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捕食者

 

 そう、それはまるで吸血鬼だ。

 しなびた男の体を、用済みとばかりに魔法を解いて地面に捨てる。

 心臓がバクバクと大きな音を立てた。

 ああ、あれは……ああいう目が“人間を餌としか思ってない目”なのか。


「助けてくれ! 助けてくれぇ!」

「エドワード様、助けてくださいぃ!」

「あ、あ……や、やめ、やめろ……」

「えぇ? 俺の指示でお前を操作してたヤツらよ? ほんとに助けたいの? 国を自分たちの思い通りにしようとしてた、反逆者なのに?」

「うっ……ぁ……」


 腰を抜かしたエドワード。

 そのエドワードを支えるスヴィアの、二人の絶望した表情。

 本当にただ利用されていただけのエドワード陣営。

 そうこうしてるうちに、三人目が頭を掴まれる。


「ああぁぁぁぁ! た、助けて! 助けてくれぇ! 嫌だ! 死にたくないぃ!」

「他人を食い物にしてるのは俺もお前らも一緒なのに、自分が食われる立場になるとみーんな嫌がるんだよねぇ? 不思議」

「ひぃっ、ひいいいい! 誰か助けてくれぇぇぇぇ!」

「や——やめなさい! やめなさいよ! 確かに悪いことをしていたのはワタシたちの方! でも、だからといってこんな見せしめみたいに殺すなんて!」


 叫んだのはスヴィア嬢。

 だがオズはスヴィア嬢の言葉などまるで聞いていない。

 あっさり頭を掴んでいた男の首に、歯を立てた。


「ぁ、あ……ぁぁぁ……ァ……」

「〜〜〜!」


 数秒で骨と皮になる男。

 こちらとしても、どうしよう。

 助けるべきなのだろうけど、こんなに恐ろしいと感じたことがない。

 吐きそう。

 人の形を模したなにかが、人を食う。

 それがこんなに気持ち悪いものとは思わなかった。


「ふぅ……だいぶマシになった。やっぱりお腹が空いてるのはよくないね。不味くても栄養は摂らないと」

「生きるのに積極的だな」

「ビームライフル直撃で細胞の一欠片も残らず消滅したはずなのに、復活した時はさすがに自分でも引いたからねぇ。千年間、結晶? の、中に閉じ込められてても全然精神崩壊もしないし、もう俺精神的に死ぬも諦めたわ」

「…………」

「そういうわけでシズフ、お前に俺は殺せない。色々試してくれてありがとう。他の国に行く手立てもできたし、しばらく身を隠したら別の国に行ってまた楽しませてもらうよ。ソーフトレスとコルテレだっけ? 戦争してるのは。今度はそこに行ってかき回してみようかなぁ」


 ——邪悪だ。

 心底、人間は“おもちゃ”なんだ。

 ソードリオ王に言ったことは本音だけど、俺は本当に世界平和なんて実現できるだろうか。

 人類がいまだに到達し得ない『世界平和』。

 こんなのが存在するのに、本当に甘いこと言ってたんだな……。

 でも、でも、諦めたくない。

 俺が死ななくて済む世界は、レナとディアスの理想の世界のはずだから。

 俺自身も見てみたい。

 ラウトにも見せてやりたい。

 人間同士が戦争しない世界。


「…………その前にこの国に蒔いた種も潰しておこうか。全然役に立たなかったけど、若いし食べたら美味しそうだな、って思ってたんだよね」

「っえ……あ……」

「! エド、逃げて!」


 オズが見下ろしたのはエドワード。

 スヴィア嬢が腰を抜かして動けなくなっているエドワードを、庇うように立ち上がる。

 ——この国の聖女が。

 あんな腰抜けを。

 吐きそう。おえ。ほんと無理。


「オ、オズ! もうやめてください!」

「おやおや、マロヌ姫。俺は自分で蒔いた種を回収するだけですよ? それに、エドワード王子が消えれば国は落ち着きます。なぜ庇うようなことを言うのです?」

「だ、だって、だって……い、いやだから……オズがひとを殺すの、いやだから……!」

「俺は元々人間を喰う生き物なのですよ。姫だって甘いケーキ好きでしょう? それと同じです。たまに美味しいものが食べたいな、ってことです」

「でも、だめです……だめ……!」


 首を横に振るマロヌ姫。

 浮いたままのオズが、同じく周りに浮かせていた四人目の男を引き寄せた。


「ひい!」

「それに、これらは謀反者です。国を混乱に陥れた犯罪者ですよ? まあ、唆したのは俺ですけど? 実行したのはこの者たちの意志ですから? 唆した俺が責任を持って食べてしまいましょうね、って話ですよ」

「い、いやだぁ! 助けて! お助けくださいマロヌ姫様!」

「人を食い物にし続けておいて、自分は食われたくないなんて、そんな考えは甘すぎますしね? まあ、俺の血肉は人間を喰うので食べた瞬間俺の一部になりますけどっと」

「ぎゃぁぁぁあ!!」

「ぐぁぁっ!」


 一気に二人の心臓を穿つ。

 引き抜くと、そのまま心臓の血を吸い出した。

 恐ろしくて体が震えて動かない。

 本能的なものだ、これは。

 完全なる“捕食者”を前にした、本能的恐怖……!

 だめだ、これは。

 このままでは。

 動かなければ……声を出さなければ。


 ——恐怖に呑まれる。


「わあああああっ!」

「エド! エド!」


 エドワードが浮かされる。

 スヴィア嬢が腕を捕まえて、エドワードがオズの方へ浮かぶのを阻止するけれど、同じように引き寄せられていく。

 持たない!


「エドを離して! エドは殺させない! ワタシのエドだからぁ!」

「スヴィア……!」

「オズ! もうやめてぇ!」


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