ラウトってこういう時とても楽しそうだよね
でもまあ、やるしかない。
「俺が前線最後の防衛線だ。——暗き森よ、拡がれ。甘い毒を振り撒いて、立ち入りし者を惑わせ迷わせ我が胸にしまい込め! [ダークチャーム・フォレスト]!」
上級闇魔法[ダークチャーム・フォレスト]。
時間が経てば経つほど広さが増殖していく、広範囲魔法。
本来は逃亡犯を捕らえるために使われる、拘束魔法の一種である。
出口を入り口と同じ方向に設定しておけば、少なくとも飛ばない晶魔獣には効果があるだろう。
問題はあのクソデカブツだ。
陸竜と、陸帝竜。
そして空飛ぶ空竜たちや、皇帝飛蝗ども。
森が時間経過で増殖し続ければ、強敵たちもある程度の足止めはできるかもしれないが、俺の魔力が続かないかもしれないんだわ。
保って三時間くらいじゃない?
けど、三時間もあればディアスとサルヴェイションが来てくれる。
ラウトと五号機が陸帝竜を胸部のビーム兵器で、多少弱めてくれると思うし?
ジェラルドなら陸竜を単身で破壊できる。
皇帝飛蝗も[ファイアトルネード]あたりなら焼き払えるから、魔法を見ただけで完コピするシズフさんと共に頑張ってほしい。
『ヒューバート殿下、大丈夫ですか!?』
「ランディか。うん、まあ、大丈夫、今の所ね」
『ふん、遅くて迷子にでもなっていたのかと思ったぞ。なかなか殺し甲斐のある災厄だな。とても楽しめそうだ』
「全然楽しくないけどね、俺は」
ラウトは本当に楽しそうだなぁ!
五号機はすでに盾を二つに割り、胸部に装着してバチバチとエネルギーをチャージしている。
100%で撃つって言ってたけど、チャージどんくらいかかるんだ?
「ラウト、あとどのくらいで100%のチャージで撃てるんだ?」
『まあ、待て。あと一分は稼げ。地獄絵図を見せてやろう』
「ぉ、おぉぅ……」
本当に楽しそうで引く……。
五号機の機体の輝きは増していく。
光の粒子を放ち、白の機体は黄金に変わる。
神鎧状態で、100%の胸部のビーム兵器使うの?
めちゃくちゃやばくない?
地獄絵図確定演出じゃん……容赦なさすぎて敵さん可哀想になるやつじゃん……。
「ランディ、ジェラルド、わかってると思うけど[ダークチャーム・フォレスト]の中には入るなよ」
『はぁ〜い』
『殿下、魔力が足りなくなりそうでしたら、自分が供給をお手伝いします』
「た、助かる!」
さすがランディ、痒い所に手が届く男。
しかし、このままではいまいち戦況がわかりづらいんだよなぁ。
「イノセント、戦況をなんかこう、ゲーム画面ぽくわかりやすくできないかな」
『うーん、そういう戦況把握機能は一号機と三号機にしかついてないんだよね』
「そ、そう」
そんな機体性能差あるぅ?
一号機はやっぱり隊長機? リーダー機? みたいな感じなんだろうか?
三号機は狙撃特化と聞いてるから、一撃で戦況ひっくり返すのに必要な機能なんだろうけども。
見事にこの場にいるのが、戦況把握機能のついてないギア・フィーネしかないのいっそ笑う。
『でも三号機の戦況把握機能を一時的にダウンロードして、借りることはできると思う。聞いてみようか?』
「え? う、うん? よろしくね?」
そんなことできんのぉ……?
本当なんでもありだなギア・フィーネ。
『貸してくれるって』
「…………。三号機の登録者って、いないんだよな?」
『三号機のAIが対応してくれてるんだ。必要ならそのまま当機にインストールしていいって。どうする?』
「あ、じゃあ、お願いします……?」
そんなことできんのぉ……!?
三号機意外と親切では?
ヤバい話は登録者の方だけで、機体のAIはそれほど性格歪んでるわけではない、とか?
いや、ロボの性格が歪んでるってなに?
怖いわ。
『インストール完了。二号機のカメラ情報をロードして、晶魔獣と石晶巨兵光炎と地尖を含めた味方機の配置をマクロ表示する』
「おお……お、おう……」
正直本日二回目の見なきゃよかった。
マクロで表示されると、戦力差の範囲がいっそ笑えてくるレベル。
本当に町一つが移動してるんだが?
俺たちがマクロ表示でミクロって、笑うしかないんだが?
「これを覆すの無理ゲーすぎでは?」
『そう?』
「いや、だって」
『ヒューバート、ジェラルドを下がらせろ。胸部電子融解砲チャージ100%完了だ。左方向を一掃する』
「え? あ、はい。……ジェラルド、聞こえたか? 後退しろ!」
『え? あ、は〜い?』
確かに、五号機は城を半壊させるし町一つ容易く破壊し尽くせるのだろうと……そう思ったことはある。
ルオートニス王都もあの胸部のビーム兵器を使われていたら、多分壊滅していた。
よく生き延びたな、と今もたまに思い出す。
だからある意味、町一つ分のこの絶望的な戦力差でも、五号機とラウトの力なら、あるいは——と思っていた。
消し飛べ、と愉悦混じりの声色が通信機から聞こえてくる。
その直後の光の強さに目を瞑った。
なかなか収まらないその光を、腕で顔を覆いながらうっすら目を開けてモニターを見る。
マクロで表示されていた数キロにも及ぶ晶魔獣が、陸帝竜を残して左半分消滅した。
「……………………」
言葉が出ないとはまさにこのこと。
あ、あ、アレを、撃たれようとしていたのか、ルオートニス王都。
っていうか、アレに堪える陸帝竜もどうかと思うよ。
と、思ったが、左半分の一部が溶けて抉れている。
いや、震えるわこんなの!
対城宝具じゃん……!
『次は五分後だ。時間を稼げ』
「は、はぁい……。ラウト、陸帝竜は、そのー、イケそう?」
『そうだな、思ったより硬い。アレ一匹にあと三回は浴びせないときつそうだ。だがまあ、動きは薄鈍い。取りついて直にぶち込んでやればさすがに死ぬだろ』
「めちゃくちゃ怖いこと言ってる……」
取りついて直にぶち込むとか、あまりのグロ映像案件では……?
『むしろ周りを飛んでいる、あの虫……皇帝飛蝗と言ったか? あれは細かすぎて全部落とし切れないな』
「なるほど、そうか。わかった、こっちでなにか考える」
『ああ、晶魔獣に関してはお前が一番詳しい』
「?」
そんなこともないと思うんだが、まあ褒められて悪い気はしないよな。
陸竜は空竜などの大型は、ラウトと五号機で一掃できる。
問題は小型——皇帝飛蝗。
さて、こいつをどう攻めるべきか——……。
小ネタ
ラウト「ギア・フィーネに音声サポートシステムがあるのは初めて知った」
ヒューバート「そうなの?」
シズフ「普通機体に話しかけたりはしないからな」
ディアス「ヒューバートは思考が柔軟だな」(撫で撫で)
ヒューバート「え、えへへ」
デュレオ「シンプルに不審者だよ」
ヒューバート「不審者って言うなァ! お前にだけは言われたくないそのセリフ!」