人外バトル(2)
オズの[ファイヤランス]にシズフさんが出した[ファイヤランス]をぶつけて相殺する。
どちらかというと若干威力で優ってるぞ。
嘘だろー!
「!」
そしてそのデカい隙を見逃すような人ではない。
魔法を使ってガラ空きになったオズの懐に、あっさりと潜り込む。
「しまっ——!」
顎への強烈なアッパー!
そして俺の見間違いでなければ、シズフさんの目の色が変わり、光った。
まただ。
あれ、どういう現象なんだ?
っていうか高い高い高い!
アッパーで五メートルぐらい飛んでない!?
相手は高身長の成人男性ですよ!?
「!?」
その高々飛んだオズの体を、二号機の手が掴む。
いつの間にか間近に来ていた。
からの血飛沫噴射。
容赦なく握り潰しやがった……!
「ぐ、ぅ、う……ほ、ホンットムカつく……! この程度で俺が死ぬわけないでしょ……!」
「——『死に方がわからない』か」
「そうだよ!」
ものすごい量の血を滴らせながらも、まだ笑ってるオズ。
その体を、地面に叩きつける二号機。
もうこれだけでもグロ映像!
なのに、さらにその上から蝿でも叩くように二号機の手がオズの体を押し潰す。
あぁ〜〜〜!
俺グロ耐性高くないのでほんとそろそろ許してほしい〜!
「っ……っていうか……どーなってんのこれ。登録者が乗ってなくても、ギア・フィーネって動くの……!?」
「ギア3に到達すると登録者の脳波である程度操れるようになる」
「クソクソクソ! ムカつくったらありゃしない!」
ギギギ、と血を噴き出しながら二号機の手を持ち上げるオズ。
嘘だろ、オズも身体強化魔法使ってない。
魔力の気配がしないんですが?
オズのあの地面に食い込むほどの足下。
からの二号機の手を持ち上げて、吹っ飛ばす膂力。
魔法使ってない?
あれで戦ってた?
どっちも怪物……!
「あークソ! 魔法初見コピーとかあり得なくない? これだからシズフはムカつくんだよ。欠陥まみれの劣化版生体兵器のクセにさぁ!」
鼻から口から血をピッ、ビュッと吹っ飛ばし、顎を殴って元の位置に戻すオズも十分おかしい。
もう誰も口を挟めない。
身体能力的には、多分シズフさんの方が強い。
オズはもう何回も死んでる。
死んでても生き返るから、体力的にはシズフさんの方が劣勢なんだろうか?
でもシズフさんが負けるところがもう、想像できない。
機体同士の戦闘でも、肉弾戦でも、シズフさんが強すぎる。
「…………」
文句をタラタラと言っていたオズが、不意に笑みを浮かべた。
シズフさんが目を細めて、一気に距離を詰めた時すかさず姿を消す。
どこへ、とオズの姿を探したらエドワードの部下をごっそりと五人も連れて[飛行]魔法で浮き上がっていた。
「な、なにをするぅ!」
「なにをするぅ、じゃ、ないよ。なぁに昼間に計画実行しちゃってんの? 普通こういうのは夜実行するもんでしょ? バカなの? おかげでまんまと失敗してくれちゃってさぁ」
「ひっ、ひぃ……」
は? なに?
なんだって? 聞き間違いか?
「まさか……引き入れたのはエドワードじゃなくて、お前が?」
「そんな……うそです! オズ!」
「あっははは! 嘘じゃありませんよぅ? 引き入れたのはエドワードですけど、エドワードにそうするようにこの者たちに策を授けて誘導はしましたねぇ?」
「っ!」
「オ、オズ……! お主……!」
じゃあ、エドワードがポンコツだったから失敗したけど、本来は夜に襲うつもりだったのか!?
それを提案して誘導したのがオズ!
完全な裏切り行為じゃねーか!
「相変わらず引っ掻き回すのが好きだな」
「えぇ? ミシアの時はお前だって自由になれたんだから、俺に感謝してもいいくらいじゃなーいー?」
「ぎゃぁぁぁっ!」
息を呑んだ。
レナは口を覆い、目を瞑る。
今までもかなりのグロ映像だったけど、オズは一緒に浮かした男の一人から心臓を取り出したのだ。
そのまま死体になった男への[飛行]魔法を解き、地面に叩きつける。
奪った心臓をどうするのかと思ったら、オズはそれを、口に含んだ。
じゅう、と音を立てて血を啜り、ぐしゃりと縮んだ心臓を地面に捨てる。
舌舐めずりまでして、「おっさんはいつの時代もあんまり美味しくないねぇ」などと笑いながら感想を言う。
……人ではない。
間違いなく、オズは人間ではない!
「に、人間の心臓を……食った……」
「ヒュ、ヒューバート……あのひと、人間を食べてるんだけど……」
「オズ……オズ……っどうして……!」
この衝撃映像ぶりには味方内に動揺が広がる。
餌食になっのはエドワードの兵だが、その食指がいつ此方に向けられるかわかったものではない。
魔法で迎撃しても、剣で斬っても、効果はない。
なぜならもう、少なくともシズフさんが四回は殺しているからだ。
不死の化け物。
そんなものが、この世に存在するなんて——!
「いやだあ! 助けてくれ……ぁぁああああああっ!」
「あーん」
「ぎゃあああああああぁっ!」
二人目の男は首筋に歯を突き立てられて、血を吸い上げられている。
瞬く間に干涸びて、骨と皮だけになった。
ものの数秒で……。
「っ……」
それはまるで——まるで
「吸血鬼……」