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きょうだい(4)

 

 騎士たちに取り継がれて、大聖殿の建物内に入る。

 案内役に出てきたのは神聖官と呼ばれる官。

 実は聖殿は昔、王家直属の機関だった。

 王家が聖女を育てる場所として作ったのだ。

 それがいつの間にか、聖殿を管理する者たちにより力を増し、権威を奪い、今のような形になったという。

 だから『官』とされるのはその名残。

 なんかもう、今では上が役職増やしすぎて変な宗教団体みたいになってるけどな。


「それで、本日はどのような御用向きでしょうか」


 応接間に入ると、神聖官が座る間も与えることなく話を振ってきた。

 わかってはいたけど舐められすぎではないか、王家。

 近衛騎士は王家直属なので「無礼な!」と剣の柄を握って叫ぶが、俺が手を上げると剣から手を離す。

 さすが、父と母の関係者は優秀だし俺の味方をしてくれる。


「わが婚約者のレナ・ヘムズリーに手紙を届けにきた。母から正式に王妃教育を開始したいという申し出だ」

「婚約者? ではまさかあなたが第一王子殿下ですかな?」

「そうだ」


 俺が肯定すると、居心地が悪そうな神聖官の男。

 まさか俺が直接出向いてくるとは思わなかったのだろう。


「王妃教育……お早くはありませんか?」

「早い? 聖殿の聖女教育には王妃教育と同じこーもくがあると聞いているぞ」

「え、あ、は、はい、まあそれは……」

「レナは未来の王妃。聖女としてもシュクジョとしても、多くのことを学んでもらわなければならない。聖殿のカリキュラムがあるのも“じゅうじゅう”しょーちしている。今日、レナを連れ帰れないのなら、聖殿が行っているカリキュラムを写させてほしい。こちらでレナのスケジュールをちょーせいさせてもらう」

「そ、それは、いや、さすがに……、……う、上の者に確認して参ります……」

「急いでくれ」


 なるほど、母の言う通りだった。

 聖殿は聖女成育を、ほぼ本人のやる気と自習に丸投げしている。

 国からは金を散々無心しているにも関わらず、だ。

 その上、聖殿上層部の中には無垢で無知な少女たちを騙し、間違った知識を植えつけ、自分達に絶対服従するように育てている、という噂もある。

 子どもの俺に明確なことを言う者はいないけど、そこまで聞いたら前世ラノベと異世界漫画漬けの俺は察してしまう。

 エロジジイども、聖女候補たちに手ェ出してやがるな!!

 そんなところにレナを置いておけるわけあるかよ!

 なにがなんでも今日! 連れて帰らねば!


「素晴らしい、堂々たる交渉です殿下!」

「このままレナを連れて帰れるだろうか?」

「聖殿が婚約者殿をどの程度重要視しているかによりますが、話を聞く限り聖殿は相当殿下を舐め腐っているようでしたから——」

「うん、そうだな」


 多分、母の言う通り連れてくる。

 王家に渡しても、痛くも痒くもない娘を選んだはずだから。


「お待たせしました。おい、さっさと来い」

「は、はい。あ、ヒューバート様!」

「レナ!」


 それから五分ばかり待つと、先程と同じ神聖官がレナを連れてきた。

 久しぶりに会えたのが嬉しくてソファーから立ち上がったが、彼女が着ているものがあまりにも質素な薄布で立ち上がりかけた格好のまま固まる。

 色々言いたいことはあるが、咄嗟に出た言葉は——。


「着て!」

「え?」

「薄い! 透けてる! なんだこのボロ布は! 風邪を引いたらどうするの! 結婚前のお嬢さんがそんなカッコしていいわけないだろう!」

「え、え?」


 自分の上着を脱いで、神聖官を無視し、レナに上着を着せた。

 え、えっちだー!

 えっちすぎる! いくら十歳にも満たない幼女だからと言って、俺の年齢だってまだ八歳でレナと同い年で子どもで、でも男で、前世は当然童貞で今世ももちろん童貞なのに、ピンクのちちちちちちちち…………言えねーーーー! が、うっすら見えたてもうえっちすぎるーーー!


「殿下! 鼻血が!」

「おれのしょうらいのおよめさんがすけべなかっこしてるー!」

「落ち着いてください、殿下!」

「殿下!」

「はわわわわわ」

「……え、ええと、では、あとのことはご自由になさってください」


 あからさまに面倒ごとを避けたい、って面してる神聖官に置き去りにされたレナ。

 荷物もなにも持たない彼女を不審に思い、一度落ち着いてから「レナの荷物は?」と聞いたら「特にないです」と答えられて頭を抱えた。

 特にないですって、なに。


「ふ、服や下着は?」

「聖殿からの支給になるので……」

「え? この間、着てたワンピースは?」

「あれも聖殿から借りたもので……」

「レナの実家、はくしゃく家だよね?」

「はい、でも……わたしの服はぜんぶ、義妹(いもうと)のものになったと聞いているので……」


 ゲロォ…………。


「王家に嫁ぐ令嬢が私物を持たないなんて……」

「まあ、いい。とにかくすぐに城に連れ帰ろう。母上に預ければ、よきにはからってくださる」

「そうですね」


 近衛騎士たちまでドン引きしている、レナの扱い。

 王妃教育が開始されると聞いて、レナもなんとなくやる気に満ちている。


「そ、そういえばヒューバート様、わたしが送ったお手紙は届きましたか?」

「え、もらっていない……。おれの送った手紙は、レナに届いてる?」

「……いただいておりません」


 やっぱりか聖殿このやろう!



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