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番外編 デュレオ・ビドロ(1)

 

「ハァーーーーーーーーー」


 と、深いため息を吐いたのはデュレオ・ビドロ。

 ソファーの背もたれに全身寄りかかり、天井を見上げてそれはもう深々と溜息を吐く。


(どうしてこうなった。まあ、シズフが出てきた時点で俺の思い通りになることはまずありえないんだけど。いや、本当あいつとフェノがいた時、思い通りにことが運んだ試しがないわー)


 せっかくこの国のアホ貴族とアホ王子を手玉に取り、反乱を起こしてその混乱を愉しむつもりだったのに。


(それにしてもあのガキ、ヒューバート……シズフに“命令”を聞かせたのには驚いたわ。シズフ自身もびっくりしてたけど)


 基本的に、シズフ・エフォロンは他人の命令を聞かない。

 父親の命令は「そういうモノだ」と聞く傾向にあるが、兄たちの意に沿わなければ意見するし聞き入れないこともある。

 あの男が唯一すべての命令を聞いたのは、戦友として信頼を置いたマクナッド・フォベレリオンだけだろう。

 といっても、マクナッドの場合は命令というより相談、提案の形が多かった。

 戦闘中でさえ、滅多に命令形での命令は行っていない。

 本当に時折、シズフ自身の身が危険になると判断した時やシズフと二号機の力でなければ切り抜けられない時、マクナッドが命じた時は忠実にその命を遂行する。

 あの時ヒューバートがシズフに命じたのは“エドワードの命を守ること”。

 非常に忌々しいが、エドワードを殺すということはこの国の崩壊に直結する。

 マロヌは幼すぎて、国の崩壊に繋がる可能性が極めて高かったからだ。

 あの時、ヒューバートが命じなければ。

 デュレオはエドワードを本当に殺す気だったし、ついでにスヴィアも殺そうと思っていた。

 スヴィアを殺さずとも、エドワードを殺せばスヴィアの聖女としての力はなくなる。

 聖女の力の根幹は『守りたい心』。

 エドワードの死は、確実にスヴィアを聖女の力を削ぐ。

 それは、国の死だ。

 現在この国を守る要の聖女はスヴィアなので。

 ——マロヌは王太子に命じられてから、その重圧が原因で聖女としての力がなくなっている。

 デュレオを結晶化した大地(クリステルエリア)から救い出すほどの力を持っていながら、今はその力が出せなくなっているのだ。

 それを知っているのはデュレオとソードリオ王のみ。

 誰かに言うつもりはないし、スヴィアが死んだり聖女の力を失えば、民衆の期待はマロヌに向く。

 今でさえ重圧で力が使えなくなっているのに、更なる期待は幼いマロヌをより追い詰める。

 恩人であろうが幼子であろうが、人間がどんな目に遭おうとデュレオは興味がない。

 ただ、本当にあの瞬間がハニュレオという国の分岐点だった。

 ヒューバート・ルオートニスは的確にそれを見定めて、シズフに命令したのだ。

 気に食わない。

 たとえ子孫同士とはいえ、“血”を感じてしまう。

 マクナッド・フォベレリオンは、強化ノーティス手術前から判断能力に優れた少年だった。

 優しく、気遣いのできる真面目な性格。

 シズフを心から尊敬して、親の七光りで艦長に収まった無能を上手く転がしながら全体をサポートするような。

 おそらくレネエルで彼より優秀な軍人はいなかっただろう。

 デュレオに対しても——正体を知ったあとでも対応を変えることなく普通に接してきた稀有な人間。

 あれは本当に美味しそうだった。

 あんなふうに普通に、変わらずに対応されると、襲って食った時の反応が本当に興味深い。


(やっぱり食べておけばよかった)


 フェノ・シヴォルも指揮能力と先見の明に優れた少女だった。

 行動的で、世界が戦争の渦に呑まれて戦火が加速していく中でも、取り返しがつかない寸前を見極めてそれを回避するように動く。

 あの少女のささやかな反抗がなければ、世界はもっと早くバラバラになっていただろうに……。


(小煩い小姑みたいな小娘だったけど、中立機関の長としては優秀だったんだよねぇ。あの二人の子孫同士がくっついてヒューバート・ルオートニス……ルオートニス王家になったのか。なら、ギリギリを見極めて“最悪”を回避するのは、そりゃあ上手かろうなぁ。ムカつくけど)


 目を閉じる。

 こうなってしまっては、ハニュレオで遊ぶのはもう無理だろう。

 ただ、若干——本当に一番笑ったのがヒューバートの“体で覚えろ”システムを起動させて、首と両手両足首に輪っかをつけてぐったりしていた姿だったので、面白いことに関してはそれで十分満足してしまった気はする。


「ンフッ」

「!?」


 ダメだった。

 思い出しただけで笑う。

 機体から這い出て、ここまで来るのに疲れ果てて白目剥いて虚無の彼方を眺めるあの姿。

 ソファーの背もたれに顔を向けて横たわり、お腹を抱えて笑いを堪えるが、プルプル震えてしまう。

 しばらくこれだけで笑えそうである。


「あの……」

「あ? なに?」


 思い出し笑いをしていると、声がかけられる。

 振り返るとレナ・ヘムズリー。

 そういえばヒューバートに「王都を守るように」と頼まれていた。

 ルオートニス王国、『王家の聖女』と聞いている。


(あと、ヒューバートの婚約者とかいってたっけ。アホだなぁ。俺の側に婚約者を一人残していくなんて。しかも聖女を。俺が食べたらどーする気なのか……)


 しかしながら先程“食事”してしまったためなのか、全然食指が動かない。

 年頃の健康な少女は、美味しそうに見えることが多いのだが。

 なぜだろう?と、彼女の“血筋”を覗いてみるとなるほど、アーセル・ルンベラッテの末裔だ。

 四号機の登録者、アベルト・ザグレブの級友の一人。

 ジークフリートの母艦『エアーフリート』の、艦長まがいのことを任されていた少年である。

 ある意味丸投げされていたともいう。

 それでもきちんと終戦まで『エアーフリート』の艦長として勤め上げたのだから、見事なものだろう。



小ネタ


レナ「デュレオ様は聖女の結晶魔石(クリステルストーン)を[鑑定]魔法も使わずに視たりできるんですよね。どうやって見えるんですか?」

デュレオ「なんか眼鏡かけ直すみたいな感じ? 意識すると見えるようになるんだよ。血筋を視るのも同じ要領。かける眼鏡は違うけど、みたいな?」

レナ「もしかして“歌い手”の特殊能力なのでしょうか!? わたしも練習したらできるようになりますか!?」

デュレオ「無理でしょ」

レナ「しょぼん……」

デュレオ「無理でしょ」

レナ「なんで二回言ったんですか!?」

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