ハニュレオの王
しかし正体不明の新参者がそれほどまでに王と次期女王に重用されることを快く思わない貴族たちから反発は強い。
エドワードの周りに集まっていたのも、そういうやっかみを持つ貴族たち。
ある意味、今のハニュレオの分断はこの男が原因とも言える。
その元凶に、まさか真っ先に会えるとは。
「————」
「?」
しかし、男の視線がふと、俺を通り過ぎる。
扉が閉まる直前まで、オズは外の機体たちを見ていた、ような?
「ギア・フィーネがなにか?」
「ギア、フィーネ」
「ああ」
これは少し鎌をかけた。
表情全体はわからないが、一瞬笑みは消える。
しかし、すぐに最初と同じ、どことなく胡散臭い笑みを浮かべた。
「いえ、申し訳ありません。聞き覚えがあるような、見たことがあるような……奇妙な感覚を覚えまして」
「ん? どういうことだ?」
「実は、マロヌ姫に拾われる前の記憶が曖昧なのです。私はマロヌ姫に助けられるまで、結晶化した大地にいたらしいので」
「……!」
ラウトや、シズフさんと同じ、ということか?
まさか?
「……そ、うなのか……早く記憶が戻ると、いいな?」
「ふふ。戻らずとも、私はマロヌ姫に仕えることができて今が十分幸せでございます。さて、どうぞこちらへ。まずは応接室の方へご案内いたしますよ」
背丈は180センチくらい。
もう少し高いかもしれない。
黒を基調とした燕尾服。
しかし、バトラーのものとは少しデザインが異なる。
その曖昧さが、彼の立場を表しているようだ。
「ヒューバート様?」
「……いや、行こう」
レナが心配そうに見上げてくる。
安心させるように微笑みかけてから、少し、斜め後ろのジェラルドを見た。
青い髪。青……空のような、天色。
「……まさかな」
空のような天色の髪。
ギア・フィーネの名を聞き覚えがあり、ギア・フィーネの姿に見覚えがある。
結晶化した大地から助け出され、あらゆることに優秀。
そして、この地には最初から『エアーフリート』という、『ジークフリート』の母艦があるとされていた。
エアーフリートにはギア・フィーネ三号機が隠されている。
ジェラルドの先祖は三号機の登録者の姉。
ジェラルドは、三号機の登録者によく似ているらしい。
それこそ、髪の色も目の色も。
ただ、研究塔の地下の映像で聞いた声とは少し違うような気がする。
オズと名乗ったこの男も、非常に、それはもうタイプの違う腰抜けそうになるような非常にイイ声だが……三号機の登録者はもっとこう、男でも容赦なく耳を孕ませてくるような——そんなヤヴァ〜〜〜イ声だった。
やはり考えすぎだろうか……?
けどなぁ?
「こちらです」
「ああ、ありがとう」
まあ、ひとまず考えるのはあとにしよう。
彼の後ろについて入っただだっ広い応接室に通された。
俺たちを案内し終えたオズは、そのまま上座の方へと移動し、王と王女の横にと待機する。
それだけでこの男の地位の高さが窺えた。
護衛の意味もあるだろうが、あまりにも近い。
生まれも育ちもわからない、結晶化した大地から救い出された謎の男。
しかも顔の上部を隠す仮面。
それを横に置くほど、信頼を置いている。
もしかしてヤバい王なのかな、と少し心配したのだが——なるほど、ヤバい。
父上よりも、圧倒してくるオーラ。
エドワードのお付きが王気がどうのと言っていたが、これこそが王気ってやつかぁ。
ラウトやディアスと知り合いじゃなかったら、圧倒されてそう。
「よく来たものだ。まさか儂が生きている間に、他国より人が来るとは思わなんだ」
「お初にお目にかります、ソードリオ王。ルオートニス王国第一王子、ヒューバート・ルオートニスと申します。こちらは我が国の『王家の聖女』、レナ・ヘムズリー」
「初めまして、ソードリオ陛下。レナ・ヘムズリーと申します」
レナが丁寧に挨拶をして、ソードリオ王が椅子にかけるよう促す。
席に着くと、ソードリオ王は一口水を飲む。
「書簡の方、読ませてもらった。にわかには信じ難いが、貴殿らが儂の目の前にいることこそがその証明だろう」
「信じていたたけるのでしたら話は早くて助かりますが……ご希望になられるのでしたら、石晶巨兵の性能をご覧に入れることも吝かではございません」
「いや、よい。この歳になると出歩くのも大変でな……。その代わり、滞在中ぜひ石晶巨兵とやらの性能を娘に見せてやってほしい」
と、ソードリオ王が隣に座る幼女の背中に手を添える。
緊張で固まっていた幼女は、触れられてハッとしたのかその場に立ち上がり「ごあいさつがおくれました」と頭を下げた。
「マ、マロヌ・ハニュレオともうします」
「儂には子が二人おるが、この子を次期王とするよう話が進んでおる。儂になにかあった時は、このマロヌと話を進めてほしい」
「……。……その言い方ですと——」
俺の手紙の内容を、受け入れる。
そう言っているように聞こえるんだが。