぇ。あのクソババァに悪用されたけど——)


 つまり、カネス・ヴィナティキのあったこの地のどこかに、その名残が隠されている。

 種の保存。

 動植物の遺伝子が保管され、完全な絶滅を防ぐための計画。

 形は違えど、終末は来た。

 しかし、ヒューバート・ルオートニスが石晶巨兵(クォーツドール)を生み出したことで、その終末は回避されるかもしれない。

 近い未来、カネス・ヴィナティキの遺した『レッドデータ』が発掘されれば、世界は再び息を吹き返すかもしれないのだ。


「ヒューバート様がわたしが無理をして喉を枯らさないように、作ってくださったんです」

「へ、へー……」

「すごく甘くて喉にも優しいんです! スヴィアさんもぜひ食べてみてくださいね!」

「え、ええ、あ、ありがとう……。……レナは本当にヒューバート王子に、その……愛されてるわね……」

「え! えへへへへ」


 照れ、照れと頬を染めながら嬉しそうなレナに、スヴィアの複雑そうな表情。

 エドワードと比べるまでもなく、一目瞭然の結果。


「ふん。なぁに、冷めちゃった?」

「は!? な、なにがよ!」

「物欲しそうな顔してたよぅ? 愛されてる女が妬ましい羨ましいって顔。聖女といえど所詮は女だねぇ?」

「そ、そんなんじゃない! ……こともないけど」


 素直だ。

 顔を背けてはいるが、存外簡単に認めるものだとまた意外に思う。


小ネタ


デュレオ「蜂、よく生き延びてたねぇ? ルオートニスにはまだたくさんいるの?」

ヒューバート「あ、うん。リーンズ先輩が植物の研究過程の中で、虫の研究もしていて、その中に蜂もあったんだ。俺もセドルコポイズンビーで死にかけたことあるし」

デュレオ「セドルコポイズンビー? なにそれ?」

ヒューバート「暗殺用に特化させた人工の毒蜂だよ。うちの国には血清もないし、リーンズ先輩がいなかったら死んでたなぁ。あはははは」

ランディ「笑いごとではありません」(真顔)

レナ「そうです」(真顔)

ヒューバート「……は、はは……はい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】

4g5a9fe526wsehtkgbrpk416aw51_vdb_c4_hs_3ekb.jpg
『転生大聖女の強くてニューゲーム ~私だけがレベルカンストしていたので、自由気ままな異世界旅を満喫します~』
詳しくはホームページへ。

ml4i5ot67d3mbxtk41qirpk5j5a_18lu_62_8w_15mn.jpg
『竜の聖女の刻印が現れたので、浮気性の殿下とは婚約破棄させていただきます!』発売中!
詳しくはホームページへ。

gjgmcpjmd12z7ignh8p1f541lwo0_f33_65_8w_12b0.jpg
8ld6cbz5da1l32s3kldlf1cjin4u_40g_65_8w_11p2.jpg
エンジェライト文庫様より電子書籍配信中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ