やらかした
じゃあ、今イノセント・ゼロが話してるのは——四号機の前登録者、アベルト・ザグレブ。
もちろん、かなりオマージュはされてるんだろうけど。
千年前にラウトを助けようとして、シズフさんやディアスを助けて、三号機の登録者と仲も良かったという、あの。
「俺、先代登録者みたいになれるかな?」
戦いを止めようとした、四号機の前登録者。
ラウトと戦ってる時、聞こえたあの声。
『ラウトを助けよう』って、言ってくれた声。
『なれるよ』
「っ」
音声もあの時の声に似てる。
じゃあ、あの時の声はイノセント・ゼロが言ってくれたのだろうか?
なんとなく心強さは増した。
「ありがとう。えっと、それじゃあ解析の方を任せるよ。俺があまりにもポンコツパイロットで、申し訳ないけど」
『そんなことないよ。先代も最初はこんな感じだったし』
「ラウトに聞いたことあるけど本当にそうなのか……。先代はサポートなしで動かしていたのか?」
『ううん、三号機の登録者がサポートシステムを作って入れてくれたんだ。ヒューバートも使う?』
「三号機の……」
三号機の登録者。
ジェラルドのご先祖様。
…………誰に聞いても「クソ野郎」「性格最悪」「神の手を持つ悪魔」「口と性格が悪い」としか答えが帰ってこない、あの……?
どうしよう、不安しかない。
でも、先代はそれでまともに動けるようになったんだし?
ラウトと戦えるまでになるなんて、きっとものすごいサポートシステムなんだろうから……。
「う、うん。それじゃあ、使ってみようかな……?」
ヤバければ外してもらえればいいもんね。
と、この時は安易に考えていた。
『了解。起動するね』
「うん——うん!?」
ばし、ばし、手首足首、首にバンドがくっついた。
そして、ぐらつく。
「なんっ——!?」
『サポートシステム“体で覚えろ”起動しました。本日より半年間、脳信号を制御してギア・フィーネ操縦機能と連動します』
「ふぁ!?」
『すごく大変だけど、頑張って!』
「ちょ、まさか、それ……う、うそ……は、外れない……!?」
イノセント・ゼロがあれに合わせてくれるようサポートする機能じゃなくて、俺がイノセント・ゼロの操縦機能に合わせるシステム?
しかも半年って言った?
ふぁーーーーーー!?
「う、嘘だろ? 嘘だろおおおおおおおお!?」
***
「あははははははははははっ! あっははははははははははははっ!? 嘘でしょ君、バカすぎない!? 散々三号機の登録者の性格の悪さを聞いてきて、あいつの作ったシステム使うとか勇者かよ!? あはははははははははは!!」
と、死ぬほどお腹抱えて笑っているのはデュレオである。
城の一室をお借りして、俺はソファーに横たわって天井を見上げていた。
虚無顔で。
ここまで来るのに一時間費やした。
自分の体が自分の体とは思えないほど扱いづらい。
自分の体を“操縦”しなければならない状況なのだ。
なんかこう、脳からの信号が阻害されている感じがする。
感覚が操縦している時のそれ、そのもの。
操縦桿や鎧に触れている感覚がずっとあるのも恐ろしいが、手首や指の動きで全身を操作する感じ。
怖い。
こんなこと魔法じゃなくて道具でできるもんなの?
こんな非常識な道具を作り出せるとか、舐めてた!
三号機の登録者、『神の手を持つ悪魔』ジークフリートことをザード・コアブロシアを!
「ぐううう」
「ヒューバート様、これ外せないんですか?」
「半年経ったら外れる仕様なんだって……」
「そ、そんな……」
レナにもとても心配されてしまった。
ランディとジェラルドにも「より一層、警護を引き締めなければ」と気合を入れ直させてしまった。
すまない……すまない。
「え、ええと、それでは石晶巨兵に関してのお話を始めさせていただいてよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、もちろん。ジェラルド」
「はい。では、まずは基本設計からご説明します」
五人の技術者にジェラルドが話し始める。
しかし、不思議なことがあった。
シズフさんが壁に寄りかかって、窓をずっと睨んでいるのだ。
ね、寝てないな?
「気になるか?」
「え? あ、ああ、うん。ラウトもなんかピリピリしてる?」
「ああ。なんだか大型の作戦前のような緊張感というか、奇妙な感覚がする。……多くの命が散る前の高揚感というか——」
にや、と唇が弧を描くラウト。
うっすらそんな気はしてたけど、ラウトはやっぱり戦闘狂の気があるよねー……。
窓の外を眺めるシズフさんも、もしかしたら同じことを考えているのかも?
というか、ラウトとシズフさんがこんな状態なの、なんかヤバくない?
体を無理やり起こして、[索敵]範囲を超広範囲に広げる。
俺の今の限界は半径十キロ。
うーん?
今のところヤバめな感じは——あ?
「……?」
「ヒューバート様? どうかされたんですか?」
「……これ、早馬だ。南西方向から……」
「早馬ですか? なにかあったのでしょうか?」
「様子を見てこよう。我が魔力を喰らい、顕現せよ。[使い魔・デティー]」
『ギチチチィ!』
杖でトントンと魔力の塊を作り、現れたのは俺の使い魔。
名前はデティー。
ギギをモデルにした鷲の姿を模した使い魔である。
小ネタ
ランディ「それにしてもシズフ殿の戦闘能力には舌を巻いた。ラウトが騎士団で訓練していた頃も、こいつはなんなんだ、と思ったものだが……。まさか上には上がいるとはな」
デュレオ「あー、アスメジスア人とカネス・ヴィナティキ人は戦闘民族だから共和主義連合国の国民と違って、強化手術とかしなくても基本スペックが高いもんね」
ジェラルド「基本スペック?」
デュレオ「たとえばアスメジスア人とカネス・ヴィナティキ人、大和人の身長体重年齢性別がほぼ同じ人間が百メートル走したら、大和人はボロ負けする。そんくらい遺伝子レベルで優秀な人間が多いの。特にアスメジスア人は競争社会だから、よっぽどの社会不適合者でなければ適材適所で能力を伸ばせる。あの国はなんだかんだ、人間を進化させるのに適した国だったんだよねぇ」
ランディ「ラウトが10代半ばぐらいの頃、すでに剣も魔法も抜きん出ていたのはそういうことか」
デュレオ「そうそう。…………。いや、え? なんて? 10代半ば? 聞き間違い?」
ジェラルド「神様は年齢が自由自在なんだよ〜」
デュレオ「どゆこと?」